第31話「黒き標識(ブラックマーカー)」
カイルとリゼは、消息を絶った冒険者レオ・ウィンスレットの手記を発見し、ギルドの裏に潜む“何か”の存在を確信する。
深層へ進む中、二人は新たな痕跡と、ある「証人」との邂逅を果たす――。
「空気が……重いな」
地下迷宮のさらに深い層――湿った石壁には、見慣れない記号が描かれていた。
黒いインクで塗りつぶされたような、円と直線の組み合わせ。まるで“何か”を封印するような図形だった。
「これ……あの手記にあった“マーカー”と同じものじゃない?」
リゼが手記の挿絵を照らし合わせる。確かに同じ記号が、そこにも記されていた。
「“ブラックマーカー”。ギルド内でも存在を禁じられた印……らしいな」
「つまり、それを使ってる連中が、レオを“消した”可能性があるってことよね」
道を進むたびに、黒い標識が増えていく。
やがて、その奥で――
「……誰か、いる」
カイルが足を止めた先に、フードを被った人物がいた。片腕を失い、もう片方の手には古びた杖を握っている。
目の前に現れたのは、ギルドでも長年行方不明とされていた元・上級冒険者――
「ノア・グラント……!」
その名に、リゼが思わず息を呑んだ。
記録上はすでに“死亡扱い”となっていた人物。だが彼は、確かに生きていた。
「お前たちも、“あのコード”に引かれたか」
声は枯れていたが、瞳には静かな力が宿っていた。
「レオ・ウィンスレットを知っているか?」
カイルが一歩踏み出す。ノアはわずかにうなずいた。
「あの男は真実に近づきすぎた。俺もそうだった」
ノアが杖をつき、壁に描かれた“マーカー”を指さす。
「これを使って情報を“隠す”んだ。地図、記録、記憶――あらゆる“存在証明”が、ギルドの情報網から消される」
「まるで……世界そのものから存在を削除するみたいな……」
リゼの声が震える。
「それを実行できる連中が、ギルドの奥にいる。コード名は、“ゼロ・プロトコル”」
その名前に、カイルの鼓動が強くなった。
かつて、師匠から聞いた“都市の深層で動く影”。表には出ない“粛清の手”。
「やっぱり……ギルドの中に、もうひとつの“組織”があるんだな」
ノアがうなずく。
「俺は、そいつらから逃げてここに潜んでいた。だがもう……」
その言葉にかぶさるように、地響きが鳴った。
「――来たか。連中の“追跡者”だ。お前たち、覚悟しろ」
迷宮の闇の向こうで、甲高い金属音と共に、数体の“無機質な兵士”が姿を現す。
「これが……ゼロ・プロトコルの兵器……!」
カイルは槍を構え、ノアと背中を合わせた。
「逃げ道はない。ここで生き残るぞ!」
黒き印が導く戦場で、再び刃が交錯する――!
今回は、ギルドの“裏”に潜む組織「ゼロ・プロトコル」の名前がついに登場しました。
また、“削除された冒険者”ノアの存在が、レオの運命にも繋がってきます。
次回は 第32話「忘れられた者たちの戦場」。
敵との激戦と、ノアが残した“鍵”――カイルとリゼは運命の境界に踏み込んでいきます。




