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第十九話


 午後に入り俺と山口はお昼を済ませ試験会場に向かった。


 山口お手製のお弁当はいつも通り美味しく頂きました。


 ご馳走様です。しっかりお手手を合わせます。


 「き、急に何してるの?」


 「いや……今日も山口様のお手製弁当に感謝してるだけ」


 こう言うのって日常化していくと次第に有り難みが薄れていくって言うけどやっぱ苦労した分だけ感謝の気持ちは消えていかないね。


 水道水で一食持たせた時は本当にきつかったなぁ〜。


 「そ、そうですか……逆にそこまで感謝されるとなんか怖いです」


 やや引いてる気もするが……ま、いっか。


 それよりも、だ。


 二次試験の場所は体育館らしく既に負けが確定している気もするが。


 既に一勝しているおかげかそこまで緊張はしていない。


 とりあえず地下行きは免れたし。


 あわよくば次の試合も勝てれば順位上がってラッキー程度には考えている。


 「午前は九時スタートだったけど午後は四時って結構時間差あるね」


 7〜8時間くらい時間が空いてる訳だからその間何すればいいかよく分からなかったし。


 一試合目終わった後は教室でずっと山口と途切れ途切れの会話をし続けて。


 え?これなんの時間?って何回も思ったもんね。


 まぁ現実なんて何もない時間の方が多いからね。


 これが普通だよね。


 山口も二次試験が近づくに連れてソワソワし始めていた。


 「そ、そうだね……ほとんどの生徒が第二試合も終わったみたい」


 「らしいね〜」


 その辺もランダムなのかな?


 まぁどうでもいっか。


 「ちらほら下校してる人も見かけますし」


 「だね〜」


 殆どの生徒が二戦終わった時点で帰ったらしい。羨ましい。


 けどまだ数名居るのは友達の試合の観戦だったり敵情視察だったりただの野次馬だったりと様々だ。


 だから俺と山口みたいに何もしないでボーッと教室で時間を過ごしてる人なんて居なかった。


 今後は暇つぶしのアプリとか入れとこ。


 パズルゲームとか引っ張りハンティングとか相性占いとか。


 廊下を山口と歩いていると遠くから声が聞こえてきた。


 「ようやく終わった〜得意なスポーツ二戦出来たおかげで二勝出来たしマジラッキーって感じ!」


 「良かったな、俺は苦手続きで二敗だったわ……どれくらい順位落ちるんだろ……」


 「まぁ気にするなって!それよかこの後の東西南北の試合見ていくか?俺の友達がたまに喋るらしいけどやっぱオーラが違って言ってたし!」


 「いや……俺はいいかな……」


 その声は次第に遠くなっていく。


 なかなか理想的なモブキャラだね、俺も見習わなくちゃ。


 「この後の試合緊張しますね」


 「だね〜」


 「……新庄くんは本当に緊張しているんでしょうか」


 まぁとりあえず一勝できた訳だしそこまで本気になる必要は無いのだが。


 この下すぎる順位からさっさと脱出したい為ここは二勝しておきたいとこだね。


 早めに順位上げないとその分総合的に貰えるポイントの理論値は減ってっちゃう訳だし。


 隣をひょこひょこと小さい歩幅で一生懸命歩く山口に少し近づく。


 「計画通りスポーツだったらいかに相手に嫌がらせが出来るかが勝敗に繋がるからね」


 俺が囁くようにそう言うとゆっくりと首を回す。


 「……スポーツマンシップのかけらもないですね」


 そりゃそうでしょ。


 俺は勝つためには手段を選ばないからね。


 山口の家に住むためなら靴舐めだってするから。気がついたら解決してるご都合主義ラノベ主人公とは違うのだ。


 いいよね彼らはダイジェストで都合のいい部分だけを取り上げられて。


 リアルなんて辛い事ばっかなのにね。


 「逆にスポーツといえばどんなの想像してたの?」


 「わ、私の知る限りでは……あ、諦めた試合終了とか正々堂々とか……新庄くんとは真逆ですね」


 「そう?」


 「はい」


 それは心外だね。


 俺は諦めないし正々堂々ずるいことするから。


 なんせ勝てば官軍負ければ賊軍なんてことわざがあるくらいだし。


 「山口?」


 「はい?」


 俺は顔を覗き込むように近づけるとヒッっと軽く声を出し距離を置こうとしたので、両肩をがっしりとホールドして逃げられないようにする。


 お互いの瞳が互いを写し出す。


 そして俺はゆっくりと呼吸を吸う。


 「な、なんですか!?」


 距離的にはポッキーゲームしてるレベルで顔は近づいている。


 山口の視線は常に泳いで俺の方をチラッと見ては横にずらすを繰り返していた。


 「勝てばよかろう負ければ馬鹿野郎だからね」


 「そ、それ絶対使い方間違ってる……」


 「そう?」


 「はい……」


 俺はホールドした両肩を外し再び体育館方面へ歩く。


 そっと胸を撫で下ろす山口の姿が視界の端に映った。


 なんか距離開いてる気がする。


 「あれ?山口さん、なんか距離開いてない?」


 「あんな事されて警戒しない女の子はいません、もっと反省してください」


 それは無理だ。


 俺に反省と言う言葉は似合わないからね。


 「……なんで近づいてくるんですか!あ、ちょっと!頭ポンポンするのやめてください!」


 「いや〜離れろと言われると近づきたくなるのって不思議だよね〜」


 「……確かに猫とかたまに足元よられたりしたら可愛くて撫でようとしますが人間の女の子にはそれ逆効果ですから」


 「それじゃやめます」


 「そうしてください」


 長い髪の毛の隙間からは山口の火照った顔が見えた。


 これは喜怒哀楽のどれなのだろうか。


 そんなこんなで体育館が近づいてきた。


 ん?


 「あれ?なんか騒がしくない?」


 あと山口さんまだちょっと距離遠いね。


 「うん……何かあったのかな?」


 俺たちが体育館に着くと何故かギャラリーが沢山いた。


 体育館を埋め尽くすほどではないにしても。


 そもそもこの学校の体育館自体広いからね。


 ぱっと見でも200人くらいはいた。


 おいおいなんだよこれ。


 まじで勘弁して欲しい。


 山口は俺の背中に隠れてた。


 ちょ、背中押さないでほしい。


 さっきまであんなに距離あったじゃん。


 俺はくるりと周り逆に山口を先頭にして押し出した。


 「ち、ちょっと!なんで私が前なんですか!」


 「さっき距離開けてたんだし前に行っていいよ」


 「なら新庄くんが前行ってください!私は後ろで距離とりますから!ちょっと!私本当に前嫌なんですけど!?」


 そんなやり取りを人前でしていると。


 「おっ、2人とも来ましたね」


 その声は担任の山本だった。


 そういえば山本の担当教科は保険体育だった気が。


 見たまんまだね。


 タンクトップを着ていていつも隠れていた筋肉の影がよく見える。


 肩幅も広いしまじでボディービルダーとかやってそう。


 やけに艶が立ってるのは何か塗ってるのかな?


 するとギャラリーの歓声があがった。


 山口がビクッと肩を震わせたのが伝わってくる。


 この歓声は山本の筋肉ではなくその奥からきた人達のもののようだ。


 「キャー!!東西南北の西くんと南ちゃんよ!!」


 「この対抗戦が多分一番最後みたいだし見とこうぜ」


 「そうだな!最近噂になってる東西南北の人達も見てみたいしな!」


 「あの二人の一回戦見たけどマジ終わるの早かったぜ!」


 はいはい、解説モブたちどうもありがとう。


 尊敬の念もこめて心の中で深く敬礼しておこう。


 「あ、あの人達が私たちの次の対戦相手みたいです……凄い盛り上がりですね」


 「だね」


 でました東西南北……こんなに早くもお出ましとは。


 関わることにはなりそうだと思ってはいたけど……。


 正直めんどくせ。


 男の西くんと呼ばれている方はクールに女の南ちゃんと呼ばれている方は歓声に手を振りながらゆっくりとこちらに近づいてきた。


 ん?


 俺はある部分に視線が吸い込まれた。


 上に下にと大きくバウンドしている。


 それに合わせて俺も首を上に下にと。


 あれは……。


 まさに眼福だね。


 南ちゃん胸でかいぃぃたた。


 俺の足に激痛が走った。超痛い。


 「や、山口さん足、足踏んでるから」


 「ご、ごめんなさい……ムカついて……つい」


 「そうだよね、ムカついてならしょうがないよね……ん?今なんて?」


 「なんでもないです」


 「いやいや、今ムカついてって言ったよね?」


 「言ってないです」


 「両チームとも来たね、それじゃ早速だが試験を始めましょうか」


 いや、それより今山口が……。


 西がこちらを一瞥するとフンっと鼻息を吐いた。


 「これなら二回戦も余裕ですね」


 なんだこのメガネ……ムカつくわ。


 メガネはメガネをくいくいしてる。


 それって意味あるの?


 カッコつけてるならやめた方がいいですよ。


 と心の中で挑発しておいた。


 俺は山口の耳に近づき。


 「やっぱ女の子ってああ言うのにときめくのかな?」


 「……知りません」


 まさかの塩対応。ちょっとだけ心にくる。


 「山口さん?」


 あ、目を合わせたがらないってことは怒ってますね。


 山口は俺にムカついてる。


 俺は西がムカつく。


 つまりは三角関係って事かな?


 違いますか?そうですか。


 「2人ともよろしく〜あたしは南でこっちの目つき悪い方が西って言いまーす」


 そう言ってメガネの頬をツンツンと触っていた。


 西は嫌そうな顔をしている。


 本当は嬉しいくせに。


 全く照れ屋さんめ。


 嬉しいなら素直に嬉しいと言った方がいいですよメガネ。


 と、心の中で煽りまくっておいた。


 俺も南ちゃんにほっぺツンツンされたい。


 前から聞いてた噂通りフランクな人だね。


 すると耳から冷たい声が聞こえてきた。


 「やっぱ男の子はああいうのにときめくんですか?」


 太々しい声でそう言う山口さん。


 やや膨れっ面な気がする。


 「う〜ん」


 そりゃもちろん。


 胸が大きくて明るくて元気な子が万人受けするでしょ。


 つまり山口さんとは真逆ですね。


 とはもちろん言えない。


 「モチロンヤマグチノホウガカワイイヨ」


 「……今日の夜ご飯はワカメだけです」


 あ、すみません。


 本当勘弁してください。


 あれ?山口さん?


 全然こっちを向いてくれない。


 ちゃんと気の利いた台詞を言ったつもりだったのに。


 西くんと同じで照れ屋さんなのかな?


 「おいおい、君たちは挨拶も出来ないのか?二人でコソコソと話して」


 おっと照れ屋のメガネに怒られてしまった。


 「ども」


 「よ、よろしく……お願い……しますぅー」


 山口は空気が抜けるような声で言った。


 「ふん!全く……」


 てか君も別に挨拶してないよね?なんで同い年の貴方に説教されなきゃいけないの?とか聞いてはいけない。


 こう言う時モブは大人しく従うのだ。


 何故ならモブキャラ代表の山口さんが言われるがままにそうしてるからね。隣にお手本がいるっていいね。


 「なぁ、対戦相手の男女ペア知ってるか?」


 「いや?何組の奴らかも分からん」


 「女の方髪長すぎじゃね?」


 俺も山口もこの空気感に圧倒されている。


 沢山のギャラリーに囲まれ対戦相手は学校の人気者。


 どう考えても場違い。


 さっさと俺たちモブは退場する事としよう。


 山本がパン!と手を叩く。


 「対戦科目はバドミントンダブルス!先に2ゲーム取った方が勝ちとする!四ポイントで1ゲーム制……何か分からないことはあるかね?」


 まぁ強いて言うなら南ちゃんがなにカップ……いえなんでもありません。


 俺は開けようとした口をすぐに閉じた。


 山口さんまだ何も言ってないです。


 睨むのやめて。


 「それじゃ両チームともポジションについてもらって……えっと……チーム!……モブモブ?対チーム南西!の2ゲームマッチ……プレイ!」


 明らかにモブモブで周囲がざわついた。


 「……プッ!なんだよモブモブって」


 「おいおいやめてやれよ……プッ!」


 早くこの場から立ち去りたい。

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