第四十三話
彼は何も分かってない。
私がどんな気持ちであの場に居たのか。
きっと彼は私を守ろうとしてくれたのかもしれない。
でも違う。
私が欲しかった言葉はそんなんじゃない。
守って欲しくなんかない。
いじめられたっていい。
ただ一緒にいて欲しいだけなのに。
私とは友達でもなんでもないなんて。
聞きたくなかった。
たとえ嘘でもそんな事。
そんなに浅い関係だったの?
私だけが一方的に彼と特別な関係だと思ってたの?
彼氏彼女みたいな特別じゃなくても……。
友達って枠すら入れないの?
昔から友達なんて負担だし要らないと思ってた。
でも今は違う。
ただ一人でいいのに。
それすら許されない。
私が一度要らないと言ってしまったからきっと神様が意地悪をしているんだ。
気持ち悪くて吐き気が止まらない。
考えても考えても嫌なことが頭の中をぐるぐる回り続ける。
私は洗面所の鏡で自分を見つめた。
そこには髪の長い暗いギリギリ人間の形をした何かが居た。
これが私なんだ。
今までずっと逃げてきたけど。
これが私の姿形なんだ。
気持ち悪い。
吐き気がする。
嫌だ嫌だ嫌だ。
上手く呼吸が出来ず嗚咽を吐き涙が止まらない。
一体どれくらい時間が経ったのかも分からない。
なんでこんなに心が痛いの?
私は私が嫌い。
なんでも負担だと思って自分から捨てたくせに!
手に力がこもる。
一度手放したくせにまた拾い上げようとしている。
汚くて嫌な女だ。
大体私みたいな芋女を友達と思ってくれるわけないじゃん。
もういっそ全部忘れよう。
うん……そうしよう。
この間ちょっといい感じだったからって調子に乗ってたかも。
反省しなきゃ。
全部無かったことにしよう。
前から私はそうだ。
肝心な時に逃げる。
前に進まなきゃいけない。
分かってる。
でもそんな強い人間じゃ無い。
結局一番の敵は自分なんだ。
変わりたくても変わらないのは。
何かをしようとして無駄だって思い込むのは。
やって後悔するくらいならやらないほうがいいと逃げてしまうのは。
全部全部自分の所為だ。
また気持ち悪くなり嗚咽を吐く。
朝から何も食べていないので胃液だけがお腹の奥から吐き出される。
こんなくだらない事で悩んでる自分が嫌になる。
言葉一つに惑わされて翻弄されて。
言葉一つでここまで思い込んでしまう。
本当に恐ろしい。
言った本人にはなんとも無い一言でも。
受け手によっては酷く傷つく。
どっちが悪いとかそんなんじゃ無い。
言った方が悪いって思うかもしれないけど。
見方を変えたり相手のことをもっと深く知れば……知ろうとすれば。
思い悩むことなんてないのかもしれない。
こんな事なら一緒に居たくなかった。
あんな……暖かくて優しい空間を知りたくなかった。
何もかも嫌になってきた。
学校に行きたくない。
彼に会いたくない。
きっと真実は大した事ないって分かってるのに。
ただの私の勘違いで済む事なのに。
ほんの少しの可能性が私の中で大きく有り続ける。
彼があんな事を本心で言うはずがない。
いつもふざけてるけど人を傷つけるような事をする人じゃない。
けど私の防衛本能がそれを邪魔する。
なんで彼のことを分かりきってるの?
裏でなんて言われてるか分からないの?
こんな事で悩まされて嫌にならないの?
逃げようよ。
関わらなきゃいいじゃない。
楽になりたいでしょ?
そう語りかけてくる。
あんなに楽しかった日々。
出会って間も無いのに心を許せた。
それが全部全部嘘なんじゃないかって。
私が疑ってるの?
「……嫌だよ」




