引っ越し その2
結論から言っていい感じに事が進みそうだった。
この人に頼むのは嫌だったけどこの人以上に頼れる人もいなかったし。
なんだかんだで面識ある先生は少ないんだよね。
と言う訳でこの人にお願いしました。
「お話は一通り聞かせてもらいました、確かに年頃の男子が女子三人を相手にするのは大変でしょうからまずは今より広いスペースの家にする事だけは保証しましょう」
何やらファイルをペラペラとめくり忙しそうにしている。
もちろん俺はこの人が大の苦手なので要件さえ済んだしまえば拘る事はない。
と言う訳でさいなら。
「待ちなさい、まだ話は終わってませんよ新庄 晶くん」
どうせこうなると思いましたよ。
遠藤先生は握り拳くらいある印鑑を強く叩きつけそのファイルを閉じる。
何あれ流石に大きすぎない?
「なぜあなたは人の目を見て話そうとしないのですか?人とはコミュニケーションの殆どが目線だと私は思っています、すぐそうやって逸らすのは何かやましいことがあるから……違いますか?」
俺は無言で首を横に振る。
「それなら……もしかして怖いのですか?」
遠藤先生の顔がね。
とは言えないからとりあえず黙秘権を行使する。
「どちらにしろあなたはあの子達を守る義務があります、男の人は女性を守らなくてはいけません、何故だか分かりますか?それはですね女性とはとても繊細でか弱くて言葉というただ空気の振動だけで深く心に傷がついてしまう生き物だからなのですーー」
そこからもあーでもないこーでもないといつもの説教が始まった。
いや、ほんと勘弁してください。
要件済ませて早く帰る予定だったのに。
結局一時間くらい説教された。
まぁ会話の内容なんて殆ど覚えてないんだけどね。
とりあえず新しい家の資料と今住んでる家の撤去の手続き諸々の相談などをみんなとしなくてはならない。
もちろん俺は山口と二人きりで住めればそっちの方が気楽だしそうなる事を願ってる。
ここは上手く小鳥遊と柚木を丸め込む会話能力が必要だね。
「引っ越し!?いいじゃない!私もちょっと狭いかなって思ってたし、しかも今より広いしみんなで住むには最適ね」
あ、ですよね。
「あ、晶くん……やっぱ寝るスペースが欲しいですよね、ここじゃ狭いですし」
「そうなんだけどさ柚木と小鳥遊は……」
「ウチも賛成よ!新庄の癖になかなか気が効くじゃない!褒めてあげるわよ!」
「いや、そうじゃなくて……」
「そ、それなら明日みんなで新しい家を見に行きますか?」
「ええ!良いわね!ついでに家具とかも一式新しいのに変えたりしたいわ!」
やっぱこうなるよね。
俺の作戦は早々に終わった。




