第2話「初めての『依頼』」
冒険者になる前に、“冒険”の形を知ることになる。
カイルの前に現れたのは、まだ経験の浅い冒険者――そして初めての“任務”。
剣も魔法も必要ない。ただ、誰かの役に立つこと。
その重さに、彼は初めて触れる。
「カイルって子、君?」
昼下がりの井戸端で水を汲んでいたカイルに、背の高い男が声をかけてきた。
革鎧を身にまとい、腰には小太刀。年は……17か18くらい。カイルより5つは年上だった。
「俺はシェイド。冒険者ギルドの“新人”だ。君にちょっと、手を貸してほしくて来た」
「ぼ、冒険者!? なんで俺なんかに……」
「バルクに紹介された。『最近、やる気のあるガキがいる』ってな」
唐突な依頼の内容は、村から北東に少し行った廃屋の調査だった。
誰も住んでいないはずの家に、最近明かりが灯ったという噂がある。
ギルドとしてはランクFの簡単な調査だが、一人で行くには少し不安。
そこで地理に明るい地元の少年――カイルの出番だった。
「こ、怖くねぇし。別に俺、逃げたりしねぇし!」
言ってから少し後悔した。心臓がドキドキしていた。
でも、カイルはそれを押し殺すように、拳を握った。
廃屋までは小一時間の道のり。
道中、シェイドは冒険者という仕事のことを話してくれた。
「戦うことだけが冒険じゃない。荷物運び、護衛、調査。誰かが困ってることを片付けるのが冒険者さ」
「ふ、ふぅん……そっか」
「だから、君も今日、立派な“冒険者の助手”だよ」
その言葉は、思った以上にカイルの胸に響いた。
廃屋は古びていたが、確かに誰かが最近出入りした痕跡があった。
薪が新しく、窓のひとつには布がかけられていた。
だが、中にいたのは――子連れの逃亡者だった。
「お願いです、通報しないで……!」
子どもを抱いた若い女性。追われていた理由は、盗みだった。
だが盗んだものは――パンひとつ。
飢えていたのだ。
「……シェイドさん、どうすんだよ、これ」
「……これは俺がギルドに報告する。君は何も見なかったってことでいい」
それが“処理”というやつだった。
現実は、綺麗事じゃない。でも、あの子どもの涙は嘘じゃない。
帰り道、カイルは口を噤んだままだった。
シェイドは優しく笑って言った。
「お前は、いい目をしてる。俺より、よっぽど冒険者向きかもな」
「……そんな簡単に言うなよ」
でも心の中には、小さな灯が灯っていた。
「冒険者」という言葉に、少しだけ本気になれた気がした。
カイルの“初仕事”は、戦いも魔法もない。
でも、**「選ぶこと」**の重さを知った経験は、彼の中で確かに生きていきます。
現実の中の冒険、それが彼の「ゼロ・プロトコル」の始まりです。
次回、第3話「鋼鉄の先輩と木剣と」。
バルクの紹介で、カイルは初めて“戦う訓練”に臨むことに。
相手はとんでもなく厳しい鉄仮面の剣士――
カイルの根性が試されます。