破壊と殺戮の権化――竜
この世界を支配する者は誰か。
人間か、宇宙人か、神か。
全て否である。
この世界を支配するもの、それは竜。
全てを食らい、すべてを破壊し、すべてを燃やし尽くす竜である。
かくいう私は竜だ。
竜であることを誇りに思う。この世界を、作り上げられたすべてを破壊することのできる力。
私は自分を誇りに思う。
目を覚ました。
熱く煮えたぎる炎の中で、私は目を覚ます。
私にとってはぬるま湯にすら感じない温かさであるが、他の生物がこれに触ると骨すら残らない。
溶けた岩。溶岩。摂氏六千度。太陽の表面は中核は千六百万度と言われているがそれでようやく熱いくらいだ。
私を殺せる生物はこの世には存在しない。あるとすれば惑星を破壊するほどの力を持つ者だけ。だが矛盾だ。生物は惑星を壊せはしない。できたとして、自らが住む環境を壊してまで私を殺したいと思うだろうか。
私は気分気ままに空を飛び、気に入らなければ破壊するだけ。無駄は嫌いだ。壊しすぎると楽しみが無くなってしまうから。
一度世界を半分ほど壊したことがあるが、もはや環境が機能していなかった。私は長い年月を星の中核にて眠った。
どれほどの年月が経ったのかは解っていないが、再び地上を魔力で観察すると、世界は一変していた。世界を牛耳るのは人間で、その他の生物は人間の手によって支配されていた。至る所に人間の痕跡が見られ、自然や生物を狩り殺し、自らを世界の頂点と宣う人間。
そして竜。この時代ではもはや竜が竜たる威厳は無かった。
嗚呼、楽しみや。
これほどまでに壊せるものが多くあると、どこから手を付けて良いのか解らなくなるほどだ。けれど私は思う。小さな街よりも大きな街を破壊してしまうのが一番爽快だと。けれどそれはしない。それだと二の舞になってしまうからだ。楽しみが減るのは嫌だ。また長い年月を眠るのは辛い。
「あはっ、あははははははははははははははははははははっ!!」
私はこの世界に戻ってきた。私はこの世界に帰ってきた。私はこの世界に至ってきた。
「壊せる、壊せる壊せるっ」
翼を広げ、地上へ。
この中心核より出でる火口へと。
飛び出し、それと共に大量の溶岩が深海より吹き出した。
大爆発。
恐ろしいほどの爆音と爆風、衝撃によって火口付近の岩石がことごとく破壊された。黒い煙が辺り一面を覆い、光の届かない深海をより真っ暗な世界へと変える。
私の後ろに続く黒い煙。地上へと大きく出ると続いて煙が大空へと舞い上がり、空を黒く染める。まるでキノコのような形をしていた。
「あああああああああああああああああああああああああッ!」
魔力を放出し、煙を吹き飛ばす。空を覆っていた煙をさらにその上へと吹き飛ばす。
私は来た、戻ってきたのだ。
「壊せる、壊せるっ」
涎が落ちる。
生命が消えうせる姿を、この目で再び。
「まずはあそこッ」
港が見えた。
巨大な船が見える。巨大な魔法陣、魔法力、力を感じられた。
欲しいッ。
あれが壊れて沈んでいく轟音を聞きたいッ。
腹の底にたまっていた魔力を放出。
口腔へと集める強大な魔力。
炎竜イフリートガン。
作り上げたその球を、さらに圧縮して魔力を纏わせる。
出上がったそれをさらに圧縮、また魔力を乗せて炎を刻む。
圧縮と混合を繰り返し――。
港一体をすべて吹き飛ばすほどの威力へと。
「照射」
キュインと音を響かせて。
小球は宙を切る。
港に集まる人間ども。
阿呆面をするそのすべてを、私が帰ってきたことを示し、我がこの世界の覇王であることを証明する。
「殺して殺して壊して壊してええええええッッッ!」
頭が壊れそうなほどに興奮している。
さあ見せてくれ、その破壊の光景をッ。
小球が巨大な船に着弾。
が、一瞬にして蒸発し、街の中心地にて嘲笑うように大爆発した。
超巨大な炎球が地上で発生し、すべての音を、環境を、声を、聲を飲み込んで。
山もろとも破壊しつくす嵐が発生した。
轟音が鳴り響く。空気を破壊する音だ。
「これこれこれこれこれよおおおッ」
霧散していく魔力の塊。炎球。
全てを赤熱化して、真っ赤に染まる大地だけが残る。炭も残さずドロドロに溶かし尽くされた大地だけが。
「ああああああああああああああああああッ」
最高に良い気分だ。
最高に良い気分だ。
これほどの快楽と快感に浸れる日がまた訪れるとは思いもしなかった。
全身にみなぎる魔力、全身にみなぎる爽快感ッ。
翼の先一つ、鱗一つ一つに張り巡っていくこの解放感ッ。
「私が魔王だ。私が竜王だっ」
巨大な咆哮を上げる。
全世界に知らしめるようにして、私の存在を誇示するようにして。
「さあ始めましょう、さあ始めましょう。この世界の命運は私の手の中にッ」
海が荒れた。
雷が鳴り響いた。
大地が震えた。
さあ、楽しみましょう。
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【集】我が家の隣には神様が居る
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