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第五話


 体の節々が痛すぎて目を覚ました。


 空気の悪さでむせ返り、俺はこれが夢ではない事を実感する。


 知らない天井はシミだらけで本来の色がわからなくなるほど汚れのついたものだった。


 幸い登校までの時間はかなり余裕がある。


 一度全てを整理しよう。


 俺の思い描いていた高校生活とは少し離れてしまったしね。


 と言っても家中にはとてもいられないので俺は一度外に出た。


 ーーーー


 「……どうりで日が当たらない訳だ」


 日光は全てこの高層マンションに遮られていた。


 朝になっても暗い理由がよ〜くわかったね。


 日照権の問題で訴える人もいるみたいだけど……。


 俺みたいな学年ビリが相手にされるわけもないよね。


 体を伸ばし腕を組んだ。


 さて、選択肢はいくつもあるが……まずはこの学校の自主退学だ。


 ……まぁこれは有り得ないよね。


 物語終了になっちゃうから。


 咳払いをして改めて腕を組む。


 次にボイコットだ、これは俺のように貧富の差を受けた同胞たちを集めて学校に反旗を翻す。


 俺の見立てでは下から100番まではこのような仕打ちを受けているはずだ。


 ……というか受けていてください。


 彼らに呼びかけをして仲間を集める……これは一番ありえない。


 俺は目立つ事は避け平和に学園生活を送りたいのだ。


 こんな事をするくらいならまだ自主退学の方がいいね。


 最後に生活態度を改善し勉強やスポーツ面でも良い成績を取る。


 これが文句なしの王道パターンだ。


 これなら特に語る事なく素直に勉強して何事もなく平和的解決方法になるはずだ。


 まぁアニメとか漫画的には監獄を脱出したり学校にボイコットを起こした方が盛り上がるだろうけど。


 ここは現実世界、二次元と三次元の区別もつかないほど頭が悪いわけではない。


 次元といっても大泥棒の話じゃないよ。


 「よぉ、こんな朝早くから突っ立ってどうしたんだ?」


 ん?随分と展開速いな……。


 通常の三倍の速度はあるぞ!


 俺は後ろを振り向く。


 すると身長180センチ近くの帽子で目元を隠し、髭の生やした男が立っていた。


 うん……まぁ確かに大泥棒の話はしてたかもしれないけどこれじゃあ色々置いてきぼりだよね?


 それに凄い猫背だね。


 「俺の名前は次元 三世……三年生だ、よろしく」


 うん……まぁ、見た目的にも次元が好きなのは伝わって来るが……。


 苗字が次元とは驚きだね〜。


 声も渋くてそっくりだし。


 リボルバー持たせたら完璧だ。


 「どうも新庄 晶ですよろしくお願いします」


 とりあえず適当に挨拶しとく。


 「おう、よろしくな……お前さんこの学校の新入生だろ?色々分からないことがあると思うがまぁ気楽に行こうぜ」


 次元はその長い手を伸ばし握手を求めた。


 「はい……で、なんか用ですか?」


 正直こんなキャラの濃い人とは関わりたくないのだが。


 まぁ今回はこの展開に身を任せるとしますか。


 「俺は一応このアパートの班長を任されているんでね、こうやって昨日入ってきた奴らに声をかけていたんだが……どうもお前さんだけ見当たらなかったってわけだ」


 あ、なるほど確かに隣の高層ビルの管理人もそんな事言ってた気がする。


 「そういう事でしたか、わざわざありがとうございます」


 何やらソワソワしているが、本題はこれからなのだろうか。


 ちょいちょい……変な事だけは起こらないでくれよ。


 「……まぁなんだ今から大事な事を話す、だから耳の穴かっぽじってよく聞け」


 俺は次元に手招きされ耳を傾ける。


 「この学校のシステムについての事だ、これから話す事はいずれ教師からも明かされるだろうがお前さんには伝えとく……理由は分かるか?」


 これまた急な展開……。


 どうでもいいので聞き流したいが。


 まぁ向こうはノリノリだしちょっとだけ乗っておくか。


 俺だけに秘密を伝える理由……まぁ秘密の共有ってのは信頼関係があって成立するもの。


 つまりその逆で信頼関係を作るために秘密の共有を作るってことかな。


 「そうですね……信頼を得るためですかね」


 俺は信頼なんかよりお金が欲しいけどね。


 「悪くねぇ答えだ、まず初めにこの学校の順位変動があるとするなら中間や期末、文化祭に体育祭と言った行事の時だ、だが入学説明の時に教師はなんて言っていた」


 俺は思い出せる限りで次元の求めているキーワードを探す。

 

 正直あんま覚えていないが……。


 「えっとー順位をこまめに確認しろとかなんとか」


 そんなこと言ってた気がする。


 気のせいかも。


 「ビンゴだ」


 あ、なんか当たってたみたい。ラッキー。


 「つまり順位の変動はほぼ毎日起こる。ただこいつはちょっとした事で順位が上がるって意味じゃない、簡単に順位変動が起こるイベントがあるって事だ」


 「そ、それってつまり……」


 俺は固唾を飲みこんだ。


 なかなかいい演技だと我ながら思う。


 「それは生徒同士のデュエルだ」


 「生徒同士のデュエル?」


 デュエル……つまり決闘って事か?


 まさかカードバトルで順位が上がるって事?


 あのライフが削れる音好きなんだよね。


 「簡単に言えばお互いの承認が得られれば教師を通してデュエルする事ができる、ルールは生徒同士が決めそれを平等になるよう教師が調整する。例えばだが男子と女子が運動系のデュエルをするとしたら男子の方が有利になる事が大半だ、それを上手く調整するのが教師の役目って訳だ、ちなみにジャッジを下すのも教師」


 俺と次元は数秒無言で見つめ合った。

 

 ……うん。


 よく分からないが。


 どうやらカードバトルではないらしい、俺のターン!とか言いたかった。


 「勝ったものには負けた相手から所有しているポイントまたは順位ポイントのどちらかが貰える、1/3だったり半分だったり全部なんて事もある、まぁこれらは自分の所有しているポイント次第で決める事が出来る」


 ふ〜ん、よく分からないけど分かったフリをしておこう。


 「つまり順位ポイントかポイントのどちらかさえ持っていれば掛け額を上限まで引き出せるって事ですねそして逆に相手のポイントより少なければその分でしか賭けることができない」


 「そうだ!なかなか呑み込みが早いな……」


 あざまぁ〜す。


 どうやら俺は呑み込みが早いらしいです。


 「ちなみにこれにはグループ対抗戦なんてものもある、まぁこれに関してはまだ知る必要はねぇ、他に抑えとくべきポイントはデュエルが承諾されないパターンとしてはお互いの承認が得られない、ポイントの差があり過ぎる、これくらいだろうな」


 デュエルのルールについてはよく分からないが。


 なんとなく分かってきた……つまりこの人は。


 「お、なんとなく察したみたいだな……今日の放課後また詳しく話そう、ほんじゃあまたな」


 そう言って次元は踵を返した。


 その猫背姿はなんともさまになっていた。


 つまりは彼らは頭数を揃えて大掛かりなグループ戦か何かを仕掛けるつもりなんだろう。


 その為には少しでも人数が欲しい。


 確かに上手く行けばポイントを大きく動かす事が可能だ。


 こちらが増えなくても上の人間が落ちれば必然的にこちらが上がる。


 って言っても俺は0ポイントなんだが。


 とどのつまり……。


 この先次元先輩とは確実に関わってはいけない。


 これからデュエルをする事もない。


 ルールを覚える必要もない。


 物語の伏線でもない。


 以上、きっと彼と会う事はもうないだろう。


 ふぅ……厄介事は勘弁してほしいね。


 グ〜っと音が鳴る。


 俺はお腹をさすった。


 そんな事よりお腹減った〜……コンビニってもう開いてるのかな?

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