眼帯の悪魔
魔王・アルベガを異世界転移者達が倒してから早十年。この世界・アクルトは未だ安寧から程遠く。──寧ろ以前にも増して急速に崩落の一途を辿っていた。
「お帰りなさいませ、ルキルスさん」
その声は耳を激しく叩く喧騒の中では非常に穏やかで落ち着いたものだ。名を呼ばれた青年・ルキルス=アルデルトが軽い会釈をすると、女性は辺りを見渡すと声量を抑えて言った。
「他の方達が見受けられませんが……」
「生き残ったのは俺だけです」
「……そうですか。なら、依頼の方は失──」
「いえ。異世界転移者三名の討伐は達成しました」
【異世界転移者】
嘗て世界を救った者達であり、今は理性・自我を持たぬ戦闘狂と化した神器を扱う化け物達。
ルキルスを含めた冒険者達への依頼の殆どが今や異世界転移者の討伐である。
──何故、突如として人々に牙を向けたのか。その謎を解明する為、日夜研究が進められている。だが未だに進展がないのも事実。
「そう、なんですね。なら例の物をいつもの場所にお願いします。報酬もその場でお渡ししますね」
ルキルスは軽い会釈をし、いつもの場所へ向かう。道中突き刺さる冷たい視線、粘着質な声がまとわりつく。
「おい、あいつまた一人で生き残ったみたいだぜ」
「次はお前が組めよ」
「やだよ。しにたくねぇもんよ。んな事言うなら、お前が組めよ」
「だれが【眼帯の悪魔】とパーティ組むかよ。早死はゴメンだね」