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第七話


 俺は下校のチャイムと共に校舎を出た。


 ちらほら同じようにクラスに居ても特にする事がない人や居るだけで気まずいと感じる同志達もいる。


 きっと彼らもチャイムと同時に教室を抜けてきたのだろう。


 俺には分かるんだよね。


 やっぱ面構えが違う。


 あ、鼻がムズムズする。


 「ハックション!……風邪でもひいたか?それとも花粉?」


 俺は鼻を擦り寮へと向かった。


 なんだかどうでもいい話が秘密裏に行われている気もするが……まぁいいや。


 変に考えると本当に引き寄せるって言うし。


 それよりも……だ。


 過酷な状況すぎない?


 腹も減ったし家もボロい。おまけに鼻水も出る。


 ガスも水道も出ない環境をまずはどうにかしなくちゃいけないし。


 水に関しては支給されてたペットボトルに学校の水道水を入れればいいとして。


 とりあえずは食べ物をどうやって手に入れるか。


 一月を三万で食い繋ぐのは余裕だがもちろんそんな無駄遣いをするわけにはいかない。


 第一来月にポイントが支払われるかどうかも分からない。


 でも今日はもう我慢の限界だ。


 とりあえず近くのコンビニで何か買うことにしよう。


 ほんとは少し離れたスーパーなどで買いたかった。


 そっちの方が安く済むし節約出来るからね。


 だが俺の体力は確実にスーパーまで持たない。


 MAPで色々調べて見たけど交通機関もあるみたいだし。


 本来ならバスを利用して楽にスーパーまで行けるが。


 もちろんその場合俺はバス代をケチって徒歩で行くけどね。


 バス代往復プラス半額の弁当を出費するなら近場のコンビニ弁当の方がまだ安く済む。


 買い置きしたいけど弁当はあまり日持ちしないからなぁ〜。


 今日も鉛の入ったような足でコンビニへと向かった。


 コンビニに入り陳列された宝の山から唐揚げ弁当をレジに通した。


 この唐揚げ弁当が……俺を呼んでいる。


 この美しい衣の付き具合!艶のたったお米!


 よしよし、今夜は君で決まりだ。


 レジもセルフで現金かポイントを選択し支払うだけ。


 もちろんポイントはないので現金で支払いコンビニを後にした。


 まだ3万は崩していない。


 コンビニ弁当くらいなら手持ちの小銭で支払えるくらいは持ってたし。


 けど毎日コンビニなんかで買ってたらあっという間に所持金はゼロだ。


 本当にポイントをなんとか手に入れなくてはならない。


 なんだかんだ時刻は夕暮れ近くまで来ていた。


 日が沈む手前、俺はやや早足で寮へと向かう。


 ポツポツと下校して行く生徒たちが見える。


 一見すると特に何も感じない日常風景に見えるが。


 道路なのに一切車が通ることはない。


 常に歩行者天国状態なのはありがたいけどやや違和感は感じる。


 まぁ日本全体的に車の数は減ったんだけどね。


 生産しては輸出して国内では販売されても値段がかなり高く一部の金持ちしか所有してない。


 東京では車が行き交ってるって聞いてたけど24区は別次元みたいだね。


 これまた何か裏でもあるのかな?


 そもそも輸出してる数が多い割に工場数自体は少ない。


 確かに大きい工場ではあるがそれでも賄いきれるとは思えない。


 ってさっきスマホのニュースで見た。


 日本の情勢を知っとくのは基本だからね。


 まぁ本当は昼休み暇で特にやる事なくスマホいじってただけだけど。


 兎亀うどんの新メニュー美味しそうだったなぁ〜。ぶっかけ肉うどん超食べたい。


 現実逃避が止まらないね。


 さてと、もうそろそろボロアパートに着く頃だけど。


 寮へ帰る途中5.6人程でたむろっている連中を見かけた。


 既にあんなグループが出来ているのか〜と感心していると一人が俺に目をつけてきた。


 やべ目があっちゃった。


 殺気放ってるなぁ〜浮かれてる人多いとは思ったけど面と向かって対面するのは初めてだ。


 逃げてもいいけどちょっとお腹減りすぎと布団無しで寝てるせいかそんなに体力も回復してない。


 ここは上手くやり過ごそう。


 「お前のそれなに?」


 一人が俺の大切な唐揚げ弁当の入った袋に指を刺してきた。


 その表情はニヤニヤとしていていかにも弱そうな人間に目をつけたと言う感じだ。


 なんて分かりやすい展開だろう。


 思うに弁当は二の次で仲間の前で弱い者いじめをしてアピールでもしたいんだろうね。


 これは俺のモブキャラアピールのチャンスでもある。


 「なにって……俺の生命線ですけど」


 「はぁ?生命線だぁ?」


 訝しげな表情に変わる。


 これはあれですか。


 カツアゲってやつですか。


 唐揚げだけにってね。


 自分のつまらないギャグで思わず吹きそうになってしまった。


 「てめぇ!なにニヤニヤしてんだ!」


 俺は口元を押さえて首をブンブン横に振った。


 その背後には大きなマンションが高く聳え立っている。


 あとほんの数メートルでオンボロな我が家に着くというのに。


 「本田さん!腹減ってません?こいつ美味そうなもん持ってますよ」


 いやいや、貴方が食べたいだけでしょ。


 イキリヤンキーの後ろのグループからは一人だけ圧倒的なオーラをはなってるやつが放ってる奴がいた。


 ウルフヘアーにしっかりとした肩幅、だがそれ以上に目つきの鋭さが目立つ。


 彼はゆっくりと近づいて俺を一瞥しすぐに目を逸らした。


 「てめぇ……くだらねぇ事してんじゃねえよ、死にてぇのか?」


 片腕で彼の胸ぐらを掴み持ち上げる。


 重く固いその声に俺含めて全員が震えた。


 やべおしっこしたい。


 さっきのコンビニでしとけば良かった。


 家のトイレ汚いし。


 「い、いや!そんな訳じゃ……す、すいません!」


 男は手を離した。


 そいつは腰が抜けたのか足が震えて立てないのかビクビクしながら四つん這いのまま距離を置く。


 まるで亀みたいだ。


 恐らく彼は主役級のポジションなんだろうけど。


 この展開……。


 俺はなんとなく言いたくなってきた。


 ふふっ……あまりモブキャラを舐めるなよ。


 「よぉ……5年ぶりだな」


 「あ?」


 「いえ……なんでも」


 ネタが通じなかった。


 駆逐してやる!って言った方が良かったかな?


 それでも何言ってるか意味わからんか。


 本田は耳の裏をボリボリと掻く。


 「てめえのそれはいらないが、そうだな……俺はポイントが欲しい、大人しく渡してくれればこいつみたいにはならずに済むが」


 「ないです」


 俺は即答した。


 それと同時に彼は前のめりになりこちらに近づいてくる。


 「あ?ねぇ訳ねぇだろぉ!がっ……」


 俺はスマホを開きそいつに画面を見せつけた。


 「ないです、一ポイントも」


 ないものはないのだから仕方ない。


 その表示された0ポイントを見て取り巻きの人達も何故かちょっと引いてた。

 

 「おい……0ポイントだってよ、流石に可哀想だな」


 「ばっか本田さんがガン飛ばしてポイントありませんさよならなんて展開で終わらせるわけないだろ!余計なこと喋るな」


 何やらヒソヒソと話しているが顔を見て分かる。


 凄い同情されてる。


 柄の悪そうなヤンキーにまで同情されるとか本当に悲しい。


 でも彼らはこれで大人しくひいてくれるはずもない。


 プライドの高い彼らは一度出した拳は簡単に戻せないのだ。


 だから次の展開は簡単に読める。


 「ちぃ!気に入らねぇ……じゃあ現金でいい、手持ちで勘弁してやる」


 ほらね。


 ぶっきらぼうに彼はそう言う。


 しかもよりにもよって現金となると俺は現在三万近くが財布の中に入っている。


 どうして全財産を財布に入れといたかって?


 あんなボロ屋の部屋に置いとくより、持ち運んでいる方が安全だと思ったからだ。


 「お前!本田さんが出せって言ってんだろ!早く出せよ!」


 亀が威勢よく吠えていた。


 声裏返ってますよ。


 俺がイキリヤンキーの無様な姿を横目で見ていたらイキリヤンキーBに財布を取り上げられてしまった。


 「あっ……」


 めっちゃあっさりと財布を取られた。


 ファスナーを開け中から諭吉が顔を覗かせる。


 「……お!本田さん!こいつ結構持ってますよ!しかも旧紙幣ですね!なんでこんな古いお札持ってんだ?」


 「……あぁ」


 金を出せと言った割に興味のなさそうな本田に違和感を覚えた。


 本当は別の目的で俺を呼び読めたのだろうか?


 つまりポイントは建前で実際は……。


 やはり唐揚げ弁当が目的か?


 仕方ない……半分くらいなら分けてもいいけど今度何か奢ってもらおう。


 「そういえば現金ってこの学園に入学してから初めて見たな」


 「俺もだ!……けどまぁポイントあるし要らないんじゃね?」


 「ごちゃごちゃうるせぇぞ!カスども!」


 「「はい!すみません!」」


 私語は厳禁みたい。


 現金だけにってね。


 口元がにやけそうになるが我慢。


 しかし母さんが必死にかき集めてくれたお金をこんな風に取られてしまうとは。


 兄妹3人とも仲が悪くてもお金に関しては極力迷惑かけないようにと暗黙の了解を結んでいたのに。


 普段は何事も仕方ないで済ませる主義だが。


 今回はちょっと許せないかもね。


 何よりそのお金は俺の中で特別なものだ。


 ただの三万円じゃない。


 貧乏で片親が俺の為に掻き集めてくれた大切なものだ。


 俺の中で何かが熱くなった。


 なんだろう……この昔の記憶が少しずつ戻っていく感じ。


 暗闇の中、もう灯火がなくなってしまったその空間に小さな塊が生まれる。


 とても奇妙な感覚だった。


 過去の嫌な記憶が少しだけ蘇る。


 俺は彼に殺気を放つ。


 大きく息を吸う。


 心臓を打ち付けるスピードが上がっていく。


 手加減出来るか分かんないけど。


 ……やるか。


 俺の殺気を感じ取ったのか本田は拳を構える。


 「なんだこいつ!急に雰囲気が変わったぞ!」


 「本田さんやっちまってください!」


 俺はそっとその場に唐揚げ弁当の入ったビニール袋を置き本田にジリジリと距離を詰める。


 目線が交差する。


 一回挫折を覚えた方がいいかもね。


 「待て!」


 その声に全員が振り返る。


 「くくっ……ようやく来たか、待ってたぜ……大谷」


 本田はニヤリと笑い俺から視線を外した。


 あれ?ここで俺の隠された力的な何かが解放するんじゃ……。


 まぁモブキャラは大人しくしろって事ですね。

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