第四十八話
最近は一人寂しく登校している。
今まで特に意識してなかったけど、山口がいないとどうも落ち着かない。
特にこれと言って会話をする訳でもないし目線を合わせることもない。
でもなんでかな?この小さな隙間を埋めたい。
パズルだってあと一ピースくらいいいやってならないよね。
その一箇所が空いてる感じ。
こんな感情とうに捨てたと思ってたのに。
また不思議な感覚に陥る。
対抗戦の時に感じたあれと同じ。
燃え尽きてしまった蝋がジリジリと戻っていく。
山口の事を考えるとたまにこの味わった事のない感情が芽生える。
気持ち悪くて仕方がない。
呼吸が乱れる。
動悸が激しい。
よし、一旦落ち着こう。
俺は何度も大きく深呼吸を繰り返す。
……うん、問題なし。
今日もこないのかなと思い早めに教室へ向かう。
まだ静かで普段うるさいから自分の教室なのか不安になる。
不安の理由がそれだけなのかはわからないけど。
教室の扉を開ける。
今日も変わらない。
何も変化はない。
いつもの風景。
そこには居るはずのない人が居た。
窓は空いていて優しくカーテンが揺れる。
俺はすぐに口が開いた。
「あれ?山口の席に知らない人が居る」
「あ、相変わらず酷い事言いますね」
その声は間違いなく山口だった。
ボソッと呟く女性にしてはやや低めの声。
いつも聴いてる落ち着く声だった。
凄い嬉しかった。
またいつもの日々に戻れる。
彼女の顔を見たらそう確信してしまった。
言いたい事は沢山ある。
謝りたい。
文句だって言いたい。
けどそんな事必要ない。
俺たちはいつも通りでいいんだ。
「山口どうしたの?髪の毛切った?あと整形した?」
「し、してません!……けど髪の毛は切りました」
あんなに長かった前髪は目元が隠れないくらいになっていて背中まで伸びていた後ろ髪は首くらいまで切られていた。
あれ?山口ってこんな可愛かったっけ?
てか口調が敬語に戻ってるの違和感ある。
「あー!晶くん居た!なんで昨日逃げたの!」
うわぁ。
すっかり忘れてたがそう言えば柚木から逃げてたんだった。
俺は山口の背中に隠れる。
こう言う時頼りになるよね。
山口と柚木が睨み合う。
まさかのあの山口が視線を逸らさない。
やはり山口じゃ無い?
別人としか思えない。
「わ、私……負けませんから!もう考えすぎるのもやめます!ネガティブ思考も終わりです!柚木さんには絶対渡しません!」
おぉ、あの山口が声を大にしてる。
山口の横顔を見た時、もはやそれは別人だった。
俺の知っているなんでも下向きに考える山口はもう居ない。
本当に彼女は変わったのだ。
「ふ〜ん、あっそ、一応この間の件は謝っておくわ……ごめんなさい……けどね!私と晶くんは一晩過ごすような関係なんだからね!ふふん!どうよ?凄いでしょ!?羨ましいでしょ!?ちょっと雰囲気変えたくらいじゃ駄目なのよ!」
腰に手を当てドヤ顔をする柚木に対してニヤリと笑う山口。
「私なんてもう三ヶ月近くは一緒に住んでます」
そう言って俺の方を向きニコッと微笑む山口さん。
あれ?見た目だけじゃなくて性格も変わったのかな?
こんな感じじゃ無かったよね?
「はぁ!?ねぇ?どうゆう事かな?晶くん?そうだ!赤ちゃん!欲しいよね!?欲しいんでしょ!?私と作ろうよ!」
怖い、怖いですよ柚木さん。
そんな目で俺を見ないで。
「まぁ、なんと言いますか……俺はこんな展開望んでないって!」
俺は全力疾走でその場を離れる。
「待ちなさい!話は家で監禁してゆっくり聞くからね!」
「わ、私も一晩何かあったのか気になる……しんじょ……あ、晶くん!」
二人は追いかけながら何か言っていたが俺には何も聞こえない。
てか聞きたくない。
本当に頼みますよ神様。
俺はただ平穏な学園生活を送りたいだけなんだって。
モブでいいから。
 




