第六十三話
こうして大谷と北さんのデュエルが始まった。
しれっと帰ろうとしたが小鳥遊に叩かれてどうやら逃げることは許されないみたい。
と言うか人混み円の中心に居るから抜け出すにも一苦労だね。
勝負内容の立案者が帰るのは変って思われるかもしれないけど……無理やり帰れば逆に目立ちそうだし上手くモブキャラとして立ち回りますか。
早く終わってね。
二人ともまずは様子見といった感じで斉藤先生から渡されたタブレットにこのフードコート内にあるメニューに目を通している。
大谷は相変わらず余裕の表情。
対する北さんは店の位置的に集客しやすいポイントの把握や現在フードコート内にいる生徒たちのテーブルに置かれている料理に来客の男女比の計測などかなり念密に行っている。
ただこれはあくまで今この場にいる生徒に限ってのパターンでしかないため参考程度にしかならなそう。
放課後にもショッピングモールのフードコートにくる生徒層は部活後の人間が多いと予想できる。
帰宅部ってのは直行直帰が当たり前でわざわざフードコートになんて寄らないからね。
ソースは俺、たまに柚木とか山口に誘われない限り行かないし。
土日なら誰でも利用するけど店内を見た感じガッツリした料理ってよりかはデザートやたこ焼きなどの小腹を埋めるような店舗が比較的多いね。
唯一の[まじかよ!?ステーキハウス]と[海鮮ざんまい]はメインの料理にはなるが価格はこの中だとずば抜けて高くなってる。
まず学校上がりの放課後はここで夜ご飯を済ませる以外では利用しない二店舗だね。
すると人混みの中から声が聞こえてくる。
「俺さこの前大谷に地理でデュエルしてるやつ見たんだけど……そいつは他の教科はまるでダメなんだが地理だけは興味があったみたいでさクラスどころか学年でもトップクラスだったんだよ、将来は地層とか大気とかの研究するって言ってたんだけど……」
「ど、どうなったんだ?」
「大谷のファンクラブ会員第一号になっちまったんだ!もう大気とかどうでも良いらしい……そんな事より大谷の粘膜やら髪の毛やらを採取してそのDNAから大谷のクローンを作ろうと必死になってるらしい」
随分と話がぶっ飛んでるね。
何があったら大谷のクローンを作ろうと思うんだろうか。
タブレットをスワイプしていた北さんの手が止まり視線を向ける。
「斉藤先生?このフードコート内を回っても良いのかしら?それに今いる生徒なら声をかけるのも構わないんですよね?」
「はい、外部からの情報提供とスタッフ関係者以外なら基本なんでも大丈夫です」
北さんは頷きタブレットの電源を落とすと椅子を引き周囲を見渡す。
周りの生徒もそんな様子を察してちらほらと自分たちの元いた席に帰っていく。
大谷はと言うとニコニコしながら北さんの方を見ていた。
「随分と余裕そうなのね?負ければ100万ポイントと一位の座を失うのよ?それは貴方にとっては大した事じゃないのかしら?」
「いや、この勝負は僕にとってもかなり大事なデュエルと言えるね、もし仮に僕が負けたのならそこで全てが終わる……それほど大事な試合なんだよね」
一瞬だけ大谷が何処か遠い目を向けている気がした。
「私は貴方が怖いわ……今日初めてそれを実感させられた……なんの前触れもなく一年最強の男に矛を向けられる気持ち分かるかしら?大谷くんが何を考えてどう動くかなんて誰にも予想できない……一体何を考えているの?」
その問いに大谷はただ黙っていた。
何も語らない、ただの沈黙。
「そう……何もいってくれないのね……けど私も負けられないわ!このプライドと誇りを持ってこの勝負は勝たせてもらうわよ!」
北さんはそう言ってない胸に手を当てていた。
あ、睨まれた。
瞬時に目線を逸らす。
その先には小鳥遊の豊満な胸があった。
余計に睨まれてる気がするけど気のせいだよね?
北さんはそのまま店内をぐるっと周りとある人間の前で止まった。
「やっほー北姉〜なんか騒がしいみたいだけど何かあった?」
東西南北のおっぱい担当の南だった。
「あんた今変な事考えてた?」
「……考えてない」
「ならなんで目が泳いでるのよ!こっち見て言いなさいよ!」
身体を揺すられるが俺は決して動じない。
今小鳥遊の方を向いたら確実に目線がそっちにいってしまう。
それだけは避けなくては。
「実は訳あって来ているのだけれども質問させてもらってもいいかしら?出来れば友達の子にも聞きたいのだけれど」
「うん!全然オッケーだよ!ね?みんな?」
「もちろん!南のお願いはカラオケ行く事以外ならなんでもオッケーって感じ!本当……カラオケだけは勘弁……」
南の友達全員が苦い顔をしていた。
ちなみに北さんも同様に。
本当に一体カラオケで何が……。
「と、とりあえず質問なのだけれど貴方達がこのフードコートのメニューの中で一番売れてそうな商品を教えてもらいたいのだけれど……なんでも構わないわ、人気がありそうなのとか個人的に好きな料理だとかなんでも教えて貰えると助かるわ」
すると南は目を輝かせてスマホを取り出し素早くタップする。
「えっとね〜あたし的にはこのからし納豆クレープとか〜あと納豆カレーとか!それに納豆オムレツに……」
凄い納豆好きなのは伝わって来たけど周りの人がドン引きしてますよ南さん。
と言うかそんなに納豆メニューあったの知らなかった。
頼む人居るのかな?女子って意外と納豆好きって人多いのかも?
「いいよね、北さん……ああやって友達を頼ってみんなで答えに辿り着こうとしている」
「そだね〜」
「人って失敗した時の方が多く学べると思ってるんだ、だから僕は他人の失敗を見ると嬉しいんだよ」
隣に立つ大谷は北さんを見て微笑んでいた。
その表情はとても今デュエルしている相手とは思えないほど優しい顔で。
逆にその表情が怖くも思えた。
「大谷くん……どうして真奈美にデュエルを仕掛けたの?ウチはまだこの学園に来てばっかだからよく分からないけど……確かに真奈美は人を下に見ているところはあるけど……そんな粗を突くような器の小さい人に見えなくて……」
小鳥遊は大谷とは視線を合わせないようにしていた。
しおらしくか細い声でゆっくりと話している。
俺の時は睨みつけてギャーギャー言ってくるくせに。
「そうだね……詳しい事は話せないかな」
ただそれだけ言って北さんの方を見ていた。
「けど……本質的に彼女はまだ間違えている」
それだけ言い残して大谷は席に戻って行った。
本質的には……か。
凄い引っかかる言い回しだよね。
「大谷くん動かねぇなぁ〜本当に大丈夫なのかよ?」
「分からん、この勝負は俺たちみたいなただの一般生徒には理解出来ない高度な心理戦なんかが仕掛けられてるんだろ?」
その会話を聞いていた俺と小鳥遊。
「そうなの?新庄?」
「さぁ……俺は大谷は何も考えて無い気がする」
「それはあんたでしょ!さっきからずっと帰ろうとしてるじゃない!あんたが先に帰ったらウチ帰れなくなるでしょ!?分かってるの!?」
あぁ……そう言うことね。
「スマホに地図送るからそれでいい?」
「ウチ地図の見方分からないしこの24区全く分からないのよ!」
自慢げにそう言う。
何とも緊張感のないデュエルなんだろうか。
そして時間が経ち答え合わせになった。




