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第四十四話


 「お前のノートざつくね?これじゃ何書いてあるかわからないべ?」


 「いや、なかなかこのペン慣れなくてさ〜この間の数学なんてマジでやばくてさ、書いといた公式が読めなくて何も分からんかった」


 「そりゃそーでしょーちなその公式はこれな」


 「お!サンキュー!」


 いつもと変わらない日々。


 別になんもない日なんだけどね。


 その日の授業内容は殆ど覚えていない。


 ただぼーっと授業を受けても。


 昨日のことを思い出す。


 正直なんであんな顔されたのかも全く分からん。


 まぁ確かに柚木みたいな可愛い子にあんなアピールされた事を自慢したらうざいかもしれないが……。


 そんなこと気にする奴でもないし。


 山口が俺の事を好きで柚木との惚気話を聞かされたって解釈すれば辻褄は合うけど。


 まさかそんなわけないしな。


 ラブコメ主人公でもあるまいし。


 とりあえず連絡しておくか。


 ごめんなさいスタンプを連投しといた。


 身体がやけに重い。


 いつものご飯を食べてないからだろうか。


 それとも隣の席に彼女が居ないからなのか。


 理由は分からん。


 スマホの電源を落とすとそのまま寝たふりをして一日を過ごした。


 放課後になってもメールは返ってこなかった。


 このままだと今日もあのボロアパートで一日過ごす事に。


 一応生活できるレベルにはしてあるが次元とアゲハに加えて山吹先輩も俺の事を待ち構えてる。


 会いたくない。


 会えば絶対変な事に巻き込まれる。


 大体のアニメ主人公は嫌だ嫌だと言ってるくせに自分から厄介ごとに首を突っ込むが、俺はその辺は徹底しているのだ。


 見習って欲しいね。


 「新庄くん?どうかしたの?なんか冴えない顔してるね?」


 そこには眉を八の字にした柚木が心配そうにこちらを見ている。


 冴えない顔はいつも通りなんですけどね。


 「ん〜そうかな?」


 「うん、あ、でも冴えないのはいつも通りか」


 こう他人に言われると納得いかない。


 そんな心情を読み取ったのかニヤリと笑う柚木。


 「あれ?もしかして怒った?」


 「いや?」


 「隠さなくても分かるよ?私は人一倍そう言うのに敏感だからね、説得力あるでしょ?」


 腰に手を当てる柚木。


 そのでかい胸が一際強調された。


 「じゃあ俺が今何考えてるか当ててみて」


 「私のおっぱいもみしごきたい」


 おい、そこまでは言ってない。


 「残念はずれ」


 「えーうっそーだ、やらしい目で見てたじゃん」


 「そうですか」


 「そうで〜す」


 俺は頬杖をつけながらメールの受信ボックスを眺めると視界に柚木の顔が入ってきた。


 「今日さ、私の家来ない?」


 え?まじで!?


 俺は超高速思考モードに入る。


 ……いや〜でも柚木は確実に物語の主要人物でその柚木の家に行くとなると俺はラブコメの主人公ルートに入ってしまうのでは?


 だがあのままオンボロアパートに居続ければあのキャラの濃い連中に巻き込まれてそれまた別の物語の主人公ルートに入ってしまうかもしれない。


 そうなると必然的に目立つのは後者で前者は誰にもバレなきゃ問題ない。


 それに俺は確かに柚木を可愛いとは思うが付き合いたいかと言われればそんな事はない。


 それに女の子の招待を断るなんてとんでもない!


 決して柚木の部屋に行きたいわけじゃない。


 うんうん、これは仕方ない事なんだよ。


 そうとなれば!


 「うん、お邪魔しようかな」


 「本当!?じゃあ放課後一緒に帰ろうね?じゃまた後で〜」


 手を振る姿も可愛らしい無邪気な女の子だ。


 この後酷い目に遭う事になるとはこの時の俺は知る由もない。


 ーーーー


 何故こうなった。


 俺は一体どこで道を間違えたんだ。


 てか後悔するの早くない?


 「晶くん、私ね気づいちゃったんだ……もう自分の欲望に素直になろう、それが一番よくて幸せなことに」


 「そうだね、俺もそう思うよ」


 「でしょ?だからさ……このままずっとここに居よ?」


 「ん〜ずっとは困るかな」


 「どうして困るの?」


 いや、困るでしょ?


 だが柚木は本当に分かってないようでピュアな表情をしていた。


 目は完全にハートの形になっているが。


 「あ、そっか!ご飯ね?それなら私が毎日作って食べさせてあげる!トイレも行きたくなったら私が手伝ってあげるから!」


 あー断ったら殺される。


 マジでどうしよ。


 柚木の目が完全に逝っていた。


 「なんで何も言ってくれなの?私寂しいよ?……あ、そうだ!あの時一緒に食べれなかったからカレー作ろうと思ってたんだ、私が食べさせてあげるね」


 「わ、わーいカレー好きー、作るの手伝うよ」


 「本当!?じゃあ解いてあげるね」


 助かったー。


 とりあえず一時的に解放されキッチンに案内された。


 さてどう脱出しようかな。


 「私ね、意外と料理得意なの……どう凄いでしょ?」


 エプロン姿の柚木はシンクで手を洗い、褒めてと言わんばかりにこちらを見てくる。


 「そうか?別に意外でもないでしょ」


 「そ、それってつまり私に専業主婦になって毎日美味しいご飯作ってって事だよね?プロポーズって事だよね?」


 俺の数少ない返答からどう導き出されればそんな結果になるのか教えて欲しい。


 「いや、違いますけど……やめてくださいその包丁を一旦置きましょう」


 「私と結婚するんだよね?子供は何人欲しいの?私頑張るよ?」


 そんな生々しい話はいいから料理を頑張ってください。


 「俺も何か手伝おうか?」


 「い、いいの?これって夫婦の共同作業ってやつだよね?私、生きててよかった♡」


 柚木は両手を合わせ天を仰いでる。


 本当凄いなこの子、思い込み激しすぎる。


 「一応俺も山口の手伝い良くしてたーー」


 俺が言い終える間に首に激痛が走る。


 おまけに呼吸も出来ない。


 「ねぇ?山口って誰よ?女じゃないよね?もし彼女なら一緒に心中しよっか?あはは!あははは!」


 これは無理心中でしょ?


 てか君山口に一回あってるよね?


 俺は締め付けられている柚木の手をポンポンと叩く。


 「お、男友達です……ゲホッ!」


 「そっかーならよかった!それじゃ夫婦の共同作業再開だね?」


 まだ始まってすらいないんですが。


 あと首痛い。

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