第29話「ギルド評議会の招集」
旧ギルドでの異形との遭遇は、カイルたちの世界をまた一歩、深く鋭く切り裂いた。
その余波は、ギルド中枢部――“評議会”にまで届き、静かに新たな局面を迎えようとしていた。
「……君たちは、旧ギルドの封鎖を無断で解除した」
ギルド本部の中でも、もっとも格式と緊張感のある円卓の間。
石造りの空間には、7人の評議員と、報告に呼び出されたカイルとリゼの姿があった。
「無断というより、必要な判断でした」
カイルは静かに返す。
「旧区画に異形が潜んでいた事実は、今後の都市防衛にも関わります」
「確かに、旧ギルド兵の起動は深刻な事態だ……だが」
一人の評議員が目を細める。
「問題は、それを“破壊”してしまったことだ」
リゼが一歩踏み出す。
「彼は明らかに暴走していました。放っておけば都市に被害が出ていたはずです」
沈黙が流れる。
そして――中央の議長席に座る初老の男、カイン・アーセナルが口を開いた。
「カイル・スローン。リゼ・フェルナンド。君たちの行動は、結果的に正しかった」
「議長……!」
「だが、それでも君たちは“境界線”を越えた」
カイルが、眉を寄せる。
「境界線、とは……?」
「ギルドの“表”と“裏”だ。すべての冒険者に明かされるわけではない、暗部の存在」
カイルとリゼが息をのむ。
「異形コード88――彼は、かつてのSランク冒険者であり、“実験体”でもあった」
「……!」
「ギルドの中には、“進化”を強制しようとした連中がいた。君たちは、その爪痕を踏んだ」
議長がゆっくりと立ち上がる。
「だからこそ……君たちには、選んでもらう」
「選ぶ……?」
「真実を知る覚悟があるかどうか。そして、ギルドの“外”と“裏”の任務に関わる覚悟があるか――だ」
その言葉に、カイルの眼が鋭く光る。
「……もちろんです。僕はもう、見てしまった」
リゼも力強く頷く。
「私も。逃げない。全部を知って、ちゃんと戦う」
議長はわずかに頷くと、手元の印章を押し、彼らのギルドIDに上位認証を追加した。
「君たちのランクは……“コード・アクセス認証者”に引き上げられる。以後、機密区域への立ち入りを許可する」
「……! それって……!」
「そうだ。君たちはもう、“ただの冒険者”ではない」
ギルドの深層に蠢く影と向き合うことになるカイルとリゼ。
物語は、さらに核心へ――。
ギルドの“裏側”が少しずつ姿を現し始めた第29話。
今回から、表の冒険だけでなく、組織の腐敗や過去の罪など、重厚なテーマも描かれていきます。
次回は 第30話「特務任務・境界区域コード47」。
カイルとリゼに与えられた新たな任務は、かつて失われた“もう一人の冒険者”を探すこと。




