第17話:「ガルドの過去、剣士の選択」
“導く者”であり“過去を背負う者”──ガルド・クローヴァの真実。
カイルたちの実力が徐々に認められるなか、彼は過去に起きた“ある事件”と向き合っていた。
そしてそれは、カイルにもまた一つの“選択”を突きつけることとなる。
「──今夜、少し付き合え」
夕暮れのギルドの裏手で、ガルドはカイルを呼び止めた。
「レナとアレックはどうするんですか?」
「今回はお前だけでいい。……見せたいものがある」
それは“依頼”でもなければ、“訓練”でもなかった。
もっと、重く、深い何か──そうカイルは直感していた。
***
連れられてきたのは、郊外の廃教会。
石造りの壁には苔が生え、天井のステンドグラスは割れていた。
だが、そこにはかつて、戦いの痕跡が確かに刻まれていた。
「……ここで、何があったんですか?」
ガルドは、静かに答えた。
「俺の仲間が死んだ。八年前、ギルドの裏仕事として行った討伐依頼のときだ」
彼の語る声には、怒りでも涙でもない。
ただ、冷たい記憶があった。
「相手は、冒険者を装った“人間狩り”の一団だった。力ある冒険者を試すように殺し、記録していた。仲間を一人、俺は……止められなかった」
カイルは息をのんだ。
「俺は、そいつを殺した。生き残ったのは俺だけだった」
教会の壁に刺さったままの短剣。
それは“過去”の象徴であり、決して癒えぬ痛みだった。
「カイル──お前が、もし仲間を守れなかったとき。自分が、生き残ったとき。どうする?」
問いは、静かに刃となって刺さる。
カイルは拳を握った。
「……絶対に、守れるようになります。生き残って、意味のある剣になります」
その言葉に、ガルドは初めて微笑んだように見えた。
「なら、選べ。“生きる”剣か、“奪う”剣か──」
ガルドは背中から一本の細身の剣を取り出した。
「これは、俺が使っていた片手剣だ。もう必要ない。お前が受け取れ」
震える手でカイルはそれを受け取る。重さは、重みだった。
技術でも、力でもなく、“想い”が詰まった剣──
***
その夜、カイルは一人で剣を構え続けた。
何度も、何度も、構えを繰り返す。
「俺は、生きるために振るう。仲間と、生き抜くために──」
決意は刃となり、夜の闇を切り裂いた。
今回は、カイルの師であるガルドの過去と、彼が背負ってきたものに触れる回でした。
静かな夜の中で交わされる対話と、それに込められた“剣の意味”が、カイルにとって次の成長の一歩になります。
次回、第18話「揺れる信頼、そして再び」では、レナとアレックとの関係に小さな波が訪れます。
チームの成長の過程には、必ず“衝突”がある──そんな物語です。どうぞお楽しみに!




