第15話:「ガルドの教えと、足りないもの」
初めてのパーティー依頼を無事にこなしたカイル。
けれど、その戦いのあと、彼の胸には小さな違和感が残っていた。
それは「勝てた」からこそ気づく、足りない“何か”だった──
「……あのとき、もう少し冷静に動けていれば……」
帰路についたカイルは、ギルドの休憩室でぼんやりと椅子に座っていた。
依頼は成功。報酬も支払われ、チームとしても上々の滑り出しだった。
けれど、どうしても気になる場面があった。
敵を斃したとき、レナが自分の後ろで一瞬だけ回避行動を取っていたのだ。
──自分が獣の注意を引ききれていなかった。
「あれがもっと凶暴な獣だったら、レナは怪我をしていたかもしれない」
「そうだな」
声をかけてきたのはガルドだった。
いつの間にか隣に座っていた彼は、ゆっくりと腕を組む。
「戦いの流れを見る限り、連携は悪くなかった。が、気配の読みと意識の配分、特に“視野の取り方”はまだまだ未熟だな」
「……はい」
ガルドは淡々と続けた。
「カイル。お前は目の前の相手に集中しすぎる癖がある。相手の体勢、足元、味方の位置……それらを一瞬で把握できる“余裕”を、戦いの中に持て」
「余裕……ですか」
「そのためにはまず、“立ち方”を変えろ。剣を構える前から、勝負は始まっている」
ガルドはカイルの立ち上がる姿を見て、ニヤリと笑った。
「明日からは、少し稽古の内容を変える。嫌とは言わせんぞ」
「はいっ!」
その返事には、少しだけ“悔しさ”と“希望”が混じっていた。
──勝つための一歩じゃない。
仲間を守るための、冒険者としての“基礎”だった。
次の日から、ガルドの指導は一段と厳しくなった。
特に取り組んだのは“視線の移し方”と“敵の動きの予測”。
さらには、木刀を持たず、素手で動きを真似る“型の反復”が続いた。
「戦いは力じゃねぇ。冷静さだ。焦るな、感じろ」
何十回も繰り返される基本。
だがカイルは、以前の自分よりも深く、身体と頭でそれを吸収し始めていた。
夕暮れの道。
稽古を終え、汗だくのまま空を見上げるカイルの隣で、ガルドがぽつりと言った。
「……昔の俺に、少し似てきたな」
「えっ?」
「なんでもない。さ、帰るぞ」
ガルドの背中を追いながら、カイルは小さく笑った。
今回は、カイルが“勝利のあと”に見えた課題と、それを糧に新たな成長を始めるお話でした。
戦いの本質は「斬る」ことではなく「生き残る」こと、そして「守る」こと。
それを教えるガルドの指導にも、どこか過去の自分を重ねるような想いがあるようです。
次回、第16話「レナの弓、アレックの剣」では、カイルが仲間たちと再びチームを組み、それぞれの“得意”と“弱点”を知ることになります。
“個”ではなく“連携”の難しさと面白さに触れる回です。どうぞお楽しみに!




