第34話「真実の代償」
廃棄された研究施設から発信された“ゼロ・プロトコル”の極秘記録。
それは、ギルドの中枢すら震撼させる真実だった。
だが、それと引き換えに――ある者が“完全なる喪失”を迎える。
「記録、送信完了」
ノアが端末のキーを最後に押し込んだ瞬間、部屋中の照明が一斉に落ちた。
カイルとリゼは反射的に身構える。だが、ノアは静かに言った。
「――この場所の役目は終わった。今から、自動で“封鎖”が始まる」
廃棄施設全体が軋むような音を立てながら、セキュリティロックが作動する。
「ノアさん、早く脱出を――!」
「……いや、俺はここに残る」
カイルが目を見開く。
「何言ってるんですか!? 記録は送った、それで充分じゃ――」
「違う。俺はまだ、“ゼロ・プロトコル”と繋がってる。俺が生きている限り、あいつらは痕跡を追える。
だから……ここで、俺は終わらせる」
リゼが叫ぶ。
「でも、そんなの……! もう一度やり直せばいいじゃない! この世界には、あなたの居場所だって……!」
「優しいな。だが、それは君たちにこそあるものだ」
ノアは笑った。どこか、すべてを許したような、静かな微笑だった。
「俺の存在は“過去”そのものだ。だけど、君たちは“未来”だ。進め、カイル=スローン。
真実を暴いたその手で、“ゼロ・プロトコル”を終わらせろ」
カイルは何も言えなかった。ただ、その背に向けて――力強く、うなずいた。
扉が閉まり、施設が自壊を始める音が響いた。
その数時間後。ギルド中央本部。
緊急会議が開かれ、会議室の大型魔導スクリーンには、ノアが送信した記録映像が映し出されていた。
そこには、無数の被験体番号。人名。年齢。実験内容。
――そして、“適合者No.07:カイル=スローン”の名も。
沈黙が支配する中、一人の男が口を開いた。
「この記録は、本物と判断してよいか?」
「はい。映像、魔力反応、全データに改ざんの形跡なし。完全な内部記録と断定されます」
執政官たちの間に緊張が走る。
「この情報のリークが広まれば、ギルドの信頼は崩壊する。だが……もはや隠し通せる内容ではない」
「“ゼロ・プロトコル”の全記録を開示し、捜査委員会を設置。関係者を全て洗い出せ」
そう決まると同時に、あるコードネームが記された名簿が映し出される。
《管理No.000 創設者コードネーム:クロノス》
「……ついに出たな。“あの男”の名が」
一方、ギルドの裏側。漆黒の石室にて。
一人の男が、薄く笑った。
「やはり、ノアは最後まで義を貫いたか。だが――それで終わると、思ったか?」
その男は、銀の仮面を静かに外し、呟く。
「ようやく、舞台が整ったな。――カイル=スローン」
その声には、あらゆる感情を焼き払ったような、氷の響きがあった。
ノアが命と引き換えに暴いた“真実”。
その代償は、ギルド内部をも揺るがす激震となり、ついに“創設者”クロノスの名が明かされます。
物語はいよいよ核心へ。
次回、第35話「クロノスの微笑」――
表舞台に現れた黒幕との、最初の対決が始まります。




