第六十四話
斉藤先生の呼びかけで大谷と北さんは中央のスペースにそしてそれを囲むように生徒達の輪が出来上がっている。
正直どちらが勝つか分からないけど北さんの方が積極的に行動していた。
フードコート内の位置を把握して客足が向きやすい配置の予測や生徒達のオススメを聞いて回ったり南に予想を手伝ってもらったり。
逆に大谷と言えばそんな北さんの様子を眺めたり周囲を少し観察したり談笑したりくらい。
物語的には焦ってる方が負けるパターンが多いよね。
でも逆に大谷は何もしてなさすぎる。
う〜ん、まぁどっちが勝とうがそんなに興味はないんだけどね。
「それでは両者とも答えを聞かせてください、今から五分間好きに話してもらって構いませんが回答の変更は認められません」
大谷はどうぞと言わんばかりに手を出した。
相変わらず余裕だね〜。
なんか大谷が盛大に負けてくれた方が面白そう。
「……私はマグロナルドンのポテトが今月最も売り上げ額が高いと予想します……色々悩んだのだけれどやはりこれ以外考えられないわ、南ごめんなさいね……色々聞いておいて」
「おぉ!!やっぱそうだよな!」
「手堅いところよね!さすが北姉さま!」
南は指で丸を作り笑顔を見せていた。
なにそれ可愛い。
「どの時間帯でもマグロナルドンのポテトは購入されているわ、部活帰りの小腹が空いた時間帯や夜のお供に朝ごはんの代わりだって勤めている……これ以上ないくらいの売り上げを出し続けていると思うわ!唯一の懸念点は常駐商品だから割引とかがない限り流行りは来ないわね……それはつまり常に流行っていると言っても過言ではないわ!さぁ大谷くんの答えを聞かせてもらってもいいかしら?」
歓声がどっと上がる。
それはもうフードコート中が反響していた。
小鳥遊はそれを見て面白くなさそうな顔をしていたけど。
それでも大谷は余裕の表情を見せつけていた。
本当になんなんですかね。
負けろ、負けろ。
「うん!やっぱ北さんはしっかり合理的に考えて答えに辿り着くんだね……けど残念だよ、僕が相手じゃなきゃ勝ってたんだ……答えはマグロナルドンの長期保存可能なクラッカーだね」
「うぉぉ!!ってあれ?」
盛り上げようとしたモブがそう言う。
沈黙が続く。
……?
みんなが俺と同じ気持ちなのか首を傾げていた。
そもそもマグロナルドンにクラッカーなんて売ってたかな?
小鳥遊が俺の耳元で囁く。
「ちょっと!クラッカーってあれよね!?あのビスケットの薄い生地版みたいなやつ?あれのこと言ってるのよね!?」
囁き声までうるさい小鳥遊。
どうも興奮すると声が大きくなるみたいだね。
俺は無言でコクコクと頷く。
周囲もざわついていた。
「お、おい……流石にねえよな?だってクラッカーだぜ?」
「お、おう……俺もマグロナルドンに売ってることすら知らなかったよ」
「大体誰がクラッカーなんて買うのよ?しかもわざわざ値段も上がってコスパも悪いじゃん?スーパーで買った方が安いじゃん?大谷くん大丈夫なのかな?」
絶え間なく大谷のクラッカーに疑問がぶつけられる。
「それでは答えを発表させていただきたいと思うのですが……」
斉藤先生の声を遮るように敦が大声で笑い始めた。
「ま、真奈美!こんなの勝負にならないよぉ!あははっ!!仮に真奈美のポテトが一位じゃなかったとしてもクラッカーなんて知名度もない商品が売れ筋な訳ないもん!なんだよ〜がっかりだなぁ〜あははっ!!」
フードコート内にその笑い声はよく響いた。
それにつられるかのように誰かが吹き出した。
そしてそれが波紋のように広がり笑いがどっと起きる。
なんで当の本人も笑ってるんですかね。
笑っていないのは小鳥遊と北さんくらいだった。
ちなみに俺もちょっと口元がにやけそうになったが我慢した。
だってあの大谷が特に理由も説明しないで誰も聞いたことのない商品を、はいこれ今人気もあって売れてますなんて言ったら笑うのも無理はない。
俺が言ったらまぁあいつだしって冷めるだけだけど学年トップの大谷が言ったからこその笑いなんだろうね。
みんなが笑い疲れたところで斉藤先生に注目が集まる。
「え〜それではこれから結果発表させていただきます、先生も今から送られてくる内容は知らないので意外な結果だと驚いてしまいますが……えっと……」
斉藤のタブレットを動かしていた指が止まる。
ん〜納得いかないけど。
実際動きが止まってたのはほんの十秒くらいなのだが結果が待ちきれない人達からしたらかなり長く感じたみたいだ。
「おい!結果はどうなんだよ!早くしろ!」
「どうしたの?斉藤先生?早く教えてくださいよ」
あ〜これはあれですね。
大谷の表情は相変わらず余裕の顔だ。
つまり答えは……。
「こ、今月の最も売れた商品はま、マグロナルドンのクラッカー……です」
はいはい、知ってました。




