第十七話
あれから数週間経ち対抗戦本番になった。
俺と山口のチームモブモブの試験会場はルームcの場所に決まった。ちなみにチーム名を山口に言ったらジッと睨まれたから特に意味はないよって言っといた。
嫌がってたけど「じゃあ山口がチーム名決めてよ」って言ったら快くオッケーしてくれた。
モブズでもモーブでも良かったんだけど、まだモブモブの方が可愛げがあるらしい。
えっとルームcは……。
校内の至る所にあるタッチパネル式のモニターをタップしてスクリーンに映し出す。
確かルームcって結構狭かった気がする。
あそこで運動系のテストが出るとは思えないから学力系のテストでほぼ間違いない。握力測定バトルなんて事はないだろうし。
これならワンチャンありそう。
対戦相手はまだ分かっていないけど。
対戦内容は作戦通り学力メインで提出してある。
山口は地味……じゃなくて地理とか歴史みたいな年号とか人物とかそう言うの覚えるのが苦手みたい。
俺も暗記とか苦手だし気持ちは分かる。
山口の得意な理数科メインに俺の得意な国語の文法問題を中心としたテストを希望してある。
まぁ基本的に何来ても問題は無い。
山口は不安そうな顔をしている。
俺も少し緊張しているが他の人が不安そうな顔をしていると安心させたくなるんだよね。
俺にとって山口はご主人様だし。
飼い主みたいなものだからね。
俺はポケットから飴を取り出す。
ちなみにこの飴は山口と買い物に行った時こっそりカゴに入れたやつ。
多分バレてないし俺が買った事にしよう。
「いる?」
「い、いえ……大丈夫です、それよりその飴勝手に買わないでください……この前スーパーに行った時こっそり入れてるの見てましたから」
俺が手のひらに置いた飴を山口はジッと見つめる。あれ?バレてた。
呆れたように鼻息を鳴らす。
やっぱ欲しいのかな?
俺は袋から中身を取り出す。
「山口さんや」
俺が演技がかった嗄れた声でそう呼ぶと山口は俺の方を見る。
そして俺はそのまま山口の口の中に無理やり飴を突っ込む。
飴と歯が当たったのかカチッと音がする。ごめん。
普通の恋愛物なら空気感ぶち壊しだろうね。
目を見開き口の中に飴を入れると少し落ち着いたのか表情は分かりずらいが雰囲気がいつもに近い気がした。
「酷いです……でもありがとうございます……ほんの少しだけですが緊張がほぐれたような気がします」
お?これは間違いなく俺に惚れましたね。飴で落ちるなんて山口も軽いなぁ〜。
これで寝床も確保できてそれっぽいモブキャラの彼女も出来てあとは安定したポイントを手に入れて目立つ平和に過ごすだけだ。
よしよし軌道に乗ってきてるよ。
この感じなら毎日ダラダラ過ごして毎日がハッピーって訳だよね。
いやぁ〜人生ってよく考えれば余裕だよね〜計画通り過ぎて逆につまらない……まではないけど、うん、最高だね〜。
みんなも俺みたいにこの先どうしたいか具体的に考えて行動に移せば良いと思うよ、知らないけど。
今ならこの長い廊下でオドループ踊れるね。
「まぁ気楽にやろう、別に負けたら退学って訳でもないんだし、踊ってない夜を知らない訳でもないんだし」
俺が笑うと山口は俯いたままボソッとつぶやいた。
「うっ……わ、わたしさっき聞いちゃったんですけど……450位より下の生徒が二敗した場合……地下行き……みたいです」
ざわ……ざわ……。
その時……新庄に電撃走る……!
「……それまじ?」
山口は無言で頷く。
まさかの事態だ。
俺の学年順位は499から一つ上がって498位になった。
つまり450位以下に含まれている。
退学ではないにしろ地下行きとなると、かなり厳しい教育と労働が待っている事になる。
普通に嫌だ。
大体俺はそんなに体力もある方じゃないし。
それに何より地下行きとかまた変なルートに連れていかれる恐れが。
山口が心配そうに顔を覗かせてくる。
「ご、ごめんなさい……直前にこんな事言ってしまって……」
「い、いや……大丈夫……」
まじかよ、山本先生なんも言ってなかったじゃん。
あのおじさん筋肉のこと以外頭になさそうだし言い忘れててもおかしくはない。
本当勘弁してほしいね。
俺は片腕を組み顎に手を当てる。
他の生徒からもそんな話聞いたこと無かったけどなぁ……。
テイッターとかでも呟かれてなかったし……。
ちょっと覗いてみるか。
ポケットからスマホを取り出しテイッターのアイコンをタップする。
見た感じみんな緊張してるとか楽しみとか後は適当な詳細を書き込んでるだけっぽい。
えっと……なになに?東西南北の南ちゃんがエロい。
う〜ん、それはそれで後で確認しなくちゃ。って今はそんな場合じゃないか。
「なぁ?それって確かなの?」
「わからないけど……一応朝職員室に用があってその時に」
朝一で職員室?……あ〜多分チーム名のやつか。
山口さん渋ってましたもんね。
それで先生たちが話してたなら間違いないか。
事前に知っていたらもっと対策練って来たのに。
「そっか、でも大丈夫、最悪山口の家に隠れるから」
「そ、そうですね……え?」
「その時はちゃんと匿ってね」
「……ん?……えっ?」
俺は親指を立てて山口に屈託のない作り笑顔を見せた。
山口は全力で首を横に振っていた。
ーーーー
そんな事をしているとルームcの扉の前に着いた。
山口の焦った表情はなかなか良かった。
まぁ前髪で顔見えないんだけど。
声のトーンとか身振り手振りでなんとなく分かる。
スライド式の扉に[ルームc]と書かれた小さい標識。
それ以外は真っ白な壁がどこまでも横に続いている。
大体の部屋割りがこんな感じで等間隔に扉と何もない真っ白な壁が続いてく。
まるで物語シリーズアニメ版のシャフトが良く描く背景演出みたいだ。
ここが試験会場ね〜。
「い、いざ目の前にするとまた少し緊張してきますね……」
「こんちゃ〜」
俺は躊躇いもなくドアをスライドさせる。
「し、新庄くん!?せめてノックくらいしようよ!」
と注意っぽく言いつつさすが山口様、見事なまでに俺の背後にピッタリとくっついている。
俺は盾とかじゃないからね?
部屋に入るとそこには俺たちと同じように男女でペアを組んでいる生徒と女の教師が1人いた。
ちなみに先生は英語の教師で名前は黒井先生。
足が長く実際の身長は165センチらしいがそのスラっとした身体に顔も小さいので180センチくらいに見える。
今もヒールを履いていて胸元の開いてるワイシャツもエロい。
さらに、いて!!
俺は足に激痛が走りすぐに横を向いた。
「ごめんなさい……足が……震えて」
「う、うん大丈夫、そりゃ緊張するよね」
うんうん俺もちょっと緊張してるし。けど山口の足全く震えてないけど?
あとそろそろ足退けてほしい。
俺は山口と黒井先生を交互に見た。
ない……ある……ない。
とても同じ女性とは思なぃたた!!
今度は脛に激痛が!
もしかして……俺の心読んでる?
あれ?完全に読んでますよね?
俺が顔を覗かせると睨まれた。
山口さん怖いっす。
「ほらそこ、いちゃついてないで席に着いて」
黒井先生はそこの席だと目線で指示する。
「あ、はい」
俺は席について脛を擦った。
超痛いし。
なんか微妙に山口の機嫌が悪いような……。
「や、山口さん?何か怒ってらっしゃる?」
恐る恐る尋ねると。
「ん?……何の事ですか?」
「いや……足踏んだり脛蹴ったり」
「新庄くん……今は試験に集中しよう?」
「あ、はい」
やっぱ怒ってらっしゃる。
山口も椅子を引き席に着く。
全然こっち向いてくれない。
山口は怒るといつも以上に目を合わせなくなるんだよね。
俺は対面に座ってる彼らを見た。
特に特徴もなくモブっぽい顔をした二人組。
まるで鏡を見ているみたいだ。
ただ同じモブキャラでも俺の方がちょっとだけ強いモブだからね。
まぁ俺と言うか飼い主の山口さんなんですけど。
今はご機嫌斜めだけど。
後で尻尾振って甘えれば甘やかしてくれるからね。
その辺ちょろいですから。
「それじゃあ早速だが試験を始める」
よし、切り替えろ俺。
俺は深く息を吸って吐いた。
二連敗だけは避けないと地下行きになってしまう。
それだけは何としても回避しなくては。
ここで一勝出来れば最悪次の試合は負けても問題ないはず。
何とか乗り切ろう。
「両チームともに今朝提出してもらった試験内容の希望だが……両チームとも学力による対戦を希望するとの事なので今から学力で勝負してもらう」
おぉ〜。
それならこちらにかなり武があると見ていいね。
山口は見たまんま運動音痴だし……いや、余計なこと考えていると脛が危ないのでやめよう。
俺はチラッと山口の方を見てすぐに逸らした。
だがこの感じだともしかして教科は英語なのか?
英語なら俺も少し分かる。
あいあんだーすたんどだ。
なんだか山口は不安そうな目でこちらを見ているが問題ない。
まぁ目元は見えないんだけどね。
雰囲気がそう言ってる。
「教科は英語、まぁなんとなく察してくれていただろうが……今から奥の部屋にペアで入ってもらい私と会話してもらう、そして私の独断と偏見で点数をつけこの試験は終わり……何か質問は?」
黒井先生は胸の下で腕を組みその大きいものを強調した。
質問か〜こう言う時何故か聞きづらいよね。
俺も先生が何カップか質問したいところだがさっきから山口の視線が痛いのでやめておこう。
あ、さっきの痛みがまたぶり返してきた。
向こうのモブ達も特に質問は無いみたいだ。
「よし、じゃあまずはチームモブモブから来てもらおうか……クッ」
黒井先生はややうわずった声でそう言った。
「「……プッ」」
正面にいる二人がほぼ同時に口から吹き出す。
山口は表情こそ見えないがいつも以上に顔を伏せている。
普通に恥ずかしくなってきた。
一体誰ですかねこんな恥ずかしいチーム名にして提出した人は?ねぇ?山口さん?
ちなみに相変わらず山口は俺の事を睨んでいる気がした。




