第30話「特務任務・境界区域コード47」
ギルド中枢から与えられた新たな任務は、未知の領域への扉を開く“鍵”となるものだった。
そしてその地には、過去に“行方不明”となった冒険者の記録が――。
境界区域コード47――それは、公式の地図には存在しない“隠された場所”だった。
「地上では廃坑扱いされてるけど、地下に続く複数の空洞があるらしいわ」
リゼが持ち出した古文書の写しを、カイルが覗き込む。
「この記録……五年前のものか。消えた冒険者の名前は?」
「――“レオ・ウィンスレット”」
「……!」
その名を聞いたとき、カイルの脳裏にひとつの記憶がよぎった。
炎をまとう長剣。屈託のない笑顔。そして、誰よりも正義を信じていた背中。
「彼は、僕が冒険者を目指すきっかけになった人だ」
リゼが少し驚いたように眉を上げる。
「個人的な関係もあったのね」
「……恩人だよ。何があっても見つけ出す」
境界区域コード47――そこは、地層の崩壊によって閉ざされた迷宮のような構造になっていた。
「まるで“地下都市”だな……」
瓦礫と金属片が入り混じった通路を、二人は慎重に進む。
突如、耳障りな金属音と共に、崩れた柱の影から飛び出してきたのは――異形の機械生命体だった。
「こっちも歓迎されてないみたいね!」
リゼの呪弾が光の軌跡を描き、敵の装甲を削り取る。
カイルは敵の間合いに入り込み、スピアを突き刺す――が。
「硬い……! これは、旧世界の兵装か?」
「防御よりも、装置を狙って!」
リゼの指示で、カイルが胸部の制御核を狙う。
鋭く貫かれたコアが爆ぜ、敵はその場に崩れた。
「はぁ……っ。何でこんな旧型がここに……」
「レオが行方不明になった場所だ。偶然じゃない」
そして、奥に進んだ先――そこには、小型のシェルターのような区画があった。
扉は半開きで、内部には生活の痕跡と、手記の束が残されていた。
「……これ、レオの……」
カイルが手に取った紙に、震える文字が刻まれていた。
《……“彼ら”は、僕の脱出を許さなかった。これはギルドの意志じゃない。“裏のコード”が動いている……》
「……“裏のコード”? ギルドの意思じゃないって、どういう……」
リゼの表情が険しくなる。
「内部に、情報を操作している“別の勢力”がいるってこと?」
カイルが、ゆっくりと頷いた。
「そしてそれが、レオの消息を消した」
二人は黙って、手記の最後の一枚に目を通す。
《誰かが読むことを願って書く。この都市に、“真の自由”が戻る日を、信じている》
カイルが拳を握る。
「レオは生きている……。そんな気がする」
「信じるしかないわね。じゃないと、この先に進めない」
迷宮の奥、さらに深く続く道の先に、答えはあるのだろうか。
そして、その先にはどんな“闇”が待っているのか――。
今回は、カイルにとって大きな影響を与えた人物“レオ・ウィンスレット”の痕跡を追う回でした。
ギルドの裏、異形の技術、消された冒険者たち……陰謀の輪郭が少しずつ見え始めます。
次回は 第31話「黒き標識」。
コード47の地下迷宮のさらに深部で、二人は“過去からの証人”と出会う――。




