第二十七話
相変わらず賑わっている教室に俺はボケっと教壇上の時計の針を見つめていた。
秒針がゆっくりと右回りに動く。
この時代にアナログな物を使うのは伝統とかなのかな?
時間なんてスマホとかタブレットみたいな電子機器で確認出来るのにね。
ほとんどの生徒が会話で盛り上がっている中俺は一人後ろの席で頬杖をついている。
まさに背景に溶け込んでいると言っても過言ではない。
こんな何もない毎日を過ごせている事に喜びを感じてる。
そういえばあそこの空席の人まだ来てないんだ。
視界の隅に映る空席はこの日常にやや違和感を与える。
まぁどうでもいいけど。
俺の順位は前回の対抗戦の結果もあり430位に上がっていた。
されに嬉しい事にポイントが5000ほど支給されている。
明らか一月耐えれる金額ではないがお小遣い程度にはなる。
今も山口の家で衣食住の全てを提供してもらっている。
これならこのポイントでも一ヶ月過ごすことが出来る。
本当に助かります。
ありがとう。
心の中で深いお辞儀をすませて隣の山口を横目で見る。
うつむき机の下でおそらくスマホを弄ってる模様。
さすが背景その2、俺に負けず劣らずの影の薄さ。
とりあえず心の中で敬礼しとく。
それより何買おうかなぁ〜5000あれば雑貨系なら大概の物は買えるし。
お菓子のセット買って山口と食べるのもありだなぁ〜。
最新のゲーム機を買うなら7万ポイント貯めないとだしマジで悩む。
うん!
ポイントがあるって素晴らしいね〜。
選択肢が生まれる。
その選択に対して悩める。
時間も潰せる。
俺は机の上に置いてあるスマホの画面を開く。
そしていつも通りテイッターを開く。
暇さえあれば見ちゃうんだよね〜。
『パンケーキ食べたい〜』
『どっかにポイント落ちてないかなぁ〜今月結構厳しい〜』
『幼女発見!眠そうな目でこっちを見ている!仲間になりたいのかな?まるで天使みたいだ』
『ここだけの話校舎からかなり離れた場所のとある施設で条件を満たすと何かいい事があるらしい、詳しくはフォローしてDMにて』
ふむふむ。
何最後の?
嘘くさいし曖昧だけどこの学園は謎が多いからね〜。
噂によると夜中で歩いていると警備ロボットに捕まるとか。
地下施設が作られてるとか。
大量のクローンなんかも生成されてるとか。
まぁ噂程度なんだけどね。
そんな感じでスマホをスワイプして眺める。
「なぁ最近お金も結構貯まってきたしなんかでかい買い物とかしたくね?お前何か欲しいものとかある?」
「ここではなんでも買えるからなぁ〜彼女もお金で買えたらなぁ〜まじ最高じゃね?」
周りの生徒はもう貯金とかし始めてるのか。
俺はその会話に耳を傾けた。
「彼女は無理でも犬は売ってるらしいぜ!なんでも既に上位陣は買ってる人も多いとかいう話だし値段はピンキリらしいけど血統書付きとかのも売ってるらしい」
「マジかよ!結構値段するべ?いいよなぁ〜金持ち……いや!ポイント持ちは!なんつって!」
「なんだよそれ!まじつまんねぇから!」
そんなどうでもいい会話で大盛り上がりしているいつもの説明モブ二人組。
本当仲良いよね〜。
「相変わらず君たちは平和ボケしていますね、やれやれですよ」
出た、データを捨てる乾。
前回全く役に立たない情報だけを残した乾。
こいつのせいで本当に東西南北と絡むことになって最悪だった。
「なんだよ乾、別に良いじゃねえか対抗戦も終わったんだし」
「そうだべ、お前のメガネ割るぞカス」
けっこう危ない人だな〜。
いつもの冗談だよね?
「君たちには特別に教えてあげますけど……ここ最近かなり武闘派のグループが幅を広げているんですよ」
「「へぇ〜」」
乾はいつもの調子で眼鏡をクイっとあげた。
「このままだと彼等にこの学校を支配されてしまいます、それに……クラス内でも少々揉めていますからね」
クラス内……俺はそのワードにピンとこなかった。
そうなのか、俺は気が付かなかったが。
俺と山口においては内輪に存在しないからね。
同じクラスなのに。
「あ〜例のあれな……ま、それは置いといて誰なんだよその武闘派グループは?」
え?クラス内のギクシャクについて知りたいのに。
唯一の情報源が……。
「東山連合初代総長の東山ですね、彼を筆頭に幹部が二人、そして下っ端が30人近くもいるらしいんですよ」
総長?
普通学校って番長とかじゃないのか?
俺は腕が疲れたので逆の手に変え再び頬杖をつく。
「まじかよ!30人って事は大体一クラス分だべ?しかも全員が武闘派って事だから……やべえじゃん!」
「これは僕の勘ですが近いうちに抗争が起きそうですよ……特に今噂されている飯盒炊爨らへんでひと山あるとか」
またですか……。
これはあれですね、主人公がたった一人で全部解決してくれるやつですね。
モブの俺には関係ない話ですね。
うんうん、今日ものんびり山口のご飯を食べる。
そんな慎ましい暮らしで十分。
幹部を全て倒して総長のもとにそして真相を聞く。
真実を知った彼らは絆が芽生える。
そんな感動的な展開はいらない。
殴り合いもしないし。
仲間との絆も芽生えないからね。
大体友達いないし。
そしていつも通り担任の山本が教室に入り少しずつ会話が薄れていく。
相変わらずの素早さに毎回驚かされる。
「え〜ホームルームを始めます、みんなも噂になってるかもしれんが今度ちょっと校舎から離れた場所に行き飯盒炊爨をしてもらいます」
飯盒炊爨……簡単に言えば外で飯食うみたいな感じかな?
外で食べるって言っても自分達で料理をするんだけどね。
もちろん外で作るから使える料理道具も限られてくる。
「おお!やっぱあの噂本当だったんだな〜」
「噂通りなら、これって実は試験って事だよな」
「やっぱ成績に関わるのかぁ〜今回いい成績とらないとポイントが減りそうでこえー」
山本が咳払いをする。
「全く何処から情報が漏れるのやら……え〜実はこの飯盒炊爨は皆さんの成績に関わります、つまりこれは試験の一環という事です」
教室が騒がしくなる。
「おーやっぱ噂通りだったんだな!」
「テイッターでも話題になってたもんな」
え?そうなの?俺知らないけど。
俺は山口に視線を送るとコクコクと頷いた。
え!?
まじかよ!?
何故か山口は飯盒炊爨の件を知っていたらしい。
貴方内輪の人間だったんですか?
なんか裏切られた気分。
ひどい。
「やっぱそうなんだ!でもさ?飯盒炊爨がテストって一体どこを評価されんだろうな?」
「やっぱ料理の出来具合じゃね?あとは……協力とか連携とか?知らんけど」
「あ〜しは料理上手な子と一緒に組みた〜い……誰かさんのせいで成績下がるの嫌だし〜」
クラスがざわついた。
俺はそれより山口さんに裏切られたショックの方がでかい。
まぁ別に気にしてないけど。
「おいおい、あれやばいんじゃね?」
「なあなあにはなってたけど……ついに」
「これに関しては何も言えないな……」
俺は内輪に居ないので欠伸をしていたが山口はキョロキョロと周りを見渡していた。
もう俺は内輪じゃないので関係ありません。
「だよね〜誰かさんのせいでマイマイの成績も下がってほんとかわいそー」
「ってかマイマイの成績下げたくてわざと負けたんじゃない?自分は成績いいから特にダメージ無さそうだし」
「だよね〜ほんと最悪」
クラス内の揉め事。
あーさっきの話はそう言う事ですか。
たまたま視界に入った柚木は俯いて何も言わなかった。
ただクラスの殆どが柚木の方を見ていたと思う。
「おいおいクラス内で揉め事作らないでくれよなぁ……せっかく雰囲気良かったのにさ」
「だよね〜」
「けど柚木さんもちょっと可哀想じゃない?」
その声に反応したマイマイさんがジッと睨んでくる。
「ひっ!」
うわぁ〜俺もあんな風に睨まれたらもう学校行けないよ。
まぁ俺には関係ないからまさに高みの見物ってやつだね。
一人で笑っているとマイマイさんもこの空気を作り出したことに満足しているのかニヤリと笑っていた。
まさに計画通りってやつだね。
それにしてもこのベタな展開。
まぁお約束のイベントだよね。
こんな時にカッコいい主人公がいれば人目も気にせず叫んだりするんだろうなぁ〜。
かっこいい主人公が居れば。
ここにはいませんね。
そんな事より貯金するか悩むなぁ。
最新のゲーム機かお菓子5000ポイント分一気に使うか。
この間見たお菓子セットは結構値段が張る分中は豪華だったし。
特にあのしっとりとしたチョコとか美味しそう。
どうしよっかなぁ〜。
……。
俺は頭の後ろで組んでた腕を胸の前に持っていく。
やはりここは……。
……なんか山口がこちらをチラチラ見てくる。
もしかしてまた俺の考えている事がバレた?
なんだかんだで歯ブラシと石鹸を買うのを有耶無耶にしようとしていることに気がついたのか?
もちろんそれらを買ってしまえば俺のお菓子セットは買えなくなる。
どうも最近の山口はぬかりない。
ここは上手く誤魔化して最終的にも誤魔化そう。
誤魔化してばっかだね。
「大丈夫、山口の言いたい事は分かってる」
「そ、そっか」
「だが待て、今はまだ時ではない放課後まで待つんだ」
「う、うん……分かった」
よし、分かってくれたか。
スマホに通知が届く。
タップして中を開くと山口からメールが届いていた。
[石鹸とシャンプーと歯磨き粉]
その後にお願いしますと書かれた可愛いスタンプも送られて来た。
……ん。
ここは大人しく買うしかなさそうだね。




