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第十五話


 入学して早くも一ヶ月近くが経とうとしていた。


 気温もようやく十五度以上をキープし花粉の季節ともおさらばだ。


 たまに肌寒い日もあるけどね。


 あくびをして頬杖をつく。


 特に変化のないいつもの平和な日々。


 相変わらず教室はガヤガヤと賑わっている。


 朝から元気だねー。


 色恋沙汰の浮かれ話だったり部活でレギュラー目指して頑張ったり将来の夢を語ったり。


 最近だとリアリティのあるFPSゲームが流行ってるらしい。俺もやりたい。


 まぁそんな感じで今日も変わらず教室の背景と化していた。


 教室の隅で誰とも話さず視線のやり場に困るこの状況。


 うんうん、この調子で三年間過ごす事が出来ればまさに青春を過ごせたって感じだ。


 ……いや、この調子じゃ駄目か。


 「放課後どっか行く?」


 「お前もう放課後の話かよ、まだ全然先じゃねえか」


 「だってよー授業つまんねーもん」


 「まぁな〜気持ちは分かるけどいい成績とらないとこの順位社会じゃやってけないぞ」


 あれ?もしかして遠回しに俺の悪口言われてます?


 消しゴムのカスでもあれば確実に投げてるとかだった。


 まぁ消しゴムなんてもう生産ほとんどしてないけど。


 「やべえ俺特になんもしてないけど順位上がってたわ!!またポイント多めにもらえるかも!!」


 「マジかよ!俺もなんか上がってたわ!小遣いも増えて最高だな!」


 ふーんよかったね。


 今は順位更新やポイント振込の話題が一番クラスで盛り上がっていた。


 ちなみに俺も一つ順位が上がっていた。


 振り込みは0だからどうでもいいんだけど。


 「なんか噂によると近々試験みたいなのあるらしいよ〜」


 「まじかよ!まぁ一ヶ月近く経つしそろそろ何かあるとは思ったけどさぁ〜」


 両腕を後ろで組み、背もたれに寄りかかる。


 どれもそこまで興味のある話ではないね。


 「なぁ知ってるか?この学校にいる東西南北って人達」


 なんだそのキャラの濃い人たち。


 色々な会話が混ざり合う中、一番席の近い男子二人組の会話がよく聞こえた。


 確実に主要キャラ……絶対関わりたくない。


 まぁ関わることなんてないだろうけどね。


 「当たり前だべ、特にリーダーの北ちゃんがクールでしかも可愛いよなぁ」


 「俺も……チラッと見たことあるけどやっぱうちのクラスの女子とは骨格が違うんだよ!もう何もかも違う!」


 はいはいよくあるあれですね〜。


 容姿端麗才色兼備がうんちゃらかんちゃら。


 もう聞き飽きたんだよね〜そんな人がポンポンポンポン出てくる世界違和感しかないからね。


 まぁうちのクラス見てると柚木以外は全員似たような顔してるからやっぱ美人は少数なんだと実感するけど。


 もちろん山口もうちのクラスの中ではかなり可愛い方に入るかもしれないが……。


 これ以上は言うまい。


 俺は山口に無言でウンウンと頷くと不思議そうに首を傾げていた。


 「はぁ〜俺も可愛い彼女欲しいわ〜スタイル良くて甘えん坊で俺が他の女子と喋ってるのを見かけたら顔を膨らませて怒ったりしてさ〜」


 「ばっかお前そんな都合のいい女子と言うか人間がいる訳ないだろ、アニメみたいな女子はな男の理想と願望と欲望を詰めに詰め込んでそれが出来上がったものなんだから……実際の女子は計算高いし機嫌も悪くなるし生理だって来るんだぞ」


 「急に現実見せてくるじゃん……あと指差してくるな」


 「当たり前じゃん、いいか?よく聞け?女子はトイレだって行くしおならだってするしうんこもする、これは紛れもない事実だ、これが現実だつまりは俺らが顔のいい女子を求めるように彼女達も顔のいい男子を求めてるって訳だ」


 二人とも会話がヒートアップしてるけどやっぱモブキャラだから視線が集まることは無さそう。


 俺はなかなかいいこと言ってると思うけど。


 やっぱオタクの会話は熱意が伝わってくる。


 声色に勢いもあるし身振り手振りも感情任せに動かす。


 「つまり……俺たちは一体どうすればいいんだよ!負け組は……容姿に恵まれてない俺らはどうしたらいいんだよ!」


 「残念だが……身の丈にあった女子を探すしかないって事だ……このクラスにいるような」


 二人ともガクッと頭を下げた。


 「あ〜あ、南ちゃんや北ちゃんみたいな可愛い子が彼女になってくれたらなぁ〜」


 「君たちは何も分かって無いですねぇ?」


 やたら鼻の詰まった声を出す彼はメガネを人差し指で動かすとニヤリと笑う。


 なんかキャラの濃いやつきた。


 「なんだよお前、俺たちの会話に入ってくんな」


 「いや、こいつデータベースの乾!丸渕眼鏡におかっぱヘアーの絶対に脇役で終盤は特に活躍しないモブキャラ!」


 あーいるいる、序盤でも大した活躍しないんだけど何故か愛されキャラのポジションね。


 あれ?名前が乾って最後データ捨てるんじゃ?


 テニスでもするのかな?


 「ふん、僕の事なんてどうでもいい……それより君たちの浅はかな知識に僕のデータを分けてあげようと思ってね」


 突然すぎるでしょ。


 絶対会話に混ざりたいだけでしょ。


 「お、おう、教えてくれ乾」


 「だな、情報って大事だしな」


 ほら二人ともちょっと戸惑ってるじゃん。


 ただ一応会話に入れてあげるあたり根は優しいやつらなのだろう。


 「はぁ……仕方ないですねぇ、これから主役級に活躍する彼らについて僕が懇切丁寧に教えてあげますよ」


 なんか嫌な予感がする……。


 いずれ東西南北と絡みがあると言われているような……。


 ……流石に気のせいだよね?伏線とか言われても無視するからね?絶対に関わらないからね?


 「いいでしょう!まずは東西南北の西くん!彼は僕とややキャラ被りの頭脳キャラ!ただ普段はクールだが勝負事には熱くなるようですねぇ……ちなみに順位は僕の方が上です……僕の方が!!!!順位は!!!!上です!!!!」


 えっと、大事な事なので二回言いました。


 乾はメガネをクイっとあげ再び口を開け大きく息を吸う。


 「次に東西南北の南ちゃん!見た目もギャル!!!!中身もギャル!!!!愛想よく誰に対しても壁を作らず親しみ易いまさに!オタクにも優しいギャル代表!ですがリーダーの北ちゃんに絶対の忠誠を誓ってるみたいですねぇちなみに巨乳です!えぇ!!!!巨乳なんですよ!!!!」


 えっと……大事な(略


 「俺もこの間南ちゃんと話したけど顔も可愛いし結構ボディータッチとかしてくるんだよ、もしかして俺に気があるのかな?」

 

 「んな訳ねーべお前みたいなのでも相手してくれるのが南ちゃんなんだよ」


 まじか、俺も後で南ちゃんの前でウロウロしよ。


 特に意味はないんだけどね?


 別に可愛い子にボディータッチして欲しいとか微塵も思ってはいない。


 うんうん、俺はモブキャラだからね。


 その役割にあった行動をするだけだからね。


 「次に東西南北の東くん!彼は運動が得意みたいです」


 情報薄いな〜西くんはキャラ被ってるからとりあえず調べたけど基本男に興味ないでしょ。


 乾は鼻から大きく息を吸い、声もさっきまでよりワントーン高くなる。


 「そして最後にリーダーの北ちゃん!彼女は調べた情報によると身長160センチ体重45キロでcカップと胸はやや控えめeカップの南ちゃんにたまに胸の大きくなる方法を聞いてるらしく小さいのはややコンプレックスらしい、帰国子女で英語ペラペラ顔もオーストラリアとのハーフで目はパッチリ!顔も小さく肌も真っ白!口数は少なくそのミステリアスな雰囲気とオーラで男女共に人気がありついたあだ名は[North Queen]さらに……」


 長い説明の途中で担任の山本が教室に入ると自然と会話が薄くなる。


 あんなに熱弁していた乾も無表情で席についた。


 切り替え早いね。


 あっという間にみんな席についてる。


 やっぱ順位落ちるの嫌なんだろうね。


 「え〜朝のホームルームを始めます、皆も噂程度に聴いたかも知れないけど近いうちに2人一組で簡単な対抗戦を行います、メンバーは自由なので決まった人から先生に伝えるようお願いします、詳しい事はのちに伝えるので」


 トントンとタブレットを机に当てる。あれ完全に昔の名残りだろうね。


 クラスがざわつく。


 そして俺は事の重大さに気づく。


 辺りを見渡せばくもーぜと意味もなく肩を組み始める奴がいる中順位が高い人が優先的に誘われている。


 う、嘘だろ?


 まじですか……2人1組って。


 俺は初日の件もあったせいか未だに友達がいない。


 正確には男の友達がいないのだが。


 唯一仲良くしてもらってる山口以外とはほとんど話したことがない。


 ここは山口と組むべきか……。


 しかし女子とペアになるとそれなりに目立ってしまう。


 今見た感じ付き合ってると公表しているカップル以外は男女でしっかりと分かれている。


 他のクラスがどうかは分からないが必然的に仲がいい友達以上の関係だと思われる可能性が高い。

 

 だがこの対抗戦で勝てれば順位も少しは上がるかも知れない。


 と言うか誰と組むかが問題であってモブがそこそこいい成績を取ってもそんなに目立たないのでは?


 第一にテストの内容もまだ明かされてないこの状況で考えられる事は対戦相手は差が出ないようしっかりとベアの平均から選出される可能性が高い。


 つまり俺みたいな奴が上の人と組むと必然的に強い人と当たってしまうわけで。


 いや……でもここは少しでも順位を上げておきたいところ。


 目を瞑り腕を組む。


 そもそもこんな対抗戦で俺が目立つような事があるとは思えない……というか思いたくないし何よりポイントが欲しい。


 つまりここは普通に試験を頑張って少しでも順位を上げるべきだ。


 「山口ってさー順位上がったりしたの?」

 

 俺は明後日の方を向きながら聞いた。


 横目でチラッと覗いたがいつもより若干あたふたしているだけで特に行動に移している訳では無さそう。


 まぁ内心ではペアどうしようって考えてそうではあるけど。


 「う、うん……一応……」


 へ〜。


 ナチュラルに山口の順位を聞くチャンスだ。


 そこそこ良い方なのは知ってるが具体的な事は全く知らない。


 生徒の数も500人いる訳だし半分より上なら成績はいい方と言えるだろう。


 山口はモブキャラっぽいし200位から150位あたりで落ち着いてそう。


 理想ならもう少し高めで俺は大した活躍もなく楽して順位を上げたいところではあるけどそんな選べる状況でもないしなんとか山口とペアを組めるようにしなくては。


 「ヘェ〜ちなみに何位だったの?」


 「えっと……その……」


 うんうん。


 「60位から59位に……」


 「俺とペア組まない?」


 俺は満面の笑みで山口の方を向いた。


 俺の早すぎる動きにやや引いてる気もするがそんな事はどうでもいい。


 これはテストで良い結果出せるの確定みたいなものだ。


 流石は山口さま。


 俺に衣食住以外にも高順位まで提供してくれるとは。


 よ、日本一。


 人間国宝。


 「えっと……その……ちょっと恥ずかしいかも……」


 「うんよろしく……えっ?」


 山口は俺の方を見る事なく縮こまりながらそう言った。


 うそ……だろ?


 この一ヶ月の間に山口が俺の要求を断る事なんて一度もなかったのに。


 まさかの拒否。


 確かにこの一ヶ月で山口の事は多少分かった。


 シャイで目立ちたがら無い。


 見た感じそんな仲のいい友達もいないはず。


 ペアの相手が決まらないなんて事になる可能性もあると言うのに。


 それらを天秤にかけても俺なんかと組むのが恥ずかしいと言うのか……。


 そうなると必然的に面識のない人の誰かと組むことになる訳でそうなった場合俺のこの厄介ごとに絡まれやすい体質から考えられるのは何故か優秀な生徒と組む羽目になってなんだかんだで目立つみたいな展開になる気がする。


 そんなアニメのお決まり展開絶対にごめんだね。


 ここで引くわけには……。


 「大丈夫!他にも男女で組んでるペアもいるだろうし俺が山口の足を引っ張らないように頑張るからさ……お願いします!」


 俺は手を合わせ腰を低くした。


 「でも……別に順位はどうでもいいんだけど……やっぱり恥ずかしいかも……」


 こうなったら最後の手段。


 「そんな事言わずに……お願いしますよ!このままだと俺最下位になっちゃう!」


 俺は山口に泣きついた。


 山口は泣きつけば大抵のことはオッケーしてくれる。


 完全にダメ男製造機だ。


 俺もあまり他人に甘える方ではないが山口には何故か甘えてしまう。


 なんでもかんでもオッケーしてくれるし。


 「わ、わかった!わかったからね、クラスのみんながこっち見ちゃうから!」


 「うん、ありがと」


 俺は泣き真似をやめスンッと元いたフカフカの椅子に座る。


 「あ、あれ?もしかして……演技してたんですか?」


 「してないよ」


 よ〜し、これでいい感じに目立たず順位を上げれる。


 一番最悪なパターンの何故か柚木辺りのと組む事になって、かなり優秀な成績を収めて主人公ルートに入るのを阻止できた。


 それに……。


 俺はチラッと山口の方を見る。


 山口はパッとしない見た目だし俺もモブだし。


 少しくらい良い成績残しても誰も気にしないだろう。


 あ、目があっちゃった。


 なんか失礼な事考えてたし不意に逸らしてしまった。


 申し訳ない。


 だがこれでペアも決まり順位も上がる事間違いなし。


 チーム名はモブモブとでもしよう。


 可愛いお花達の集合体みたいな名前だ。詳しくはもぺもぺで検索してね。


 「と言うか山口結構頭良かったんだな」


 後ろめたい気持ちからか話しかけたくなった。


 「そ、そうでもないけど.……それ以外やることがないだけだよ……」


 「ふーん、そっか」


 「うん」


 「とりあえず対抗戦よろしくね、ちなみに俺は頭良くないから……ってまぁ知ってるだろうけど」


 「うん……でも……頑張ろう」


 なんか山口もやる気出してくれたみたいだし。


 俺は頭の後ろで腕を組んだ。


 せめて400位くらいになってくれないかなぁー。

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