夏休みその2
俺は今山口と柚木と三人で下校している。
この通り慣れた帰り道を特に何も考えずボケッとしながら帰るのが好きなのだが。
どうやら山口と柚木の相性が悪そうだ。
ちらほら校門を抜ける生徒もいてそれぞれショッピングモールへ向かうものだったり、アミューズメント施設へ向かうものだったり俺たちみたいに帰路はつくものだったりと十人十色だ。
そもそも柚木と山口の初接点があのバスの中での出来事だったしなぁ〜。
あの時は柚木がメンタルやられてて逆に山口は絶好調だったし。
けど山口の目元って結構綺麗なんだな〜。
俺はそんなことを思いながら二人の会話を聞き流していた。
「私の方が晶くんを満足させる料理作れるんだからね!山口さんはその辺を理解してるの?あんま同じおかずばかり作ってると晶くん呆れて出ていっちゃうかもね」
全くもってそんな事ないけど。
いつも感謝してます。
特にこの間のハムカツは最高でした、ちょっと胸焼けしたけど。
やっぱ揚げ物は揚げたての状態が最高だよね。
惣菜も美味しいけど然ってるし。
「むっ!……料理は得意です、晶くんもいつも美味しいって……いいます」
「確かに山口の飯は美味しいし種類も豊富だね」
俺が頭の後ろで腕を組みながらそう言うと柚木の足が止まる。
俯き肩を震わせた。
あ、いつものメンヘラが出そう。
俺は足に力を入れて逃げる準備をする。
山口あとは頼んだお前のことは忘れない。
「それじゃ勝負よ!どっちが美味しいか!デュエルしようじゃない!私は全ポイントをかけるわ!」
まじかよ、なんかめんどくさい展開になりそう。
俺は山口を見てやめようとアイコンタクトを送る。
だが山口はニヤリと笑い嘲笑うかの如くその表情を柚木に見せつける。
あれ?山口こんなキャラじゃないよね?
「い、いいですよ……デュエルしましょう……ちょうど家計に困ってたのでラッキーです」
俺はなんとも言えない立場にいた。
家計を困らせてるのは紛れもなく俺ですからね。
一応生徒の順位によって支給される物はグレードアップするのだが量自体はそこまで変わらない。
ちなみに俺の場合だと無駄なく使っても一ヶ月持たないレベルの支給しかされない。
そのため山口は支給分と自分のポイントを使って俺を住まわせてくれているのだ。
本当に助かってます。
バチバチと火花を散らす二人。
そう言えばこの二人の順位ってどっちが上なんだろ?
確か柚木はもともと学年順位10番以内って聞いた事あったけど対抗戦で負けて飯盒炊爨でも悪い成績を残してしまった。
流石に10番以内にいる事はないだろうけどどれくらい落ちたんだろ?
逆に山口は元々は59位くらいだったはず。
対抗戦では上がる事はなさそうだけど飯盒炊爨ではそこそこいい成績だったって言ってたし40位くらいなのかな?
正直その辺は全く予測できない。
だって俺486位だし。
ポイントの支給も一回しかされた事ないし。
しかも5000ポイント。
ちなみにもう使い切った。
「デュエルの宣言聞きました」
いつの間に……この人は家庭科の先生で調理師免許も教員免許も持ってる凄い人だ。
確か名前は遠藤 久美子。
二児の母でお子さんは既に社会人になりまた教員に復帰したらしい。
俺このおばちゃん苦手なんだよなぁ。
「そこの男子、パッとしませんが料理がどれほど大切なものか分かっています?美味しいものを食べればストレス発散にもなり栄養バランスよく作ることにより病気を未然に防ぐ事もできます、これはつまり社会人になってからも必要となるスキルなのです、たかが料理誰が作っても変わらないなんて考えをしているのでしたら大きな間違いです」
てな感じで毎度俺に説教してくる。
それを俺は黙って聞いて黙って頷く。
「おほん、話が脱線してしまいましたね、場所は山口さんの家で問題ないですか?……では材料はこちらで用意させてもらい判定は新庄さんにしてもらいます、一応警告しますが贔屓しては駄目ですからね、貴方が口に入れて美味しいと思った方にして下さい、大体貴方は表情をあまり見せないし口数も少ないので何を考えているか分からないのですよそれに……」
この後も十分ほど説教されて山口宅に集まった。




