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第二十五話


 今日も鏡を見て仮面をつける。


 そっと蓋を閉じるように。


 両手で頬を無理やり上げ目元は三日月型にする。


 瞼を開け瞳の奥に映る私の姿には陰しか見えない。


 私の名前は柚木 梨恵。


 自分で言うのも変だけど頭は良いし運動も出来る。


 周りと比較して自分が優れているって言うよりは。


 出来ない事を努力して出来るようになる。


 だから私は人より頭がいいと思うし運動も出来ると感じる。


 他の人よりも成長を実感する瞬間が多い。


 元々できてる人には味わえない達成感の素晴らしさを理解している。


 顔も良いって周りから妬まれるほどには良い方。


 そんな私にも悩みはある。


 男子には良くちょっかいかけられるし女子からは僻まれたり。


 親からは期待され教師からも。


 そんな重圧やプレッシャーに押しつぶされそうになる。


 何処にでもある話よね。


 私がそんななんでも出来る系キャラと違うところは努力して今の内面を作っているってところ。


 本当は引っ込み思案だし一つ聞いて二つ覚えれるわけでもない。


 顔も覚えたてのお化粧したり髪も美容院でこだわってたり。


 雑誌やネットで輪郭に合う髪型を研究したり。


 そこまで努力して初めて現状に至れる。


 だから努力をする事に疲れてしまった時が怖い。


 前に進もうとする気持ちが薄れてしまったらきっと私はもう歩く事をやめてしまう。


 空っぽで何もない。


 ちゃんと笑えてるのか不安になる日々。


 定期的に私の頭の中を埋め尽くす深くて黒い霧。


 あの時……私は本気で浮こうと思ってた。


 一本の紐で簡単に幸せが手に入る。


 ……いやいや、こんな事考えるのはもうよそう。


 私は鏡に映った自分を見て自信を取り戻す。


 私は可愛い!


 周りとの会話を合わせるのも得意!


 頬を軽く叩いて気合いを入れた。


 私はこの春高校になる。


 憧れの女子高生に。


 女性が最も価値を生むのが女子高生って聞いた事あるし。


 女子高生ってレッテルがあるだけで他の人より優れてるって言われているくらいだし。


 つまりはこの三年間をどう生きるかで。


 今後の人生が決まるって言っても過言じゃないのよね?


 て事は本当に頑張らなくちゃいけない。


 とりあえずクラス全員と仲良くなって先生からも信頼されて……そんな完璧を演じる。


 中学では上手くいかなかったけど今度は大丈夫。


 私はほんの少しだけ思い込みが激しいだけ。


 一瞬だけ過去の記憶が蘇る。


 教室に飛び交う罵倒。


 耳を塞ぐ私に誰も手を差し伸べてくれない。


 唐突に笑みを浮かべた私に恐怖する女子たち。


 私だってこうしたかった訳じゃないのに!


 視線が私に集まる。


 だから完璧を演じてるのに。


 どうしてそんな顔するのよ……。


 私はみんなを信じてるのに!


 だから同じくらい信じてくれなきゃ不公平じゃない!


 どうして私ばっか我慢しなくちゃいけないのよ!


 私ばっか……私ばっかさ!おかしいでしょ!?


 あの人たちは私が成長するのを喜んだ。


 だから勉強して運動した。


 彼らは私が可愛くなると喜んだ。


 だから美容の勉強して可愛くなった。


 彼女らは会話を合わせて気の利く台詞を言えば喜んだ。


 だから褒めて褒めて褒めて褒め尽くした。


 今でも吐き気がしてくる。


 気持ち悪い。


 上手く呼吸が出来ず喉が締め付けられる様に痛い。


 苦しい……辛い!


 どうして……どうして!どうして!


 なんで私ばっか!こんな目に遭わなくちゃならないのよ!


 ハッと我にかえりまた鏡の前の自分に仮面をつける。


 ううん、これは過去のこと……今の私は違う。


 それにもう自分の感情をコントロールすることにも慣れてきた。


 口の中に飴玉を入れゆっくりと溶かしていく。


 本当はある程度小さくなったら噛み砕きたいんだけど。


 そんなはしたない真似はしない。


 私は自分を演じきる。


 よし!頑張ろー


 気合いを込めて学校へ向かった。


 っと思った矢先に既に序列は完成しているも同然だった。


 やたら声と顔の大きい女を中心にその取り巻き達が同じような会話を永遠と続けている。


 ああいったグループを作られるとちょっと厄介なのよね。


 今回は中学の時よりも慎重にいこう。


 大丈夫、私は可愛い。


 感情もコントロール出来る。


 だが私の計画は一気に崩れた。


 中学の知り合いがまさかの同じクラスだった。


 [高島 美代]


 嘘でしょ……。


 なんで……なんで!なんで!


 これから本当に頑張らなきゃいけないのに!


 呼吸が乱れる。


 うまく息が吸えない。


 何度吸ってもすぐに吐き出してしまう。


 酸素を吸いたいのに吸う前に口から溢れ出ていってしまう。


 心拍数が上がる。


 目眩や吐き気がする。


 足が前に進まない。

 

 落ち着いて私。


 確かあの事件の事を彼女は知らない。


 私から消えることのない記憶。


 いつまで経ってもまとわりついてくる。


 振り払っても振り払っても。


 私から消えてくれない。


 でも問題ない!


 逆に彼女の伝手を使い輪の中心へ潜り込もうと思った。


 普通に考えれば頭も良くて可愛くて。


 性格もいいなら好かれるはず!


 心理学的にもそうよね。


 なら相手の心の隙間に入って少しずつカーストを上げていくだけ。


 そう……そんなに難しい事じゃないわ。


 さっすが私!天才!


 大きく深呼吸をする。


 よし!いこう。


 「ひ、久しぶり〜美代もこの高校だったんだ〜これからよろしくね〜」


 私は笑顔を作り高島 美代に近づく。


 どう!?毎日10分鏡の前で研究し続けた笑顔は?


 「ん?……うっそー!ゆずっちじゃん!聞いてよマイマイ!この子凄いんだよ!」


 美代の声のトーンがまた数段と上がる。


 注目は完全に私の方へと注がれた。


 「あ!?なになに!?何が凄いのよ!まぁ私ほど凄いやつじゃないでしょうけどね!ガハハ!みんな!そうでしょ!?」


 私はマイマイと呼ばれたやたら声のデカい女にジロジロと見られた。


 嫌な感じ……。


 でもここは我慢して少しずつ慣れていけばいい。


 辛いのは最初だけ。


 なんでもそうでしょ?


 慣れちゃえばこっちのもんなんだから。


 付かず離れずの距離をうまく保って。


 コミュニケーション能力をフルに活用する。


 弄られるだけじゃなくちゃんと弄り返したりもして。


 相手にしっかり対等と認識させる。


 その辺さえ理解してれば大丈夫。


 最後に笑うのは私なんだから!


 そんな強がりの仮面を被りながら心の奥底で小さな願いをしていた。


 誰か……誰か一人でもいいから理解者が欲しい。


 ーーーー


 体育館裏ではとある会議が行われていた。


 そこはゴミ捨て場付近で基本的に生徒は立ち寄らない。


 改修業者の人間がたまに来るくらいで人気はない。


 そんなところに数十人のグループが輪を作っている。


 くちゃくちゃとガムを噛んだり。


 腕をポキポキと鳴らし。


 各々がいつでも戦闘体制に入れるようになっている。


 「てめえら、よく集まってくれた俺たちの目的はただ一つそれを成すためなら手段も選ばねぇ」


 「おうよ、こうして武闘派がこんなにも集まった訳だからなぁ」


 「目的のためだ……仕方ないだろう」


 「だな!おめぇの顔は気に食わねぇが今はそんな場合じゃぁねぇ!」


 首を鳴らしたり不適な笑みを浮かべたりしている。


 「奴さえ倒さればいい、そうすれば可能性は誰にでもある……俺たちなら」


 「そうだ!選ばし俺たちなら!」


 全員が声を上げる。


 図太い声が校舎を反響させた。


 即興で集まったメンバーだが同じ目的に向かっている。


 そのためかお互いの事を信頼している。


 「親には感謝しても仕切れねぇよ」


 「全くだぜ、この血筋と称号が何よりの証だからな!」


 「だがあいつはかなり強いって噂だぜ?柔道部の田中や今は地下行きになってる本田、元一年最強の大谷レベルだとしたらこの数でも厳しいんじゃないか?」


 不安を漏らすものも数人いた。


 この学園内では主に情報源がテイッターになっている。


 もちろん嘘の書き込みも多いが。


 その大半が信憑性のある呟きだ。 


 そしてテイッターを見た彼らはターゲットが本田や大谷レベルではないのかと噂されている。


 大谷の最強伝説はかなりの書き込み数がある。


 そんな大谷と同格と言われている。


 それを見て武が悪いのでは?と思っている。


 「バカ言うんじゃねぇ!俺を誰だと思ってる?東山連合の頭だぞ!?俺は空手に柔道とボクシングも習ってる」


 立ち上がり拳が空を切る。


 そのスピードは肉眼で見れば残像が見えるレベルで速い。


 歓声が上がり東山は拳を上げた。


 「決行の日は近ぇぞ!テメェら意地を見せろ!」


 「「うぉー!!」」


 裏では色々なグループが動き始めていた。

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