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第二十九話


 東は呼び出しを受けていた。


 そんな様子をたまたま目撃した大谷。


 観察力に優れていたのでなんとなく東の居心地が悪いことを察した。


 「あれは東西南北の東くんか、確かかなり運動が出来て人望も厚いとか」


 そんな彼が喧嘩だろうか?


 声をかけて止めるべきかと考えた大谷だが東の性格上事を荒立てる事はないと判断した。


 彼なら常識の範疇で収めるだろう。


 多少の喧嘩は誰だってするさ。


 男子ならね。


 ……だが万が一彼が東くんより強いとしたら?


 もちろん僕は全生徒のスペックや能力を把握しきれているわけじゃない。


 まだ特に話題になっていないだけで潜在能力を持った人は沢山いる。


 学園内もまだ謎が多い。


 まぁ喧嘩が強くても彼には仲間がいる。


 信頼できる仲間が。


 ……僕の出る幕じゃないか。


 そう思って廊下を歩き始める大谷。


 だが東の挙動に違和感を感じていた。


 表面上では堂々とした振る舞いだが。


 大谷は人の深いところを見るのが得意だった。


 どうも気になる。


 頭を悩ませていると廊下の奥でやたら落ち込んでいる新庄とそれをフォローしている山口の姿を見かける。


 あれは新庄くん……何やら相当落ち込んでいるみたいだが何かあったのだろうか?


 「やあ新庄くん、落ち込んでるみたいだけど何かあったの?」


 新庄は大谷の顔を見ると嫌そうな顔をした。


 「うっ!……何やらまた厄介ごとに巻き込まれそうな予感……い、いや……実は今度の飯盒炊爨でのグループがちょっとね」


 大谷はその言葉で大体の事を把握した。


 そうかつまり彼はグループ分けで苦手な人と同じ班に……新庄くんは何故か目立つ事を嫌がっているしきっと明るい人達にでも囲まれたのだろう。


 やや的外れな考察をする大谷。


 そしてその視線は山口に移る。


 「そうなんだ、ところでこっちの女の子は彼女?」


 大谷の質問に山口は首を横にブンブン振った。


 「ち、違います!ただの……と、友達……です」


 大谷は山口をじっと見つめる。


 そうか彼女は新庄くんの事が……でも彼にその気はなさそうだし。


 まぁ長い目で見れば可能性はありそうだね。


 是非とも頑張って欲しい。


 「そうなんだ、うん、頑張って、応援してるよ」


 「はい……うん?あの……」


 山口はボソボソと話し続けたがその声は大谷には届いていなかった。


 大谷は先ほどの事が気がかりだった。


 「ところで二人は東西南北の東くんって知ってる?」


 「ん?まぁ噂程度になら聞いたことあるけど、確か……あっ、運動が得意とか」


 山口はまだボソボソと何かを言っている。


 新庄も大谷も全く気にしていないが。


 「やっぱそうなんだね……でも、もしも彼が実は臆病だったり……なんて事あると思うかい?」


 大谷の質問に新庄は手を横に振る。


 「いやいや、それはないでしょ、あの時も怖い声でお前はもう東西南北四天王じゃない!とか言ってたし」


 モノマネをする新庄。


 あまりクオリティは高くない。


 「東西南北四天王?……まぁそれはいいとしてやはりそうか……僕の考えすぎだったのかな」


 「あ、あの」


 今度は山口のその声が大谷まで届く。


 目を泳がせながらそれでも何か伝えようとしている山口の姿が大谷の目に焼き付いた。


 自分の意見を言おうとしているが不安なんだろう。


 僕にはそれがよく伝わってくる。


 「大丈夫だよ、ゆっくりでいいから教えてもらってもいいかな?」


 「えっと……誰でも隠してる一面はあるって言うか……取り繕わないとそこに居させてもらえないって事、あると思う……です」


 その山口の発言が一体誰に向けてなのか。


 西に対してなのか。


 柚木に対してたのか。


 東なのか。


 それとも別の誰かなのか。


 その真相は大谷には分からなかった。


 けど目を泳がせながらも。


 説得力のある話し方。


 声色や空気感。


 それらを大谷は全て感じ取っていた。


 そうか……。


 僕は一体何を悩んでいたんだろう。


 気になるなら見にいけばいい。


 物陰にでも潜んで何もなければそれでいいじゃないか。


 彼女は強い子だ。


 見た目に相反して芯が真っ直ぐしている。


 彼女なら……。


 いや、今はそれどころじゃない。


 「そっか……ありがとう、ごめんね引き留めて、新庄くんも頑張って」


 その大きな背中を見る新庄。


 一体何を頑張ればいいのか理解できないが。


 大谷と会わない事を頑張ろうと思うのだった。

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