平和な一日その3
教室に着いても山口は相変わらずだった。
「どうせ育たないですよ、今日はもうやる気がないのでスーパーで割引のお弁当買って帰ります……はは、おっぱいも売ってればいいですね……それなら半額とか10%引きとか関係なく買うんですけど」
「や、山口さんが壊れちゃったじゃないの!新庄のせいよ!責任取りなさいよ!」
山口は下を向きながらボソボソとまだ何か言っていた。
小鳥遊は俺の身体をブンブン揺らす。
いやいやどう考えても。
俺は揺らされると同時に小鳥遊の胸も大きく揺れている事に気がついていた。
もちろん山口もそれを横目で見てさらに暗くなっている。
「これは……小鳥遊のせいね!責任取るのはあなたよ」
「なんでよ!」
「胸に手を当てて聞いてみれば?」
俺がそう言うと本当に胸に手を当てる。
やっぱこの子は馬鹿だわ。
うちのクラスは相変わらず賑やかだ。
ほとんどの人がグループごとに分かれて仲良くやっている。
ただ最近男子の目が痛い。
俺だって好きでこのグループにいる訳じゃないのに。
と言うかグループと言うより山口のペット達って感じなんだけど。
「ははっ……賞味期限切れのも売ってないんですね」
まだうちのご主人様は壊れたままだった。
教室の扉が開き先生が入ってくるといつも通り一斉に自分の席に座った。
「それでは授業を始めます」
斉藤先生がそう言うとモニターが複数出てきてそれらが共有される様に俺たち生徒のタブレットにも同じような物が表示される。
ちなみにこのモニターをタップして自由にページをめくったり、意味を調べたり公式を調べたりも出来る。
「で〜あるからして〜このπは〜」
うん、今明らかにπで反応したのが数名いたね。
柚子も後ろ姿が動揺してるね。
「パイ?パイってなんですか?アップルパイ?数学にアップルパイなんて変ですよね?ははっ……」
ん〜。
この調子だと一日引きずりそうな予感。
俺は声を抑えながら。
「山口〜今は授業中だぞ〜」
俺は口元に手を当ててそちらに声を飛ばす。
山口は光を灯していない瞳でこちらを見てきた。
怖い。
「晶くん?パイってなんですか?パイ二乗でおっぱいって事ですか?2√おっぱい二乗って賞味期限はどれ位なんですか?」
こりゃ駄目だ。
俺は山口を心の中でそっと弔ってあげた。
また山口は変わってしまったのだ。
パイに支配されて。
そりゃそうだよね。
周りは巨乳ばかりだし。
でも俺はそんな山口も応援してるよ。
一人のモブとして。
だから。
俺はボソボソ言ってる山口の方を見る。
だから今は関わりたくない。
他人のフリしよ。
 




