第33話「存在しない真実」
命を懸けた戦いの果てに、カイルたちは“削除された冒険者”ノアと共に、迷宮の深層から脱出する。
だが、その先に待ち受けていたのは、より深い闇――ギルドが封印した、真実の断片だった。
「ここが……例の“封鎖区画”か」
ノアが古びた鉄扉を前に立ち止まった。
迷宮を抜け、地上に戻った彼らは、ノアの案内で“とある廃棄施設”に辿り着いた。
「これはギルドの記録には存在しない場所。表向きには、“存在しないこと”になってる」
リゼは不安げに扉を見つめる。
「でもどうしてここに……?」
ノアが静かに語り始めた。
「十年前、この施設は“適合者選定実験”のために使われていた。“コード適応体”を人工的に作り出すための、非公式な人体実験だ」
「そんな……!」
リゼが声を失う。
「ギルドが……人間でそんなことを……?」
「ギルドじゃない。“ゼロ・プロトコル”だよ。ギルドに巣食う、もう一つの意思。俺もここで実験体にされた」
ノアは胸元を開くと、そこに埋め込まれた黒い装置――魔導と機械の融合体を見せた。
「この中にある“コードデータ”が、俺を何度殺しても生かす。それが、ゼロ・プロトコルの《適応実験体》――“ノア・グラント”という存在の正体だ」
カイルは唇を噛みしめた。
「そんな過去を背負ってたなんて……でも、それでもあなたは今、生きてる」
「生きてるって言えるかどうかはわからない。でも俺は、過去の自分と向き合うためにここに来た」
ノアが扉を開けると、中には朽ちたモニター、錆びた手術台、散らばった記録媒体――
かつてここで何が行われていたのかを雄弁に物語るものが、確かに存在していた。
カイルが床に落ちたプレートを拾い上げる。
そこには、こう記されていた。
《ゼロ・プロトコル 適合者候補 No.07 被験体名:カイル=スローン》
「……え?」
一瞬、空気が凍りついた。
「まさか、俺が……?」
「君の名前が、記録にある……?」
リゼも驚愕する。
ノアが無言で他の端末にアクセスし、壊れかけのモニターにデータを映し出す。
「間違いない……君もこの計画に“候補者”としてマークされていた」
「どういうことだ……!? 俺は、ただの孤児院育ちの……!」
「それが偶然かどうかなんて、もう関係ない。ゼロ・プロトコルは“君の才能”を見抜いていた。
君も、俺と同じように、“生きるために選ばれた存在”だったんだ」
カイルは拳を握りしめる。
「じゃあ……俺が今ここにいるのも、ギルドの、あいつらの掌の上だっていうのか……!」
リゼが、彼の腕をそっと掴んだ。
「でも、あなたは自分の意志で戦ってきた。誰かに選ばれたからじゃない。自分の足でここまで来た。
それだけは、何があっても奪えない」
その言葉に、カイルはゆっくりと目を閉じる。
「……そうだな。過去がどうであっても、俺は俺だ。
ノアさん、この場所の記録――ギルドに公開する方法はあるか?」
ノアは一瞬だけ目を見開き、そして――うなずいた。
「ある。ただし、それをやれば俺は“完全に削除”される。今回のように、もう戻ってくることはできない」
「それでも……やる価値はある。誰かがこの記録を“知って”変えなきゃ、ずっと同じことが繰り返される」
ノアは微笑む。
「……君が、適合者でよかったよ。カイル=スローン」
廃棄された施設の奥――データを送信する端末が、最後の起動を開始する。
「さあ、覚悟を決めろ。ここからが、本当の戦いだ」
今回、カイルにまつわる衝撃の真実が明かされました。
彼自身もまた、“ゼロ・プロトコル”の影に選ばれた一人だったのです。
次回、**第34話「真実の代償」**では、ノアの決断と、公開された記録がギルドに与える波紋が描かれます。
そして“彼”――ゼロ・プロトコルの創設者が、ついに姿を現します。




