オードリ春日に至る病〜全員春日になりました〜
朝、起きる。まだ、眠りの海から完全に出れていない。まるで、1ギガのパソコンのような、のろさで体を起こす。
「へッ!ああ、今日も学校かよ」
クセで、特に見たくもないニュース番組をつける。ちょうど映画のCMが流れていた。
「・予告・ 大ヒット映画 /春日に至る病/
街の人々が突然、トゥースとしか言えなくなったら、、、この恐怖からあなたは逃れられるか、、、」
「へッ!かなり、くだらなそうだな」
掛け時計がふと、目に入ると、高校の始業時間ぎりぎりだった。沖縄でないので、ウチナータイムが通じる訳もなく、急いでテレビを消して、身支度を整え、学校に向かった。
学校に向かう道中で、すれ違った見知らぬ数人に、「トゥース!」と言われた。
「へッ!くだらない映画が流行ったもんだ」
学校に着いた。始業2分前、本当にぎりぎりだ。急いで着席する。
「へッ!、、、へッ!、、、すみません、時間ギリギリに来t」
目の前には信じられない光景が広がっていた。全身を、生暖かい牛の舌でなめまわされるような鳥肌が立つ。全員、春日だった。先生、副担任、ゲーム仲間の亮太、幼馴染の雪子まで、すべてが春日だ。たまたま苗字が全員、春日であったとか、そういうわけではない。全員、半袖のワイシャツにピンクのベスト、黄色のネクタイを太く結び、髪型を七三分けとして、胸を張っている。
「トゥース!」
「トゥース!!」
「トゥース!!!」
皆、胸を張って、そう叫びながら、人差し指を胸のまえに出している。間違いない、(春日に至る病)に冒されている。そう理解した直後に、不敵な笑みを浮かべて、雪子が近づいてきた。
「トゥース!トゥース!!」
そう叫びながら、トゥースの手をしたまま、、。つられるように、ほかの生徒も近づいてきた。
「トゥース!」
「トゥース!!」
「トゥース!!!」
「へッ!へッ!!ギャース!ギャース!!」
僕の悲鳴にかまわず。生徒たち、、いや春日達は近づいてくる。私はこの春日になり果てた、化け物達に一人では到底戦えないと悟り、一目散に逃げようとした。そのとき、雪子が言った。
「ハッピーバースデー!!おめでとう!!皆で〇〇君のサプライズ誕生日会を計画していたんだよ。流行りの映画に似せて、〇〇君をクラス全員で驚かそうとしたんだ。」
僕は、数秒間、困惑と嬉しさと馬鹿馬鹿しさで、動けなくなった。しかし、次第に嬉しさが強くこみ上げて、ふいに涙が出た。グスン!、皆ありがとう、本当にありがとう。しかし、口と体が勝手に、
「トゥース!!」
胸を張りながらそう叫ばずにはいられなかった。
「どうしたの、、?」
あれ、本当に、、、どうしたんだろう。
「へッ!」
不敵な笑みを浮かべながらそう言ってしまった。そういえば、朝から「へッ!」と言っていたかも、、、、
「トゥース!!!」
心では、そう言っているつもりでも、体と口が勝手にそう言ってしまう。そして僕は、へッ!とトゥース!しか言えなくなった。