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仲間【仮】

嘗ては緑と水が豊かな街・グラフ。今では見る影はなく、木々は枯れ街の象徴だった噴水は大破している。風が運ぶのは、四季折々の匂いではなく砂埃。間違いなくこの街は終わりへと向かっている。そして、この街の住人(いきのこり)は、最悪の悲劇を決して忘れる事は無いだろう。


──あの日。魔王・アルベガを異世界転移者が討伐したあの日。街の住人となっていた異世界転移者達が叛逆を起こし、建物を破壊し住民達を殺して行った。


十年経った今でも修繕が出来ないのは、圧倒的な財政難だとされているが、噂では異世界転移者──亡霊によって王都が壊滅。これにより、統率を失った国は機能を失ってるが為に騎士団の派兵などが出来ずにいるとも囁かれている。


事実がどうであれ、現にこの街を治める領主は王都に行ったっきり帰ってきてはいない。だがそれでも、辛うじてこの街が街として機能出来ているのは【ギルド】の存在が大きい。


古びた建物であり街で一番大きい施設。傭兵ギルド・カセウス。酒場と並列してる此処は日夜賑わいを見せている。そんな中、一人の女性がカウンター越しで心配そうな表情を浮かべていた。彼女は眼前に立つ青年に向けて不安混じりの言葉を投げかける。


「えっと……その……お独りで向かわれる……って事でしょうか?」


白髪で肌も白く、どこか人間離れしたような雰囲気を漂わせている。彼は憂いた様子を浮かべる彼女に対して短く頷いた。


「はい」


単調に。しかし、正確に答えると女性は目に力を込め、目をしっかり見つめて口を開く。


「ルキルスさん。流石にそれは余りにも危険ですよ。相手は異世界転移者(ぼうれい)。理性がないとはいえ、神器を扱う化け物。私達、この星の住人(・・・・・・)が一人で勝てる筈が」

「俺にはもう家族は居ません。だから、保険手当なども要りませんよ」


ルキルスの両親は異世界転移者の暴走さいに死んでいる。五歳から十歳になるまでは孤児院。そこから十五歳になる今までは、一人で暮らしている。守るものも守られる者もいないルキルスにとって、命とは復讐を果たす一つの(・・・)道具に過ぎない。


「そーゆ問題じゃ……命は簡単に投げ捨てて良いほど安くはないんですよ」

「ですが──」

「ですが、じゃないです。今日、新たに外の街から冒険者の方が三名来られました。等級は銀。連携を取れば、異世界転移者相手でも全員帰還出来るレベルです。今日はその方達と行動を共に取ってください。良いですね?」


半ば強引に決められたのが、今から凡そ三時間ほど前になるだろうか。正直、一人の方が行動しやすいし。寧ろ、パーティーを組む話になると周りの視線が余計に冷たくなるのも居心地が悪い。


「おっ!お前がルキルスか?」と、爽やかな声音が鼓膜を叩く。


背後からの呼び掛けに振り返れば、男性二人女性一人が立っていた。赤髪の男性は腰に剣をぶら下げ、軽装。青髪の男性はフルプレートアーマと大盾を背負っている。彼等が前衛を担っているなら、修道着を着こなした茜色の髪をした女性が後衛での回復担当と言ったところか。


三人が見せる表情は穏やかで明るい。今から起こりうるであろう激戦を前に、臆する様子一つ見せないのは良いことだろう。


「そうだよ。俺がルキルス=カザ──」

「そうかそうか。俺はこのパーティーのリーダー!ファインってもんだ。前衛でソーディアンを担ってる。んで、コイツが」


ファインが視線を送ると、この中で一番体格のいい男が軽い会釈をしてから口を開いた。


「ハンズです。ガーディアンを担ってます。よろしくお願いします」


体格に反して物腰が低く、優しそうだ。


「私はリタ。ヒーラー。後衛職よ」


少し棘のある言い方で自己紹介を短く終えると、ファインがルキルスを見て何かを言いたげな様子を見せる。きっと自己紹介を求めているのだろう。


「俺は別に前衛も後衛もない。だが、良いのか?」

「何がだ?」

「俺と組んだ連中は皆死ぬ」


そう。ルキルスが一人行動を好むもう一つの理由──それは必ず皆が死んでしまう。生還は毎回一人だ。


当然、噂は次第に色がついて広がり続けた。だかことこれに関して嫌な思いは一切ない。経緯がどうあれ結果、生き残り続けたのは、ルキルスたった一人なのだから。


故に声質を落とし、脅しを含めた言い方をしたのは単純に不安感を煽り、契約を解消してくれる事を願っての事だった。


「あーその事な。それなら、カセウスの酒場で嫌という程きいたぜ。なあ?」

「ええ、そうね。アイツと組めば囮にされるだとか。アイツは仲間を売って生き延びる下劣なやつだ。だとか、酷い言われようだったわ」


確かに酷い言われようだ。


「だけど、奴らが言ってた事が事実だったとして──それはただ単に、そいつらが君より弱かっただけに過ぎない。つまり何が言いたいかと言うと、俺達は利用される程、弱くは無いって事さ」


余裕な雰囲気を見せるファインからは、絶対的な自信がみてとれた。揺るぎない瞳に力強い声音。きっと彼等の今まで体験した経験が後押しをしているのだろう。


ならば、少しは信用してみるのもいいかもしれない。


「分かった。じゃあ、俺は臨機応変に君達の動きに合わせて行動しよう」

「それは助かるぜ!宜しくな、ルキルス」と、ファインは手を前に差し出す。


いつぶりだろうか、仲間として受け入れられたのは。少し嬉しく思いつつ、ルキルスはファインの手を握り返した。


「じゃあ、行くとしますか。異世界転移者(ぼうれい)達が目撃された教会に」

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