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第二十二話


 陽も落ちてきた。


 オレンジ一色の世界に包まれる。


 教室の窓越しからはより濃く映る人影が目に入る。


 クラスの人達は無事試験を終えた嬉しさからかみんな打ち上げに行こうと盛り上がっていた。


 隙間風と共に話し声も柔らかくこちらに通りかかる。


 「疲れた〜!てか!高校生って自由でいいな!」


 「それな!てかこのあとみんなでファミレスいかね?俺ポテト食べたい!」


 「いいじゃん!いこいこー」


 「お前らも来るっしょ?ポテト食べたいもんな!」


 「おっけーじゃあうちらも行こっかー」


 おっけー俺も行くよ。


 と顔も見えない彼らの会話に参加しておいた。


 みんな仲良くていいね〜。


 それに誘われることのない日陰者の俺と山口はなんとなく教室に残っていた。


 軽く欠伸をする。


 流石に疲れたかも。


 お気に入りの椅子に深く背もたれをかけ頭の後ろで腕を組む。


 少し空いた窓から隙間風が入りカーテンが優しく揺れる。


 窓の外から鳥の声と生徒の話し声が僅かに聞こえて来る。


 この静寂が心地良く感じた。


 特に何をする訳でもなくただ教室の隅でボーッとするだけ。


 いいよね〜何もないって。


 展開に続く展開アニメって見てるだけで疲れるし。


 のんびりまったりと過ごす時間が一番だよね。


 歳を重ねると落ち着きが増していくって言うけど俺はこのペースだと20歳にはもうおじいちゃんレベルになってるかもしれないね。


 が俺は山口に話しかけることにした。


 向こうは気まずいと思ってるかもしれないしね。


 「惜しかったね」


 俺が静寂を切り裂くようにそう言うと山口はピクッと肩を振るわせる。


 怖がってると言うよりかは話しかけられるのに慣れてないって感じ。


 「ご、ごめんなさい……私が相手チームに塩を送るようなことをしたから」


 か細い声でそう言う。


 別に山口が謝る事ではないし、俺も「行きなさい山口!誰かのためじゃない!貴方自身の願いのために!」って言ったし。


 ……それは言ってないか。


 「別に関係ないでしょ……それにちょっとだけ楽しかったし」


 「……楽しかった?ですか?」


 「うん、たまには運動も悪くないかなって」


 「それなら……良かったです」


 あのあと俺たちは立て続けにポイントを取られて負けてしまった。


 最後はあっけないもんだね。


 まぁモブらしく負けるのも仕事のうちだ。


 山口には申し訳ないけど。


 それに山口は西に立ち上がるのとラケットを握らせるところまで誘導しただけだ。


 実際に動かしたのは北さんだしな。


 間接的には手助けしたかもだけど。


 勝敗より大切なものってあるからね。


 地下行きも免れたし。


 良かった〜。


 てかめっちゃ疲れた。


 足も痛いし肩も上がらない。


 「しかし最初の方では擦りもしなかった2人がまさかあそこまで打ち合いできるとは」


 「えへへ……う、嬉しいです」


 まぁそれでも小さい子供のお遊び程度だったけど。


 最後は西がカッコよく決めて試合終了。


 まさに主人公じゃないか。


 その後はガッツポーズを決めて四人仲良く体育館を去って行った。


 その背中が見えなくなるまでギャラリー達の拍手も止まなかった。


 俺と山口は完全にモブと化してた。


 うんうん主人公達を引き立てるのが俺たちの役目だからね。


 使命を果たせて嬉しいよ。


 「な、なんか今日の新庄くんはカッコよかった……です」


 「ん?……なに?」


 「い、いえ!なんでも……」


 「あ、そう」


 「……はい」


 ……もちろん聞こえてます。


 俺はその辺の鈍感系主人公ではないのでね。


 あわよくばもう一回カッコいいって言ってもらおうとした嫌なモブです。


 なんなら具体的に何処がどうカッコいいのか説明してもらいたいくらいだね。


 にしても何かの間違いなんじゃないだろうか?


 まぁ顔はそこそこ悪くはない方だとは思うけど、そんなの今更すぎるし……かと言って今回の件でなんかしたかって言われたらちょっとシャトル打ったくらいだろうし。


 そんなかっこいい事なかった気がする。


 「てか今日も山口の家泊まるね」


 「さっきの全部無かったことにしてもらえますか?」


 「て事は夜ご飯無しってのも無かったことに?」


 俺は子犬のような瞳で山口を見つめる。


 「はぁ……あれは冗談ですよ、ちゃんと用意しますから」


 「あざす」


 山口さんチョロいっすわ〜。


 「けど新庄くんがどんな女性がタイプで、私の事をどう思っているのかよく分かりました」


 ギクっ。


 まだ根に持ってるんですね山口さん。


 けどあれは仕方ない事だよね?そりゃ南ちゃんのあれがあんだけあれなんだから山口さんのあれはもう救いようもない。


 「ん?なんの話?」


 「とぼけても駄目です」


 あ、駄目みたいですね。


 確かに今日一日中ずっと山口の貧乳をいじってた気がする。


 反応も面白かったし。


 「さーせん」


 「これに関しては許しません……そろそろ帰りますか」


 山口が席を立ち窓を閉める。


 その時。


 隙間風が山口の髪を靡かせる。


 オレンジ色に染められた窓辺が反射し。


 幻想的な世界を作り上げた。


 その奇跡的な一枚絵の中心に当てられた彼女の姿は……。


 あ、目にゴミが。


 咄嗟に目を瞑り擦る。


 そして数秒間山口と俺は見つめ合う。


 その表情は口を半開きにして固まっている。


 なんか変な空気になってしまった。


 もうちょっと具体的に言うとラブコメ展開のフラグを抜き取って半分に折ってそれを投げ捨てたくらいな事をした気がする。


 「えっ?」


 山口も声にならないような声を出している。


 ……。


 なんか凄い瞬間を逃したかもしれない。


 ーーーー


 ここは新教育型学校内のとある場所。


 暗闇の中で複数人の大人達がタブレット片手に会話をしていた。


 「報告は以上です、やはり彼をこの学校に入学させたのは正解と言えます」


 「うんうん、私もそう思うんだ……きっと彼はこの学校を大きく変えてくれる、しかも必ず良い方向へと」


 そんな二人の会話を納得いかない様子で見ていた。


 「私はそうは思いません、スキルなんていう曖昧で不確定な物の存在にそこまで価値を感じる理由が分からないのです」


 その発言に対し二人は顔を見合わせる。


 やれやれと言った感じだ。


 「ですが私の報告書の通りあの対抗戦であの四人の生徒達の絆が深まったのは確かなのです、あの状況を直接見ていた私の目には彼が動かなければあの四人は必ずバラバラになっていたでしょう」


 身振り手振りで説明する。


 が、彼は納得いかなかった。


 そんなの結果論に過ぎない。


 偶然の産物。


 「奴は間接的に関わっていただけなのでしょう?あの四人を惹きつけたのは他でもない南灯里と山口亜衣だ、それに本当に彼の持つスキルが本物なら誰もが物語の中心人物になれるという事になってしまう」


 「まあまあ、これからも定期的に彼の様子を探る事にしましょう……これから出会う生徒達の運命を大きく変えてくれるはずですよ」


 話を終えると3人はタブレットの電源を落とし暗闇に消えていった。

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