第12話:「巡回任務とギルドの洗礼」
ついに冒険者としてギルドに登録したカイル。
期待と緊張を胸に、初任務へと向かいます。
しかし、それは華やかな冒険などではなく、地味で堅実な「日常の安全」を守るための仕事でした。
これは、少年が“現実”に直面し、地に足をつけ始める物語です。
ギルドの掲示板には、ありとあらゆる依頼が貼られていた。
モンスター討伐、薬草採取、迷子の捜索、配達、飼い犬の世話──。
その中で、受付嬢のルティアがカイルに手渡したのは「街外れの巡回任務」だった。
「簡単だけど、足腰は使うわよ。慣らしにはちょうどいいかもね」
地図と任務証を受け取ったカイルは、軽く礼を言って外へ出た。
――目指すは、街から約5キロ離れた林道。
日差しは高く、空は青い。けれど、その下を歩く足取りは決して軽くなかった。
「……思ってたよりも、しんどいな」
歩くこと自体は慣れている。だが、街道を挟んで左右に民家が並び、馬車や人通りもあるこの環境は、田舎育ちのカイルにはやけに疲れるものだった。
午前中のうちに第一ポイントの見回りを終え、昼には水筒を傾けながら一息つく。
だが――
「うわっ……こりゃ……」
次の監視ポイントで、彼は“それ”を見つけてしまった。
罠のように崩れた柵。血のついた木の皮。そして、かすかに残る獣臭。
「これって……」
直感が、何かがおかしいと告げていた。
彼は剣の柄に手をかけた。森の奥から微かに聞こえる足音。それは人のものではなかった。
「落ち着け、俺……ここは、冷静に……」
息を殺して様子を見る。だが、影はすでにこちらを嗅ぎ取っていたらしい。
茂みが揺れ、音もなく現れたのは――痩せた体つきのイノウルフ(亜種)。
見た目は狼に近いが、体毛はまだらに抜け、空腹で眼だけがギラついていた。
(やるしかない!)
抜刀。足を下げて構える。
相手は、今にも飛びかかりそうに唸っていた。
「……ッ!」
飛び出した。鋭い爪がカイルの肩を掠め、火のような痛みが走る。
だが彼は怯まずに踏み込んだ。
「おおおおおっ!」
剣が浅く、しかし確かに相手の腹を裂いた。
吠え声を上げて後退するイノウルフ。再度、距離を取る。
膝が震える。心臓が煩く鳴る。
(……でも、逃げたら終わりだ)
自分に言い聞かせ、再度剣を構える。
しかしその時、背後から矢が飛び、イノウルフの首筋を射抜いた。
「……大丈夫か、坊主?」
現れたのは、屈強な男だった。顔には無精ひげ、肩には使い込まれた弓。
ギルドの装備を身につけている。
「あ、ありがとうございます……」
「巡回任務ってのはな。舐めちゃいけねぇ。見えねぇとこに、ヤベェのが潜んでんのさ」
男は肩をすくめると、カイルの剣を見てうなずいた。
「剣の扱いは悪くねぇ。でも、力任せすぎだ。これからだな」
それは叱責ではなく、経験者としてのアドバイスだった。
カイルは小さく、だが真剣に頭を下げた。
「はい……ありがとうございます」
男は笑って肩を叩いた。
「ガルドってんだ。今後ともよろしくな、新人さん」
その名前を、カイルは忘れなかった。
今回は、カイルの初任務と、彼にとって初めての“ギルド仲間”との出会いの回でした。
ベテラン冒険者・ガルドとの出会いは、彼の冒険者人生における大きな分岐点になります。
力任せでは超えられない現実。命の重み。そして、仲間との出会い。
これからのカイルの成長に、ぜひご期待ください。




