表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コードの向こう側 -Zero Protocol-  作者: たむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/43

第19話:「雨の森と、少年の祈り」

人は過去に何を置いてきたのか。

そして、そこに置いてきた何かが、自分をどう形作っているのか。

今回は、カイルが出会う“誰かの過去”と、自らの未来を見つめる回です。

雨が降り続いていた。


静かに、しとしとと──まるで森全体が泣いているような雨だった。


依頼は「行方不明の少年の捜索」。

場所は、モルドの森。かつて“魔物の目撃情報が相次いだ”とされる旧域だ。


「大雨警報、出てるんじゃ……」


レナが呟いたが、アレックは首を振る。


「向こうに親が待ってる。こういうのは、早いほうがいい」


頷き合い、三人は森の中へ足を踏み入れる。


 


***


 


少年が最後に目撃されたのは、森の奥にある“祈りの祠”だった。


「なんでこんなところに……?」


カイルが疑問を漏らした瞬間、何かが落ち葉を踏みしめる音がした。


「だ、誰かいるの?」


レナが声を上げると、朽ちた石の影から、ひとりの少年が姿を現した。


「……来ちゃだめだ。ここ、祈ってるの」


泥だらけの顔に、まっすぐな瞳。


カイルはゆっくりと近づき、しゃがみこんだ。


「誰のために祈ってるんだ?」


「お母さん。……いなくなったけど、もしかしたら、って」


その声は、希望と諦めの狭間にあった。


カイルはふと、かつて自分が雨の中で剣を拾い上げた日を思い出す。

あの日、彼もまた、ひとりで誰かのことを想っていた。


「一緒に帰ろう。君の“祈り”は、ちゃんと届いてると思うから」


少年はしばらく黙っていたが、やがて、小さく頷いた。


 


***


 


森を出たころには、雨は止んでいた。


少年を抱きしめる母の姿を見て、レナがぽつりと呟く。


「誰かのために祈る気持ちって、あったかいね」


アレックが冗談っぽく言った。


「カイルも祈ってたか? “俺が世界一強くなりますように”って」


「……してないよ」


「じゃあ、“レナにもっと優しくされますように”?」


「それはしてないってば!」


笑い声が響く。そこには、確かに“今”があった。


カイルは静かに空を見上げた。


“祈り”は、時に誰かを導く。


そして自分もまた、誰かのために祈れるように──

少しずつ、歩き出している気がした。

今回は“人の心”に触れる回でした。

カイルたちが出会った少年の純粋な想いと、それに応えようとする姿勢。

少しずつ、彼も“誰かを守る冒険者”として成長してきています。


次回、第20話「組織の影、黒い羽根フェザー」では、少しハードな展開へ。

カイルの過去と、ある因縁が明らかになります。どうぞお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ