第22話:「修行のはじまり、筋肉痛との戦い」
戦う力は、地味な積み重ねから育つ。
今回は、カイルが“冒険者らしくなる”ための第一歩、筋肉と格闘する日々の幕開けです。
「うぉあああああああああっ!!」
森の中、朝もやを割る叫び声。
それは修行2日目、カイルの声である。
「もう……ムリ……! 肩が……肩が上がらねえ……!」
地面に突っ伏したカイルの背中を、ガルドの声が優しく――だが無慈悲に突き刺す。
「ふむ、いい調子だな。なら、次は切り株50回跳びな」
「殺す気かッ!!」
「おう。殺さない程度に、な」
そんな言葉に、カイルは本気で泣きそうだった。
***
修行の内容は、はっきり言って“地味”だった。
切り株跳び、丸太担ぎ、斧振り素振り100回、そしてガルド特製の「高タンパク雑草鍋」。
「冒険者はまず体力! 技なんてな、身体があってこそだ!」
「それはわかったけど、草の鍋はやめろォ……!」
ちなみに、鍋はカイルの手でこっそり改良されていく。少しずつ、着実に。
***
1週間が過ぎた頃。カイルの体に、わずかだが変化が出始めていた。
腕の重み。足の反応。疲労の抜け方――。
「お、少し走るの速くなったか?」
ガルドのひとことが、カイルには何より嬉しかった。
「……へへっ。まあな」
「その調子だ。明日は、山越えだ」
「……え、今なんつった?」
「山・越・え。頂上まで競走な」
「悪魔め……!」
カイルは絶望を噛みしめながらも、なぜか心は軽かった。
目標があって、誰かがいて、自分が前に進んでいる。
あの、孤独だった日々から、少しだけ遠ざかれた気がした。
***
夜。焚き火の明かりの中で、ガルドがふと口にした。
「お前、本当に強くなりたいんだな」
「……当たり前だろ。あいつらに、追いつきたい」
「“あいつら”?」
「……昔、一緒にいた奴らがいる。強くて、優しくて。俺は……俺だけ何もできなかったんだ」
カイルはぽつりと語った。
「だから、今度こそは。誰かを守れるくらい、強くなりたいんだ」
ガルドはしばらく黙っていたが、やがて言った。
「――いい目してる。なら、お前はきっと、なるぞ。最強の相棒にな」
カイルは照れくさそうに笑いながら、小さくうなずいた。
火の粉が舞い、静かに星がまたたく。
新たな力は、静かに芽吹き始めていた――。
今回は“筋肉と絆”がテーマ(?)の修行回でした。
地味だけど、強くなるためには必要な日々。カイルにとって、ガルドとのこの時間は一生の宝物になるでしょう。
次回、第23話「初任務、森に潜む盗賊団」では、いよいよ実戦へ。
カイルとガルドの初めての共闘任務、はたしてどうなるのか?お楽しみに!




