第35話「クロノスの微笑」
ノアの命と引き換えに暴かれた“ゼロ・プロトコル”の真実。
だが、それはすべての序章にすぎなかった。
ギルドを裏で操る影、《クロノス》――その男が、ついに姿を現す。
ギルド本部に響く、魔導通信の警報。
「急報! 本部外縁部に所属不明の魔導機構が出現、施設の防衛結界が突破されました!」
カイルとリゼは、爆音とともに駆け出す。
「クロノスが来た……!」
ギルド塔の大ホール。そこに、静かに足音を響かせて入ってきた一人の男。
長い黒髪、無表情の仮面。そして、背中に刻まれた“000”のコード。
「ようやく来たか。ギルドの、末裔どもよ」
重力すら歪むような威圧感が、その場の空気を一瞬にして支配する。
「……貴様が、クロノス」
カイルが、殺気を込めて言い放つ。
「君の名は、幾度となく私の記録に現れた。興味深いね、“No.07”」
クロノスは仮面越しに微笑む。そこには、悪意も善意もない。ただの“観察者”の目だった。
リゼが叫ぶ。
「あなたのせいで、どれだけの子どもが傷ついたと思ってるの!?」
クロノスは、肩をすくめるように答えた。
「傷ついた? それは違う。“進化”だよ。君たちは人類の次段階を切り開く種。
悲劇でも奇跡でもない。これは、選別のプロセスにすぎない」
「ふざけるな……!」
カイルの剣が唸る。瞬時に詰め寄り、斬撃を浴びせる。
だが、クロノスは――消えていた。
「反応速度:旧型。感情の揺らぎ:大。やはり未完成だな、“07”」
その声は、すでにカイルの背後から聞こえていた。
刹那、カイルの背中に衝撃。魔力の壁が弾け飛び、カイルが吹き飛ぶ。
「カイルっ!!」
リゼが詠唱を開始するが、次の瞬間、彼女の足元に黒い魔法陣が浮かぶ。
「リゼ、逃げろ!」
カイルの叫びと同時に、リゼの身体が空中に持ち上がる。
クロノスの指が、静かに動く。
「適合率:92%。“彼女”の方がよほど完成されている」
カイルが血を吐きながら剣を突き立てる。
「やめろ……リゼに、触れるな!」
「では、証明してみせろ。君が本当に“特異点”なのかどうかを」
クロノスが右手を掲げた瞬間、床下から巨大な魔導柱が出現する。
それは、ゼロ・プロトコルの最終段階――**「融合実験」**の始動装置だった。
「今ここで、“最終進化”を試すとしよう。君たちの絆が、運命を超えるのか。見せてもらおうか、“カイル=スローン”」
ついに登場した黒幕・クロノス。
その目的は“次世代人類”の選別と融合。そして、カイルたちはその「実験素材」に過ぎなかった。
次回――第36話「共鳴する鼓動」
傷つきながらも立ち上がるカイル。彼の中で目覚める“真なる力”とは。




