第11話「はじまりの街、エストラム」
カイルの旅が、ようやく「冒険者」としての第一歩を踏み出す段階に入りました。
12歳で故郷を出てからの努力が、ついにひとつの形となります。
舞台は街――エストラム。人が集い、情報が集まり、そして“闇”もまた潜む場所です。
彼にとって、この街が“居場所”となるのか、それとも新たな試練となるのか。
それは、地平線の向こうから見えてきた。
城壁に囲まれた中規模の都市――エストラム。
旅人と商人が行き交い、冒険者ギルドも置かれる、北西部では比較的賑わった拠点のひとつだ。
カイルは、乾いた喉を潤すため門前の井戸に近づき、水を一口飲む。
うまい。旅の疲れが、少しだけ癒える。
(……さて、ここからが本当の始まりだ)
荷袋を背負い直し、彼は門をくぐった。
街の中は活気に満ちていた。荷車を引く商人、物乞いに銀貨を落とす修道女、武装した冒険者たち。
剣を腰に下げたカイルに誰も驚くことはない。ここでは、それが“普通”だった。
ギルドは街の中央通りにある白い石造りの建物だった。
軒先には剣と盾のエンブレム。そして重厚な扉。
「……よし」
カイルが扉を押すと、中にはすでに何人もの冒険者が集っていた。
依頼掲示板を見ている者、受付嬢と話す者、剣を磨いている者――それぞれが、それぞれの生き方でここにいた。
「新入りかい?」
声をかけてきたのは、ギルドカウンターの奥にいた若い女性。
栗色の髪をポニーテールにまとめ、制服をぴしっと着こなしている。
「はい。カイル=スローンといいます。冒険者登録をしたくて」
「了解。私はルティア。この街の冒険者ギルドで受付をしてるわ。よろしくね」
手際よく書類を差し出しながら、彼女は微笑んだ。
「ちなみに、未成年での登録は保護者の証明か、既登録者からの推薦状が必要なんだけど……持ってる?」
「はい。これ」
カイルはガルドから預かった推薦状を差し出す。
それを読んだ瞬間、ルティアの表情が少し変わった。
「……この筆跡、まさか。『剣鬼ガルド』の……?」
「知ってるんですか?」
「ええ、元Sランクの……引退してるって聞いてたけど。あの人の推薦なら、安心ね。おめでとう、カイル。今日からあなたも立派な冒険者よ」
木製のカードと、革製のバッジが手渡された。
名前の刻まれた冒険者証。それを手にした瞬間、カイルの心が少しだけ震えた。
「初仕事、探していく?」
「ええ。……初心者向けの、何かあれば」
「あるわ。モンスター討伐じゃなくて、荷運びや巡回警備だけどね」
「構いません。それで十分です」
その答えに、ルティアはにっこりと笑った。
「いい心構えね。じゃあ、今日はこの街の警備組の“巡回補助”をお願い。明日の朝、集合場所はギルド前」
「了解です!」
「……でも、油断は禁物よ」
ルティアは声を低めた。
「この街は、穏やかに見えて――いろんな連中が集まるの。中には、若い新入りを潰して楽しむやつらもね」
「……気をつけます」
「それでも、あなたは来た。ようこそ、エストラムへ。ようこそ、“表の世界”へ」
今回は、旅を終えたカイルが“冒険者”として認められる転機の回でした。
ギルド、受付嬢ルティア、そして街の気配――すべてが彼にとっては未知で、試練の始まりです。
次回は、初仕事での緊張と失敗、そしてカイルが少しだけ成長する姿を描く予定です。
舞台が整い、登場人物たちが動き出しました。どうぞこの先もお楽しみに。




