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夏休みその3

色々あって俺は二人の料理を審査する事となった。


 ちなみに隣には遠藤先生も座っている。


 うん、気まずいね。


 キッチンの方では山口と柚木が料理をしている。


 早く二人とも戻ってきて欲しい。


 だがまぁ俺は先生相手でも自分から声をかけるなんて事はしない。


 例えどんなに気まずくても余計な接点は作らない主義なのだ。


 だから今めっちゃ気まずい。


 「いいですか、男心を摘むにはまず胃袋なんて古い言葉が有りますが今の時代において胃袋だけ掴めばいいって物ではありません、女性でも学歴や運動神経やコミュニケーション能力や清潔感など様々な要因が必要になります、昔だったら料理さえ美味ければ男性も魅力的に感じたかもしれませんが時代は変化してこのような学校も出来たと言う事です」


 あ〜これはまた長くなりそうだね。


 ここでトイレに行きたいなんて言ったらさらに長くなりそうだからやめとくね。


 俺はコクコクと頷く。


 「この学校では全てを学べます、勉強にスポーツにコミュニケーション能力に生徒同士の対話だったりそれこそデュエルだったり地下労働のような厳しい罰だったりと、それぞれ自分で家をもって自炊したり……まぁ貴方はしていないですがそれでも問題はないのですよ、パートナーを見つけて頼るのも大人になると言う事ですから……けど貴方は山口さんに頼りすぎです」


 おっしゃる通りです。


 「あんな素敵な女子が二人も貴方に好意を寄せてるのに対して興味なさそうな顔をしている……この少子高齢化時代において貴方みたいな人がいるから人口も減るのですよ、学生のうちから付き合い始めてそのまま結婚する事だって珍しくないのです」


 まぁ言いたい事は分かるけどね。


 俺も俺の信念がある。


 前までは山口となら付き合えるかもって思ってたけど彼女は変わった。


 もうモブキャラとは呼べないかもしれない。


 柚木に関しては話にならない。


 あれは完全に物語のメインヒロインだからね。


 そんな考えをしている俺を見透かしたのか遠藤先生は大きくため息をつく。


 それ生徒の前でするのよくないですよね?


 「あの二人の真剣な表情から目を逸らしては駄目です、どうも貴方は逃げ癖がついてるみたいですから、一度彼女達と真剣に話し合って決めるべきなんですよ、それも大人になると言う事です、義務教育は終わったのですから何しても貴方の自由ですが私は教師ですのでアドバイスをさせてもらってるのですよ、社会に出れば注意もされずにただ周りの評判が落ちて信用を失うだけなのですからね」


 うんうん、それにしても。


 本当に遠藤先生は良く喋るなぁ〜。


 流石に耳が痛い。


 「どうやら料理は出来たようです、私の長いアドバイスをちゃんと参考にしてこれから学園生活を送って下さいね、貴方は夏休み特に何もせず過ごそうとか考えてそうなので言っておきますが人生一度きりですから、後悔しないように」


 そう遠藤先生が言い終わるとテーブルに山口の作った肉じゃがと柚木の作ったチーズフォンデュが置かれた。


 ちょっと柚木さん、気合い入れすぎじゃないですかね?


 溶けた濃厚なチーズが鍋に入っており別皿には旬の野菜が細かく一口サイズに綺麗に添えられている。


 さらにはパンやチキンなどの肉系も豪華に揃っていた。


 「ふふん!どうよ!腕によりをかけて作ったわ!さぁ食べて食べて!」


 柚木の笑顔を見て遠藤先生はにっこりと微笑んだ。


 俺の時とは大違い。


 ずっと眉間に皺を寄せてたのに。


 この世の全ての食材に感謝を込めて。


 「「いただきます」」


 遠藤先生が口に入れるのを確認して俺も旬の野菜を手に取り優しくチーズを伸ばしてそれを巻いて口に入れる。


 味の濃いチーズと歯応えたっぷりの野菜との相性は最高で噛めば噛むほど野菜の食感とチーズの味が増していった。


 一口食べれば食欲がどんどん湧き上がってくる。


 パンも同様にもっちりとしたパンの食感とチーズがたまらなく美味しい。


 「柚木さん、大変美味しいです、おそらく私より料理がお上手ですよ、これはお世辞ではありません調理師免許を持ってる私が言うのですから」


 「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!ちなみにチーズも味変が出来るんですよ!」


 柚木は笑顔でガッツポーズをした。


 そして対するは不安そうにこちらを見ている山口。


 なんかいつもの山口の顔で安心する。


 山口の肉じゃがは簡素な物で適当に切られた人参やジャガイモ白滝に牛の細切れなどがまばらに入っている。


 俺は再び遠藤先生が口に入れたのを確認して俺も箸を手に取る。


 ……なるほど、いつもの味だね。


 俺は無言でむしゃむしゃ食べ続けた。


 「うん、山口さんもいい腕をしているわ、うちの子と結婚して欲しいくらいよ!貴方も調理師免許の資格取ったら?この学校が受験料講習料ともに負担してくれるから」


 「あ、ありがとうございます……考えておきます」


 山口も俯いてはいたが陰から笑顔が見えた。


 「それじゃ新庄さん、どちらの料理が美味しかったのか教えてもらってもいい?この勝敗で勝ったものには負けたものの全てのポイントが移動されるわ、さらに順位の変動もあるわ、その点を踏まえて公平に判定なさい」


 俺の中では一口入れただけで既に決まっていた。


 不安そうにこちらを見つめる山口。


 柚木は自信に満ち溢れていた。


 「まぁ普通に山口ですね」


 分かってたとは思うけどもちろん山口の方が美味しい。


 柚木は目を大きく見開き信じられないと言う顔をしていた。


 山口は安心したのかほっと息を撫でていた。


 「理由を聞かせて貰っても?」


 「まぁ遠藤先生のアドバイス通りにって感じですね、柚木の料理なんてレストランで出るレベルだとは思うんですけど俺には毎日食べてきた山口の料理の方が美味しく感じました」


 多分食べ慣れてるってのもあるかもしれない。


 好みもあるけど俺は山口の安心する甘口ベースの肉じゃがが好きなんだよね。


 これがまたご飯によく合う。


 出汁をご飯に浸して食えば牛丼の汁だくみたいな感じで最高に合う。


 「山口ご飯ある?米食べたい」


 「う、うん……あるよ……あと七味だよね?」


 俺は無言で親指を立てる。


 さすが山口よく分かってる。


 「嘘よ!なんで!?晶くん!私の料理がこんな質素な肉じゃがに負けるのよ!?」


 「ルールはお互い了承してたでしょ?それに柚木さん、新庄さんはしっかりとした理由を言っていました、確かに今回は負けてしまったかも知らないけど貴方はそれで諦めるの?違うでしょ?先生は知ってるのよ、柚木さんがすごい努力家で頑張っているってことを」


 柚木は遠藤先生の言葉に耳を傾けて肉じゃがを見つめる。


 そしてそれを食べた。


 てかそれ俺のなんですが……このあとご飯と一緒に食べようと思って残してた分……。


 「うん……確かに美味しい……けど認められないわ!絶対私の方が美味しく作れるもの!晶くんの好みに合わせてもっと美味しい肉じゃがを作ってみせるわ!」


 遠藤先生は笑顔でうんうんと頷いていた。


 俺には仏頂面なのに。


 「山口〜肉じゃがまだある〜?」


 「う、うん……食べきっちゃったの?」


 いや、食べられました。勝手に。


 「私ももらうわ!山口さんなんかには負けないんだから!」


 「いいわねぇ〜青春って感じがするわ〜」


 この人はいつ帰ってくれるのだろう。


 こうして俺たちの夏休みが始まった。

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