第3話「鋼鉄の先輩と木剣と」
「強くなりたい」と願うのは、弱さを知った証。
戦いに立ち向かうために、カイルは一人の“師匠”に出会う。
その教えはシンプルで、容赦がなくて――でも、だからこそ心に残る。
「おい、ガキ」
カイルの頭に、何の前触れもなく木剣が落ちた。
ゴツン、と良い音がした。痛い。ものすごく。
「いってぇな!? 何すんだよ!」
「お前が頼んだんだろ。“強くなりたい”って」
声の主は、鉄仮面のような仏頂面をした男。名をガルド。
冒険者ギルドに所属する中堅の剣士で、バルクの旧友。
シェイドの紹介で「訓練をつけてやってくれ」と頼んだ結果が、これだった。
「俺が教えるのは、手加減なしだ。ついて来れなきゃ帰れ」
「……ぜってぇ帰らねぇ」
カイルは歯を食いしばった。まだ12歳の小さな身体で、大人の剣士に向き合う。
訓練初日、カイルは何度も転がされた。
木剣は重く、握る手はすぐに豆だらけ。
足ももつれ、反応も遅れる。
「立て。敵は待ってくれねぇぞ」
ガルドの言葉は冷たい。でも、そこには嘘がなかった。
本気で、カイルに“生き残る術”を教えようとしていた。
数日後――
「お前、ずいぶん足が動くようになったな」
「へっ……あんたの怒声が恐くて逃げてるだけだっつの」
「ハッ。褒め言葉と受け取っとくか」
カイルはもう、転ばない。
木剣も、少しは様になってきた。
だが、稽古の終わりにガルドはふと真顔で言った。
「カイル。お前、“殺す覚悟”はあるか」
「……っ」
「守るってのはな、結局“それ”と向き合うってことだ。いつか、選ばされるぞ」
訓練はそのまま終わりになった。
夕陽の中、カイルは手のひらの豆を見つめていた。
まだ“答え”は出なかった。
でも、強くなりたいという気持ちは、前よりもっと確かになっていた。
ガルドとの出会いは、カイルにとってターニングポイントのひとつ。
強さとは何か、守るとは何か。
その問いに答えを出すまで、彼は“ゼロ地点”から進み続けます。
次回、第4話「はじめての『戦闘』」。
小さな依頼のはずが、カイルの目の前に“魔物”が現れる。
逃げるのか、立ち向かうのか――少年の心に決断が迫られます。