番外編 夏休み
この新教育型高校の一学期が終わった。
七月後半ともなると流石に暑過ぎて誰とも話す気にならない。
あ、もともと誰とも話してなかった。
クラス内は浮かれていた。
この名門校での初めての夏休み。
それぞれ自分の家があり毎月のポイント支給でお小遣いも沢山ある。
普通ならお小遣いとかバイトで稼いでやりくりするものだがこの学校に関してはそんなもの必要ない。
ま、俺はポイントの収支は0なんですけど。
スマホに表示された[新庄 晶 残0]の文字を見てbankのタスクを速攻で落とす。
見たくないけど気になる。
もしかして何かの間違いで支給されてないかなと言う淡い期待を抱き確認するも現実は無慈悲だ。
見なきゃ良かった。
俺は前回の飯盒炊爨のテストで酷い結果を出した。
でも結果的に大事にならずに済んだし良かったと思ってる。
代わりにクラスの女子からは嫌われることになったけど。
ま、同じクラスでもほとんど面識ないしなんなら一回も喋ったことないし。
「あ、晶くん山本先生が来ましたよ」
そう小声で言ってくるのは山口 亜衣。
俺が唯一会話する相手であり俺のご主人様だ。
……てのは嘘で訳あって彼女の家に居候させて貰ってる。
衣食住の全てを提供して貰ってる山口様には感謝感謝だ。
「ん、あれ?山口の席に別の人がいる」
「……またそれですか、てかよだれ垂れてるので拭いてください」
そう言ってハンカチを手渡してくる。
さすが山口様、気が利く。
山本先生が話し始めたので俺はそのままハンカチをポケットにしまい頬杖をつきながら話を聞き流す。
ハンカチは後で返すからね?
盗んだ訳じゃないからね?
ところどころ話は聞いていたが夏休みの校則についてだとかデュエルは夏休み中でも出来るだとか羽を伸ばしすぎないようにだとか。
ちなみにデュエルってのはお互いのポイントを賭けたバトルみたいなものだ。
掛け金を決めて双方合意のもとで行われる。
内容は勉強だったりスポーツだったりなんでもいいらしい。
この間クラスメイトの話を盗み聞きしてたけど早食いとかオセロでもデュエルしていたらしい。
そんなの賭け麻雀と一緒なんじゃ……。
ザワ……ザワ……。
「それじゃ以上の注意事項を守ってまた一ヶ月後の新学期に顔を出してください」
そう言って山本先生が教室を出て行くとまたクラスが一気に騒がしくなった。
そう言えばあそこの空席の人結局来なかったな〜。
どうでもいいけど。
「晶く〜ん、今日一緒に帰ろ〜」
この元気いっぱい黒髪ショートの女の子は柚木 梨恵この子も訳あって俺と唯一会話人物の一人。
柚木は可愛くてスタイルも良くて誰に対しても愛想がいい……。
と言うキャラは崩壊して実は柚木はかなり思い込みの激しいメンヘラなのだ。
今も笑顔でこちらに手を振っているが俺にはわかる。
(昨日はなんで逃げたの?次同じことしたら私の部屋に監禁するからね)
と言ってます。
俺は視線を山口に向けて助けを求めた。
山口も柚木に視線を向け俺に向けを繰り返して首を横にブンブン振った。
天下の山口様でもメンヘラの対処法は分からないみたいです。
「いや、俺はこのまま山口と帰ってエアコンの効いた部屋でゴロゴロしたいんだけど」
多分また家に来いと言われるのは分かっているのであらかじめご了承下さいと遠回しに伝える。
大体俺は柚木みたいなキャラの濃い女子とは一緒に居たくないのだ。
モブキャラこそ至高でただ平和に三年間過ごしあわよくば贅沢をしてモブキャラっぽい彼女を作る。
あんまストーリーには関与しないくせに結構美味しいところを頂いているモブキャラが俺の目標なのだ。
つまり柚木みたいなメインキャラと関われば間違いなく厄介ごとに巻き込まれる。
俺は面倒はごめんだと言ってなんだかんだ物語に関わるようなラノベ主人公とは違う。
そう言うところは徹底して回避するのだ。
だがしかし柚木の顔が般若みたいになっているのを見ると流石の俺も何かしら声をかけなきゃ気まずい。
「と、途中までならいいけど……」
「うん!それじゃ一緒に帰ろ?晶くん!」
そう言って俺の手を引っ張り教室の扉をくぐった。
「あ……ま、待って下さい」
山口も俺の後ろをトコトコついてくる。
教室を出て行く際クラスからの視線に気がついた。
俺は本当に目立ちたくないのに……。




