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第三十七話


 ある程度野菜を籠に入れると既に柚木の姿は見当たらず俺は置いてきぼりにされていた。


 ……まぁ女子三人の男子一人だとこうなるよね。


 誰ですかハーレム羨ましいとか言ったやつ。


 現実見ようね。


 どこで洗うのかもよく分かってないので周りの人の動きに合わせてなんとかそれっぽい所まで着いた。


 みんな勢いよく水を出して袖をまくりながら野菜を一生懸命手洗いしている。


 お、いつものモブ達もちらほら。


 「この量やばくね?洗うのも一苦労じゃん?」


 「いやぁ〜まじ大変だわ〜こっから野菜の皮剥いて切って鍋煮込んでってまじ大変だわ、何時間かかるのよ?俺、腹減ったわ〜」


 それじゃあまぁやりますか。


 俺は今無心で野菜を洗っている。


 この土のついた野菜達の汚れを綺麗に落とし綺麗な籠に入れる。


 時間とか余計な事を考えるだけ無駄だ。


 「てか野菜って地面から生えてくるの知らなかったわ〜ジャガイモとかこんな色してたんだな」


 「お前無知すぎだろ、ちなみに玉ねぎのこのふさふさ部分で何作られてるか知ってるか?これ実はな、習字の筆なんだよ!」


 「まじかよ!俺習字やった事ないから知らなかったわ!お前本当に物知りだな」


 いやいや、どう考えても嘘だろ。


 「だろ!?昔の人はこう言う所で無駄にしないよう知恵を使ってたんだよ!……てかお前皮剥き早くね?」


 「……ん?そうか?なんつーかさたまにあるんだよなぁ〜生まれ持った才能的な?なんか本能的に分かるべ?」


 ……そんな才能要らないってのはさておき。


 確か山口も似たような事言ってたような。


 でもそれってつまり……。


 「じゃあお前の才能は皮剥きかよ」


 「ちょ!そんな才能要らないって〜お前もなんかあるべ?そう言った得意みたいな事」


 「俺か〜特にそう言った事は無いけどなぁ〜あぁ……でも昔からよく鳥のフン落ちそうだなぁ〜って思って止まったら目の前に落ちて来たり、雨降りそうだなぁ〜って思って晴れの日に傘持ってったら雨降ったりとか」


 「なんだよそれ?危機管理てきな?嫌な予感が当たるってやつ?」


 「ん〜俺にもよく分かんね」


 へぇ〜。


 みんな楽しそうにしていいね。


 俺もモブキャラになれてて嬉しい。


 こうやってだらだら会話して、意味のないノリと勢いだけで時間が経っていくのも案外必要だったりするしね。


 生産性がないとか行動全てに意味を持たせようとするのは政治家くらいで十分だ。


 とまぁひとり寂しく野菜洗いをさせられてるせいかアウトロー気味な考えをしていると柚木が見えた。


 白くて細長い指先で野菜たちの土を落としている。


 楽しくなさそうなのは柚木くらいか。


 彼女もまた俺と同じ無心で野菜を洗い続けている……はず。


 実際は何を考えているのかは分からない。


 もしかして無心で洗う才能があるのかな?


 俺は手に持ってる人参を見て舞浜のあれを思い出した。


 うわぁ……人参はちょっと見たくないね。


 あそこがヒュンってする。


 とりあえず一通り終わって野菜も適当に切った。


 その間柚木とは一言も喋ってない。


 まぁ話すこともないしね。


 後は火にかけて煮込むだけだ。


 鍋に水を入れ沸騰したところにルーを少しずつ溶かし込んでいく。


 俺は濃いめが好きなのでルー多めで。


 煮込み時間も長めが理想。


 火の通りにくい野菜から投入し最後にブロック状の牛肉を入れる。


 ちなみに俺は鶏肉が良かったが舞浜命令なので仕方なく牛肉に。


 火も通りずらいし部位にやっては硬くなっちゃったりするらしいから大変だ。


 まぁどれも美味しいし俺の知った事ではないから適当にやるんだけどね。


 全ての工程が終わり後は待つだけ。


 トイレ行くついでに山口の班の様子を見に行くか……あとあの動物達の様子も気になるし。


 ちゃんと米炊いてくれてるよね?


 一度鍋の蓋を開けぐつぐつと煮込まれたカレーを一周まわす。


 小皿に少量乗せて味見。


 うん、まだまだ煮込んだ方がいいね。


 小皿を置き蓋を閉める。


 火はつけたまま放置は出来ないし。


 仕方ない……声かけるか。


 トイレも行きたいし。


 「柚木、ちょっと火の様子見ててもらってもいい?」


 俺がそう言うと何も言わずに鍋の前に居座った。


 ほんとどうしちゃったのやら。


 まぁ、とりあえずトイレ行きたい。


 俺はのんびりトイレまで向かい用を足しシンクで手を洗う。


 ハンカチはないのでその辺に水を飛ばす。


 その辺の雑草に水あげてるのと同じ事だからいいよね?うんうん、自然に優しいよね。


 そう自分に言い聞かせ元のウッドデッキの方へ向かう。


 山口は……っともう完成してるのか。


 様子を見た感じ順当に料理を終えたみたいだ。


 黙々と料理してれば嫌なことも忘れられるのかな。


 ちなみに馴染めてはなさそう。


 料理中ちょくちょく見てたけど。


 素早い動きで隠し味入れたりとか味見とかしてた。


 さてと。


 後はあの動物達だけど……。


 こっそりと彼女達の方を覗くと相変わらず馬鹿でかい声で話してたので目立っていた。


 「マイマイ米多くない?まじ何合くらいあるのよって感じ?」


 「半分はあーしが食うしせんせー達も食うっしょ?やっぱ量あった方が成績上がるっしょ!」


 何やってんだあの人たち。


 「やっぱマイマイ天才だわ!……でもこの量運べなくね?」


 「ふふっ!そんなんあーしが今食っちまえばいい!醤油あれば半分はいける!」


 「ちょ!まじハンパないって!」


 はいはい、あのテンションについていけません。


 厨房に戻る途中でほとんどの班とすれ違った。


 皆料理が完成してカレーを提出しに行ってるみたい。


 答案用紙を提出するよりいいね。


 俺らの班もそろそろ完成する頃かな?


 遠目から施設を見ると既に俺らの班以外の人は居なさそう。


 相変わらず柚木は鍋の前に居る。


 欠伸をしながら近づいてくと妙に柚木はソワソワしていた。


 あれ?何してんだ?


 嫌な予感が……。


 遠目からで分かりづらいが鍋の蓋を開けて何か入れている。


 おいおい。


 まじですか。


 気を遣って隠し味なんて事はあるはずがない。


 そんな事するのは山口さんくらいだ。


 明らか何かヤバいものを入れてる気がする。


 土とか。


 そんな場面にモブの俺がいるのはおかしい。


 偶然見ちゃった主人公が止めてあげるパターンでしょ?


 それで悩みとか聞いてあげて友達になるやつ。


 幸い柚木はこちらに気づいてない様子だし。


 俺は見なかった事にした。


 うんうん。


 俺はし〜らない。


 少しずつ足を後退させていく。


 落ち着け……。


 ここでばれてはいけない。


 いつも通り俺の得意技を使えばいいだけだ。


 風の音が優しく聞こえる。


 同時に木々も揺れ。


 ゆっくりゆっくりと。


 それじゃ。


 さよなら〜。


 あとは主人公くんよろしく。


 パキッ……。


 あれ?


 静寂を切り裂く大きな音が鳴った。


 自然の音とは違う。


 不快感のある大きな音だ。


 俺は恐る恐る自分の足元を見るとそこには木の枝がVの字を描いて折れている。


 ですよねー。


 俺はなんでも知ってる。


 だからこれから起こる事も分かる。


 視線をゆっくりとあげるとこちらに全力ダッシュで向かってきている柚木の姿が見えた。


 ですよねー。


 逃げよ。


 てか包丁持ってなかった?


 うん、顔がバレたら殺されるね。


 俺は脇目も振らずひたすら走った。


 とにかく俺だって事がバレないようにしなくては。


 この距離なら顔までは見れないはずだ。


 地面を蹴り続け呼吸が荒くなる。


 怖くて振り向けない。


 俺だってバレたくないし。


 なんでこう厄介事に巻き込まれなきゃいけないんだ。


 とりあえずさっきの動物園まで走った。


 「てか臭いよねーマイマイもさーって……何あんた?どしたの?」


 俺は息を切らしながらここまで辿り着いた。


 乱れた呼吸をなんとか整えながら後ろを振り返りそこに追いかけてくる様子はなかった。


 そっと胸を撫で下ろす。

 

 た、助かったー。


 あの慌てっぷりは間違いなくやばかった。


 最悪殺されてた気がする。


 とりあえず人のいる場所まで来れば大丈夫だろう。


 俺は初めて人混みに感謝した。


 「おい!カレーは出来てんのか?あーしは醤油とご飯でちょい食ったから余計に腹減っちまった、丁度いいしお前これ持ってけよ!」


 俺の心情など知ったこっちゃないと言わんばかりの舞浜。


 炊飯の中を除くと既に半分以上はなかった。


 なんかちょっと醤油付いてるし食べたくない。


 「おい!お前もつまみ喰いするつもりか?そんなの許さねぇぞ!」


 「そうだぞ!あっ!ちなみに私はダイエット中だから要らない……でもルーは少し食べよっかな〜」


 いや、どう考えてもこの汚いこれが食べたくないだけでしょ?

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