第4話「はじめての『戦闘』」
剣を握ったその日から、少年の世界は変わった。
けれど“戦う”という現実は、想像よりもずっと重く、鋭く――時に残酷だ。
カイルの覚悟が、試される。
「――ってわけで、今日はお前にも来てもらう」
ガルドがぼそりとそう言ったのは、朝のギルド前だった。
「は?」
「Bランク依頼だ。鉱山付近の下見。まぁ、偵察だけだ。戦闘はしねぇ」
「偵察……」
「もし何かあったら、俺が片付ける。その代わり、お前は『生きて帰る方法』を考えろ」
初の“冒険”は、戦いの真似ごとですらないはずだった。
それでも、カイルは胸の奥で小さく震えていた。
鉱山跡は静かだった。風の音すら聞こえない。
だが、ガルドの目が一瞬で鋭くなる。
「来るぞ」
「……え?」
木の影から、異様な影が飛び出した。
鈍く光る体毛に、鋭い牙。
牙獣種――“クラッグウルフ”。
「っ、うわああっ!」
反射的にカイルは転がり、地面に伏せた。
剣を抜く暇もない。
牙が迫る――そのとき。
「はァッ!」
ガルドの剣が閃き、獣を一刀のもとに斬り伏せた。
黒い体が地に沈み、静寂が戻る。
カイルは、地面に座り込んだまま震えていた。
「カイル。見たか、あれが“死”だ」
「……!」
「俺がいなけりゃ、お前は死んでた。剣は飾りじゃねぇ。命を奪うためにある」
ガルドは、彼の目を見て言った。
「怖ぇか?」
「……こわい、よ。でも――」
カイルは立ち上がる。足は震えていたが、目だけは濁っていなかった。
「でも、逃げたくない。逃げたら、何も守れない」
「……そうか」
ガルドはそれだけ言い、何も言わずに歩き出す。
帰り道、夕陽の中。
カイルはまだ、震えていた。
けれど、その手にはしっかりと木剣が握られていた。
はじめての“戦闘”。
それは圧倒的な実力差と、“生きる/死ぬ”の現実を前にした洗礼でもありました。
カイルの心には今、確かな“恐怖”と、それに負けない“覚悟”が芽生えはじめています。
次回、第5話「誓いの夜と約束の剣」。
夜の焚き火、ガルドの過去、そしてカイルの胸に灯る“約束”の火。
少年の旅路が、少しずつ形を持ち始めます――。