第四十二話
帰り道、俺はいつも通り山口と帰宅していたが様子がおかしい。
もしかして弁当無駄にしたの怒ってる?
それともゴミ捨て行ってて時間遅れたから?
そんなんで怒るタイプでは無いと思うけど。
ん〜。
さっぱり分からない。
俺は鈍感系主人公じゃ無いからね。
きちんと謝れる男だ。
この調子で無視され続けるなら素直に謝ろ。
兎にも角にも早くこの沈黙を破りたかった。
いつもの空気感とは違う。
お互い会話は多く無いけど。
居心地は悪く無い。
けど今の空気感は明らかにピリピリと張り詰めている。
「すっかり嫌われ者になったなぁ〜でも何故か柚木には付き纏われるんだよね」
「そう……良かったね」
チラッと様子を伺う。
無表情だね。
「柚木の弁当結構凝っててさ〜食材とかいくらするのってくらいの高そうなの使ってるんだよね〜」
「うん」
ん〜相変わらず無表情。
「ホームルームの後も舞浜と高島にゴミ捨て手伝わされて……しかも二人とも付いてくるから凄い気まずかったし」
「……良かったね」
そっけない返事をする。
声が低くて小さいのはいつも通りなんだけど。
エッジのかかった怒り気味の声。
今日はめんどい人に絡まれすぎて山口まで構ってる余裕はなかった。
だから俺も少しイラッとしてしまう。
もう付き合いも短く無いんだから。
はっきりと言って欲しい。
「なんだよ良かったねって、俺は……」
不思議といつもより感情がこもっていた。
まぁそれでも普通の人に比べたら言葉に乗ってる感情は少ないだろうけどね。
足が止まる。
山口は俯き肩を震わせていた。
「き、今日は家に来ないで」
鼻声でそう言う山口。
俺はハッと冷静になる。
あれ?なんで?
こんな強めに言ってしまったのか理解出来ない。
「えっとさ?どしたの?……何をそんなに怒ってるの?弁当一緒に食べなかったのはごめんなさい、だから」
「ううん、違うの!お願い……今は顔も見たくない」
泣いてた。
あの山口が。
いつもビクビクしてて。
人一倍臆病だけど。
泣いてるところは初めて見たかも。
俺は後ろ姿を見つめる事しか出来なかった。
一体何が山口を怒らせたのかさっぱり分からない。
でも彼女がここまで感情をあらわにしたことがあっただろうか。
きっと今どんなに言葉を取り繕っても山口の感情を抑える事は出来ないだろう。
結局俺はオンボロアパートで一夜を過ごした。
ご飯は現金で買った。
いつもより高めにメインの弁当に色々な惣菜も買ってきた。
嫌な事があった時は美味しいものを食べて全て忘れるべきだよね。
生姜焼き弁当に沢山の揚げ物たち。
飲み物もりんごジュースに苺ミルク。
「いただきます」
シンとした部屋でポツリと呟く。
部屋は以前飾り付けをして多少は明るくしてある。
それに目の前には沢山の料理が。
けどなんだろう。
あれ?この部屋ってこんなに暗かったっけ?
初めて来た時よりも真っ暗に感じる。
ご飯もちょっとずつ手をつけてもう満足してしまった。
あとは明日の朝にでも食べればいいよね。
あの山口の目が俺の脳裏に焼き付いて離れない。
次の日殆ど寝る事もできずに俺は学校へと向かった。
だがそこに山口は居なかった。




