第六話
その後は次元の話していた通り軽く担任の山本からデュエルについて説明があった。
もちろん詳しいことは一切分からない。
軽い感じで説明している為かデュエルと言うワードをそこまで重く受け止めている人は居なかった。
こんな重要な話を何故説明会で話さないのかは謎だ。
きっと何かの陰謀なのかもしれない。
だが俺はデュエルをする気はない。
平和に地道にでいいのだ。
もちろん楽してお金は欲しいけど。
その後は特に語ることも無く時計と睨めっこしながら時間が過ぎていった。
もうすぐ6時限目が終わる。平和でいいね〜。
授業内容は普通科の高校とそんなに大差のない内容ではあるが他と違うところは最新のシステムを使った教育をしている。
わざわざ鉛筆やシャーペンで一生懸命ノートを取る必要もない。
疑問に思った事は先生に聞かずともタブレットが勝手に予測変換してくれる。
テキストも分かりやすく且つ自発性を促すように基礎的な簡単な問題から解かせていき階段方式で段々と難しい難易度になっていく。
なんて便利なんだろうね〜。
俺はタッチペンを手元でクルクルと回す。
「それじゃ今日は職員会議があるのでここまで、皆さん羽を伸ばしすぎないように」
チャイムが鳴る前に山本は教室を出ていく。
他のクラスからも声が漏れてくる辺り全クラス授業が終わったみたいだね。
「やっと終わったべ〜、この後ナンパしに行くべ?見たかよあの可愛子ちゃん達を!」
「見た見た!スタイルいいよなぁ〜あんな子と同じ家で生活出来たらなぁ〜あわよくば男一対女子五くらいの超ハーレム生活とか!」
……うん。
なんか授業終わった途端に盛り上がってるね〜。
「ばっか!お前五人も相手にするなんて大変だべ!せめて四人だろ!料理とか交代でしてくれてみんなが俺を取り合うんだよ!」
「お前のそのなんとかだべがわざとらしいんだよ!エセやめろ!」
俺はそんなどうでもいい会話を耳から耳へと流した。
道具類一式を机の中に保管する。
昔はシャーペンや紙なんかを消耗しノートをとっていたらしいがそれも科学の発展とともに廃れていった。
本当に便利なタッチペンやタブレットだよね。
さて……これからどうすればいいのやら。
現状の問題点は3つ。
椅子に深く腰をかける。
問題点一つ目。
初めに今朝出会った次元の誘いについてだがきっとあのオンボロアパートにいる限り回避できないだろう。
あのフラグだけは確実に立たせてはいけない。
そう俺の直感が言っている。
どこか別の住処があればいいのだが。
ひとまず置いて問題点その2。
金がない。
入学前までは学校側が無償で衣食住を提供してくれるという話だったのだが。
この学校でもしっかり格差があるみたい。
雑費やその他諸々含めて母さんがかき集めてくれた三万が俺の全財産だ。
食材は現金でもポイントでも支払えるが現金は現状の入手方法が存在しない。
バイトでも出来れば話は別だが。
やはりマグロナルドでアルバイト……。
つまりデュラハン号に乗って……。
いやいや敷地内を出れないし、そもそもポイントが毎月振り込まれるはずなのだからバイトなどする必要もないはず。
だいたい校内にマグロナルドなんてあるのかなぁ?
昼休みや休み時間に淡い期待を込めてBANKを確認したが虚しい0が表示されていた。
「あいつ昨日ポイント0って言ってたよな?」
「それって相当順位下なんじゃね?やべーな」
……そして問題点その3。
そりゃクラスの話題にもなるわな。
今も俺の方をチラチラ数名の生徒からの視線を感じている。
俺は頬杖をつき周りに聴こえるくらい大きな溜息を吐いた。
「あの感じだとまじでやばかったんだな、やっぱ勉強しといて良かった〜」
「でも私の友達は下から30番くらいだったけどポイントは支給されてたみたいだよ」
いいなぁ〜。
なんで俺には支給されてないんだろ。
「でもほら言ってたじゃない勉強だけじゃないって」
思い当たる節が全くないが何かしらの形で俺は減点対象に引っかかった訳か……。
凄い、俺心の中で彼らと会話出来てるよ。これはつまりもう友達関係にあるってことだよね?
そんな虚しい現実逃避をしている場合ではない。
誰か俺を養ってくれるモブ美少女は居ないのだろうか。
まぁそんな子が簡単に出てくるのがアニメで現実は甘くない。
こんなにも入学早々頭を抱えてるのは俺以外居ないだろう。
みんないいよね〜立派なモブしてて。
俺ももっと甘い汁を吸うモブキャラに昇格したいよ。
まぁそんな訳で今後の計画をもっと練り込んでいく必要がある訳だけど。
う〜ん、とりあえず腕を組んで考えようとは思うけどどうしたらいいのかさっぱりだね。
「ね、ねえ、なんの話ししてるの?わたしも混ぜてよ」
俺が頭を抱えているとそんな声が聞こえてきた。
その声の主はこのクラスで唯一の美少女名前は確か……。
「ゆずっち〜聞いてよ〜例の彼さ、やっぱ相当順位が下らしいよ〜わたしの友達も相当悪かったみたいだけど彼はそれ以上みた〜い、やばいよね〜」
彼女ゆずっちって言うのか……柚木だからゆずっち。
なるほどねー。
どっかのお笑い芸人みたいだね。
まぁ、あまり関わってはいけないな。
今回の件はモブらしからぬ行為をしてしまった。
今後はクラスの話題に一切上がることのないよう注意しなくては。
反省〜反省。
「だ、だよね〜」
彼女は俺を一瞥しバツが悪そうにしていた。
ちょいちょい、人の顔に文句ありそうな顔しないで貰えますかね。
しかし……あの柚木って子。
視線や呼吸の乱れに立ち位置……そして何より。
会話がぎこちないな。
周りに合わせるのは賢い人間のする事だと俺は思ってる。
だが会話は聞くだけでは成立しないのだ。
聞き手には話題を広げる能力が、語り手には共感しやすく面白い話をする能力が必要だ。
それらの能力が高ければ高いほどカーストは上になる。
ちなみに反対意見を出すことも会話はしっかり聞いてると言う解釈が相手側から得られるので悪くはないけど反感しているとか突っかかってくると言う印象も与えやすい。
その辺の塩梅を分かってる人間が将来出世するんだろうね。
つまりはこちらから一切話す気のない俺はカーストが一番下ってことだね。
「それに比べてゆずっちはすごいよね学年順位もTOP10に入ってるんでしょ?いいなぁー」
「ええ〜そんな事ないよ〜そんなに高くないしそれに今回はたまたま運が良かっただけだよぉ〜特に勉強もしてないし〜」
両手を広げ違う違うみたいなジェスチャーを顔の前でする。
それを見たリーダー的な女の顔が豹変する。
あぁ〜その発言はもしかすると良くないかもねぇ〜。
ふふっ俺には全てが分かる。
あえて言おう俺はまだクラスの人と話したことがないと。早く友達欲しい。
なんで友達居ないくせにこんな偉そうなんだとか言う苦情は受け付けてません。
俺の予想通り賑やかな雰囲気が一瞬にして変わった。
大体高校生のクラスにボス的立ち位置の人が二人から四人くらい出来るものだがこのクラスだとあのバカでかい女の人がそのボスポジションみたいだ。
「なにそれ……運が良ければ誰でも順位上がれるって事?いいよね〜顔も良くて愛想もあって勉強も出来てさ〜なんかあたしらのこと見下してる感じもするし?」
「あ〜それちょっと分かるかも〜」
「だよね〜あたしらみたいになんもない人間も沢山いるって理解してほしいよね〜」
空気が重くなったのがこっちの方まで伝わる。
最近の女の子の地雷はいつ起爆するか分からないから怖いね。
ちなみにうちの妹はもっと怖い。
ほんのちょっとコーラの蓋が緩かっただけで炭酸抜けるだろ!って怒ってたし。勝手に下着を枕がわりにしてたら殴られたし。
女性の沸点は分からない。
「そ、そうゆー訳じゃないけど……」
手のひらを合わせもじもじとしている。
なんとか笑顔を取り繕い彼女のご機嫌を取ろうとしているが……。
しかし彼女はそんな事お構いなしに捲し立てる。
「ポイントもいっぱいもらってんでしょぉ?そーだ!これからみんなでカラオケいこぉよ!昨日たまたま見つけてさー」
うわぁ〜なんてベタな展開。
お前のポイントでなぁ!って事ですよね。
やっぱどんな時代でもちゃんと上下関係ってのは生まれるんだなぁ。俺もおこぼれ貰えないかな?
今日のご飯ですらどうしようか真剣に考えてるからね。
半額のお弁当とか恵んでくれないかな?
「う、うん!もちろんいいよ!」
やったありがとう。と言う勝手な解釈はやめよう。
ボッチあるある、勝手に人の会話に参加し脳内で完結させる。
「ほんとー!?やっぱゆずっちと私らは友達だよねーみんなも来るでしょー?その後はご飯も行こうよ〜買い物もしてさ〜」
その鶴の一声に囲いの女子達も首を縦に振った。
なんとも居心地の悪い空間が出来上がってしまったのだろうか。
担任の山本も職員会議に向かってしまったし、他の生徒も傍観を決め込んでいる。
……全く嫌なもん見せつけやがって。
可愛い女の子をやってたかっていじめて。
こんなのが許されるはずがない。
俺は椅子を後ろにひき鞄を背負う。
やれやれ……仕方ないな。
こんな場面で自分から動く人間なんてごく僅かだ。
ファーストペンギンだって群れの中でたった一匹しか存在しない。
だからやることはただ一つ。
俺は音も立てずに忍足で教室を去った。
ーーーー
午後5時を回った頃、会議室に一年の教師達が一斉に集まった。
この学園では一年の一番初めの授業を終えた後に必ず定例議会が開かれる仕組みになっている。
まだ創立されて年数も浅い学校という事もあり、どの教師も固唾を飲み込んでいる。
ここにいる教師は大半がエリートだ。
だがそんなエリート達ですらもミス一つでクビになりかねないのがこの学校。
創立初期から続いている教師は片手で数えられるくらいしか残されていない。
ここに就職出来たものは一生安泰と言われている。
そんな夢見たいなことが実際にあるのだ。
けどその夢も一歩間違えれば全て失ってしまう。
それが怖くして仕方がないのだ。
真っ暗な部屋に大きなスクリーンが一つ。
30人程居て円を描くようにそれぞれが向かい合っている。
校長の後ろにある大きなスクリーンには生徒の能力や世間の評判など色々なものが映し出されていた。
教師はそれぞれ真っ白な紙を一枚持っている。
誰もがまだかまだかと待ち望んでいる。
この緊迫した空気に耐えられそうにもない。
パンッと手を叩く音が室内に響く。
「それでは定例通り会議を始めます、議題は今年の一年生の現状です、まずは柳田先生お願いします」
校長が促し柳田が立ち上がる。
「初参加の先生も多いでしょうが会議の内容を詳しく説明などしません。その目その耳で理解しこの学校に相応しい教師だと示してください。それでは本題に入ります」
柳田はPCのエンターキーを押す。
「私の見立ててでは今回の主席である大谷 翔君が群を抜いて優秀と言えます、2位の本田 龍樹君も例年に比べてかなりハイスペックの様ですが性格に少々難があるように見えます、他はまぁ……ぼちぼちと言ったところでしょうか、良くも悪くも上と下がはっきりと分かれています」
柳田先生は手元にある生徒のスペックが記載された書類を見ながらそう話した。
それぞれの教師にも同じものが写し出される。
「うん、我が校に優秀な生徒が入ってくれて嬉しいね〜だけど僕が特に注目しているのは運動や勉強ではなく個の所有しているスキルの方なんだよ、面白い子は居るのかな?」
スキルと言う言葉を聞き今年配属となった教師は聞きなれない言葉に困惑していた。
スキルとは?何かの比喩だろうか?
疑問が浮かぶ。
自分たちには理解出来ない仕組みやルールがこの学園には沢山存在しているのだから。
既に理解しているものはより一層柳田や校長の声に耳を傾ける。
初任の教師はここでしか得られない情報があることを理解し始める。
「……スキルですか、確かにここ最近で特に重要視されているものです、私はあまり好きではありませんが裏の政治では注目の的ですからね……」
柳田はメガネの位置を正す。
書類にはそれぞれの生徒にスキルが映し出された。
「やはり大谷君の[万能]でしょうか、それに本田君の[支配者]もかなり特殊なのでしょう、松田君の[癒し]なんかもコミュニケーション能力では抜群に発揮されると思います」
それぞれのスキルの横に詳細が書かれている。
にわかには信じ難いような事がそこには書き記されている。
他人よりも優れていたり、明らかにそれを得意としているものをスキルと呼んでいるみたいだ。
分かる人にはそれをどう扱えばいいのか感覚的に理解出来てしまう。
もちろん不得意な人にとってはそれは理解し難い。
そんな曖昧なものに名称をつけているようだ。
スキルとは個が所持している得意な事程度に考えている人が殆どだ。
それを重要視しているこの学校はやはり最先端と言って相応しいのかもしれない。
そう思い始める教師もいた。
その逆ももちろんいる。
偶然得意体質なだけでスキルと大袈裟に表現しているのかと。
「ほほぉ!そんな凄い子達が居るのか……随分時代も変わったものだね、僕の時代では[器用]なんてスキルが会社では重宝されていたんだが、こうね溶接とか配線工事なんかで……」
校長が語り出したところで柳田がわざと咳払いをする。
「おお、すまんすまん、どうも歳を取ると自分語りが酷くてね続けてくれたまえ」
「それでは……新庄 晶君、おそらく校長は彼について聞きたいのでしょう……特別枠の彼ですが……」
議題はまだまだ続きそうだ。




