第25話「見知らぬ街の異邦人」
ガルドと別れ、一人旅に出たカイル。
初めての単独行動。向かった先は、名も知らぬ街――そこで待っていたのは、出会いか、それとも試練か。
石畳の道を、カイルはひとり歩いていた。
陽は西に傾きはじめ、街の輪郭を金色に染めている。
見渡せば、活気あふれる商人、騒がしく笑い合う子どもたち、食堂から漂う香ばしい匂い――
だが、それらすべてがどこか、遠い。
「……やっぱり、一人ってのは、ちょっと違うな」
ぼそりと呟く声に応える者はいない。
この街――フィローネ。
交易で栄える中規模の町で、冒険者ギルドの支部もある。
立ち寄ったのは、ギルドカードの更新と、仕事探しのためだ。
ギルドで掲示板を眺める。
『迷い子の捜索』『倉庫整理』『モンスターの巣穴封鎖』
どれも報酬は少ないが、今の自分にできそうなものばかりだった。
「……とりあえず、手を動かすしかないか」
そう思って立ち上がろうとした時、声がかかった。
「初めての街で迷ってる顔って、わかりやすいのね」
振り向けば、そこに立っていたのは――
ショートカットに濃紺のマント、腰に細身の剣を下げた少女だった。
年は自分と同じくらいか、少し下か。
だがその眼は、探るように鋭い。
「……いや、別に迷ってるわけじゃ」
「ほんとに? じゃあ“今の自分にできそうな仕事”を選ぼうとしてたでしょ?」
カイルは目を見開いた。見透かされている。
少女は掲示板を指差す。
「そんな姿勢じゃ、いつまでたっても駆け出しのまま。もっと"やりたい仕事"を探しなさいよ」
「……正論だな」
「でしょ? あたしも、最初はそうだったから」
彼女は微笑んだ。ようやく、警戒が解ける。
「リゼ・アルヴァ。あんたは?」
「カイル・スローン。旅の冒険者だ」
「ふーん……じゃあ、ちょっと面白い依頼に付き合わない?」
「面白い依頼?」
リゼはちら、と掲示板の奥、ひときわ古びた張り紙を指さした。
そこにはこう書かれていた。
『旧地下水路に出没する“音を吸う魔物”の調査』
報酬:交渉次第
危険度:C(調査対象のため変動あり)
「正直、腕試しにはちょうどいいと思うわよ? ビビって逃げてもいいけど」
「面白そうじゃん」
カイルは笑った。
少女は挑むように笑い返す。
こうして、少年は再び“誰かと並んで”歩き出す。
それが、予想もしなかった運命の分岐点だとも知らずに――
新たな街、新たな仲間――そして、新たな依頼。
リゼという少女との出会いが、カイルの旅を再び色付けていきます。
次回、「地下水路の音なき獣」。
少年と少女の初任務、始まります!




