第一話
俺が住んでるこの世界は昔に比べてかなり便利になったらしい。
最先端の技術に食の進化。
人材育成にネットやゲーム。
それらがかなりハイスペックになっている。
あらゆる物の最適化みたいな?
具体的な事はよく分からないけど。
簡単に言えばドットがポリゴンになった感じだね。
平面が立体に変わった的な。
この例え分かりずらいかな?
まぁいいや。
ネットも昔みたいになかなかロードが進まないとかアップデートに時間がかかるとか。
そう言った事は技術の進歩と一緒に消えてったみたい。
まあ、俺みたいな高校生成り立ての人間に昔のことを語っていいとは思えないけど。
その辺厳しい人もいるからね。
最近の若者がって言われたりしちゃう。
やっぱおじさんやおばさんにもなんか譲れないものみたいなのがあるんだろうね、どうでもいいけど。
あ、ちなみにこのあいだ発売された最新のゲーム機は最先端の技術を使って痛覚をあーしてこーしてなんかリアルにその世界へ入り込めるらしい。
味覚とかも感じるとか。
ついにそこまで来たんだって感じだよね。
俺は感じないが特にこの数十年間で技術が発展したらしいね。
別に元々進歩してるなぁとは思ってたけど急激ってほどでも無い気がする。
何かあったのかな?
新しい物質の発見とか?
未知の生物とか?
まぁどうでもいっか。
昔も今もそんなに変わらないのは電車内でもスマホをじっと見つめてる人が大半って所かな。
辺りを見渡し時代劇のポスターが目につく。
その昔、人はちょんまげなんて言う髪形が流行ってたり刀で戦したり、ルーズソックスって言う長い靴下が流行だったり。
土で壺を作る土器なんて物もあったり。
……それは遡りすぎか。
窓の外を眺め進行方向には無限に広がるビルが。
俺が来た方向には緑いっぱいの田舎が。
これでもかなりこっちの方まで進出してきた方だね〜。
前はもっと中央付近にしか高層ビルはなかったからね。
中心部以外の建物はどんどん壊されていく一方。
まぁ効率よく食べ物を作るためには仕方ない事なんだけどね。
俺は外を眺めるのをやめ正面にいる女の子の足元を見る。
まぁルーズソックスは一周回って今かなり流行っているみたいだけど。
この車内にもちらほらとグニュグニュした靴下を履いてる女の子が……。
女の子……。
視線を横に動かすのを止め上へと向ける。
……あれ?あの人は男だよね?
すね毛が生えてるしとてもじゃ無いけど女性の足つきでは無い筋肉量な気もするけどこれ以上目線を上げたらせっかくの入学式初日からモチベーションガタ落ちだ。
まぁいっか。
タピオカやようつべなんてのもがかなり昔の事のように感じる現在。
俺こと新庄 晶は今年の春に高校生となった。
気がつけばもう十六歳か。
時間が経つのは早いね〜。
歳を重ねるごとにどんどん加速しているような気がするけどもしかしてこれが一般相対性理論ってやつなのかな?
あ、なんか今の俺すごくそれっぽかったよね?
車内で一般相対性理論のことを考えているなんてきっと俺一人しかいないはず。
いやぁ〜意識高いのバレちゃったかぁ〜。
ふと視界に広がる光景が目に入る。
この新教育型高校は東京24区にある超名門学校。
よく分からないけど凄い人しか入れないみたい。
その基準がかなり不明らしくてネットでもいろんな事が書かれていた。
偏差値70クラスの人でも入れなかったり逆に30付近の人でも入れたりと。
ちなみに俺の偏差値は50くらい。
うん、超普通。
ありがちだよね。
そんな超普通の俺が何故かその名門校に受かっちゃった。
はいはいよくある展開だね。言いたくなる気持ちは分かる。
実は俺はこの県最大の謎、24区を調べる為に派遣されたエージェント……。
何故こんなに人類が急激に発展と共に急遽作られ規模を拡大していく24区と関係があるのか……。
そして何故またルーズソックスが流行っているのか調査するため……。
とかでは無い。
まじでごく一般の十六歳。
……それにしても。
この電車本当に静かに進むね〜。
線路も中央付近になればなるほど質が良くなって駅の数も多いからね。
この辺の電車だと揺れを感じさせない。
車体そのものに変化はないけどレールとかのメンテや設備なんかが田舎の方とは違うんだろうね。
耳に入ってくるのはやや風を切る音が聞こえてくるくらい。
田舎の方だと揺れるし音もガタンゴトンいって五月蝿いし。
こう改めて擬音を形にするとガタンゴトンとかどんぶらことか日本人の感性って変わってるな〜って思う、どうでもいいけど。
やっぱ東京はいいね〜。
昔は東京都は23区までしかなかったらしいけど。
俺が生まれる頃には既に24区はあった。
そして三年ほど前に東京の半分はこの24区に占められたらしい。
いきなりポットでの新地区に面積取られまくったんじゃ他の地区からしたら面白くないだろうしね。
世界中探してもこれほど大きい学校は存在しないだろうね。
だって県の半分以上が学校の敷地内なんだから。
目を疑っちゃうね。
今もなお24区は拡大を続けている。
しかもよくあるアニメの設定みたいな感じで学費は無料。
優秀な人間には学校側から特別待遇されるらしい。
学生とは思えないほどの贅沢な暮らしができるとか。
なんでも毎月お小遣いが10万近くもらえたり。
そしたら好きな物を好きなだけ食べられるね。
ゲームとか漫画とかタブレットとか。
まぁ物価は年々増してるから10万ってそんなになんでも買えるわけじゃないけどね。
よくあるぶっ飛んだ設定だがそれくらい時代は変化しているのだ。
いいよなぁ〜。
俺は貧乏で片親に育てられた。
兄妹も居る。
兄は優秀で妹はやや非行気味。
……まぁ妹が塩対応なのは俺に対してだけだが。
優秀な兄貴には絶対逆らわないくせに。
嫌だねぇ〜もしかしてツンデレなのかな?
この間もコーラの蓋が緩くて炭酸抜けるだろって怒られたし。風呂の蓋閉めろって言われたし靴下裏返すなってキレられたし。
兄貴とは昔から全く話してないな。
多分俺は避けられてるんだろうけど。
一応兄妹内で暗黙のルールが幾つか存在した。
その中でも特に優先されるのがお金をかけない。
そりゃそうだよね片親で子供三人って。
しかも今の世の中、給料は大企業だけが上がって中小企業はそんなに変わらないとか。
それで物価だけ上がって行っても困っちゃうね。
だから貧富の差はかなり激しくなってきた。
大県と呼ばれる東京や名古屋に大阪と沖縄さらに北海道。
これらを中心に外側へ行けば行くほど田舎と呼ばれていく。
壁はないけど進撃の◯人みたいな感じだね。
だから建物は上に伸びて行ったけど数は減っていった。
土地を有効活用するんだとか。
だから中小企業は軒並み潰されて今では大きな畑になってる。
家畜とか農産物とかの技術もどんどん進歩してるらしい。
もちろん高校生の俺にそんなたいそうなことが詳しく分かるわけではないんだけど。
まぁあれだね、授業で得た覚えたての知識をひけらかしたいだけだよね。
そんな時にできたこの高校は俺にとって何もかも都合が良かった。
母親にも迷惑かけたくなかったし何よりあの空間の居心地が嫌だった。
優先な兄妹に板挟みなんて懲り懲りだったし。
自由に伸び伸びと一人で生活するのにも憧れてたんだよね〜。
この新教育型高校は寮生だ。
これからは三年間ずっと寮生活を送れる。
しかも一人一部屋という。
さらにこの高校はどの企業からも喉から手や足が出るほど欲しいらしい。
……まぁ足は嘘だよ。
学年トップで卒業した人は大半が政治関係の仕事に就くらしい。
中には総理大臣になった人も居るとか居ないとか。
金持ちはエスカレーター式で上がっていくし、貧乏人は今日を生きるので精一杯。
だがそんな俺にもワンチャンス訪れたって事だね。
学校内容に関しても開示されてない情報が多くてそれくらいの噂しか俺も聞いた事がないんだよね。
まぁ総理大臣にはなりたく無いけど都内で働ける人は年収一億くらいらしい。
何それ最高じゃん。
この高校を無事卒業し約束された安定収入を手に入れこの貧乏から抜け出す。
ちなみに俺の偏差値50ってのはやや調整してとった結果でもある。
別に全部の問題が分かった訳じゃないけど。
なんとなく調整はした。
つまり俺は少し実力はあるけどあんま目立ちたがら無いそんなキャラになりたいんだよね。
ふふっ、隠された力をいつ解放すればいいのか楽しみだ。
そ言えば昔と今の厨二病ってだいぶ変わったよね。
昔は長い詠唱とか眼帯とか力でねじ伏せるって感じだったけど今は力を隠して実は最強でしたみたいな?
ちなみに俺は後者の方が好き。
まぁそんな事はどうでも良くて。
物語の主人公みたいに一生懸命汗かいて努力して誰かのために行動してみんなから好かれる。
いいね、俺は嫌だけど。
好かれる事が嫌なんじゃないからね?
好かれるために行動するのが嫌だ。
つまりはめんどくさがりなんだよね。
特に目立つ事もなく平和に人生を終える。
スリルなんていらない、平和が一番じゃないか。
あとお金。
まずは学校の把握から僅かな友達作りからかな。
俺の学校生活に最低限必要でモブキャラを演じきれる最高のパートナー達。
四人くらいは欲しいかな。
画面上のモニターに映る最新の電気家具たち。
と、そこに映される俺には手も足も出ない大金。
あんなの買えるわけない。
おそらく成績が良ければお小遣いが増えるみたいな仕組みだと予想しているからそこの判断基準も把握しておかなくては。
めんどくさがりだけど楽する為の布石なら動きますよ。
待ってろ俺のキャンパスライフ!
ここから俺のモブキャラ生活の始まりだ。
俺は周りの目線も気にせず立ち上がり腕を高く上げた。
もちろん周囲の視線は俺に集中する。
ざわつく車内にふと我にかえる。
「え、えっと……あははっ〜なんか蚊がいたような〜気のせいだったのかな〜?」
頭を掻きながらゆっくりと座る。
「おいおい、この最新鋭の電車の中に蚊が居たらしいぜ……そんなん田舎でしか見た事ないよな!?」
「あぁ!あの制服は多分あの名門校だけど……みろよあのヒョロヒョロのガタイにやる気のなさそうな目!多分まぐれで入学出来た口だぜ」
「あ〜数人はいるらしいよなぁ〜あんな奴が入れるなら俺も受験しとけば良かったぜ〜」
そんなひそひそ声がちらほらと耳に入る。
早く降りたい。




