第13話:「はじまりの鍛錬」
イノウルフとの初戦。そして、ベテラン冒険者・ガルドとの出会い。
命のやり取りを経て、カイルは自分の未熟さを痛感します。
そんな彼に、ガルドが示したのは「本当の鍛錬」のはじまりでした。
「――で、今日から毎朝、ここで鍛錬な」
広場の隅。まだ日も昇りきらない時間。
街は寝静まっているというのに、そこには木刀を構えたガルドと、眠そうな目をこすりながら立つカイルの姿があった。
「ちょっと待ってくださいよ。昨日、任務の報告で遅くまで……」
「だったら鍛錬を断るか?」
「いや、それは……したいです……」
「なら文句言わず立て。眠気は剣で叩き起こせ」
「鬼教官か……!」
カイルが泣きそうな顔をした時、木刀が唸りを上げて飛んできた。反射的に受け止める――が、衝撃は予想以上。
「っぐ……」
「腕力だけじゃダメだ。力を逃がせ、肩で止めるな。腰で受けろ」
「無茶言うなぁ……!」
数合交わしただけで、すでに腕がパンパンだった。
ガルドの攻撃は容赦ない。しかし、ただ厳しいだけではなかった。
彼は毎回、攻撃の意図や動きの理由を口で説明し、カイルの改善点を明確に示した。
「お前の剣はな、素直すぎる。一本調子ってやつだ。強い斬撃より、“読まれない動き”を意識しろ」
「……それって、頭使えってことですか?」
「使え、全力でな。じゃないと、現場じゃ死ぬぞ」
その言葉には重みがあった。
昨日のイノウルフとの戦いを思い出す。あのとき、自分は剣を振るうことしか考えていなかった。
(……勝ちたかっただけ、だった)
けれど、ガルドの言葉で思い知る。
勝つだけでは、駄目なのだ。
「生き残るために、考えて動く」――それが、冒険者の基礎。
やがて朝陽が差し始め、訓練を終えたカイルは、倒れこむように腰をついた。
「……ガルドさん、こんなこと毎朝やってるんですか?」
「俺はもっとやってたな。だがまあ、お前は始めたばっかだからそれでいい」
ガルドは水筒を投げて寄越す。受け取ったカイルが一口飲み、呼吸を整える。
「正直、きついです。でも……やらなきゃって思いました」
「いい心構えだ。その調子なら、近いうちに“本番”にも連れていける」
「本番……?」
「討伐だよ、依頼の。もう少し鍛えたらな」
それは、明確な“成長の証”だった。
カイルは顔を上げる。
「……お願いします、もっと教えてください!」
ガルドは口元を緩めて笑うと、木刀を肩に担ぎ、広場をあとにした。
「明日は筋肉痛で死ぬだろうが、それでも来いよ。サボったら、倍な」
「そ、それは勘弁してください……!」
カイルの叫びが、朝の空に響いた。
今回は“鍛錬編”の幕開けとなる回でした。
カイルは、今までの自己流から一歩進み、戦うための「知恵」と「姿勢」を学び始めます。
ガルドという先輩の存在が、彼の成長をどう導いていくのか。
そして「本番」の任務で、彼は何をつかむのか──。
次回、第14話「初めてのパーティー依頼」にて、カイルの新たな冒険が始まります。
どうぞご期待ください!




