第十二話
入学してから二週間が経った。
とりあえず雨風が凌げる様に母さんの知恵を借りてなんとか住める様になった。
ありがとう母さん。
卒業したあかつきにはご飯奢ります。
まぁこの調子だと他人に奢る余裕なんてないけどね。
ガスと水道も料金を支払い出る様になったものの。
とうとうお金が尽きる寸前となっていた。
財布の中身は残り一万ちょい。
食費に光熱費、家の修繕費と必要経費でむしろ良くここまで残したものだ。
ただ現金は何としても残しておきたい。
ポイントなら取得方法が分かっているが現金は分からない。
バイトしようと思いスーパーやショッピングモールなんか歩いて回ったがこの学校の校則上一年生が早々にバイトするのはダメらしい。
そもそも店にひと1人居れば十分な時代なのだからそんな大量に雇う必要もないしね。
ポイントを手に入れるためデュエルをしても良いがそもそも賭けるものがない。
背に腹はかえられない。
誰かに縋ろう。
第一なんでポイントが0なんだ。
絶対おかしい。
このままじゃモブAにすらなれないで終わる。
やれやれ……モブも楽じゃないね。
それにお金欲しさにこじきするなんて主人公なら絶対にしない。
まぁモブキャラでもしないだろうけど。
ため息を吐き俺の心の癒しこと自分の椅子に座る。
教室中を見渡し頼れそうな人を探る。
本当にこの際誰でもいいから。
影が薄くてお金がありそうで物語のメインには登場しなさそうな人は……。
ふ……そろそろ俺の本気を見せる時が来たみたいだ。
ーーーー
「と言う訳で山口様……どうかこの乞食めに慈悲を……」
休み時間、誰も後方の俺たちなどに興味なく教室は会話で盛り上がってる。
そんな中……。
俺は山口に頭を下げて頼み込んでいた。
最低な行為だと分かっているが明日は我が身……。
ちなみに靴舐めでも足舐めでもなんでもします。
「あ、あの!?……め、目立ちますから!や、やや、やめてください!」
いつもより声のトーンを高くし山口がそう言った。
それでも他の誰よりも声は小さい。
だが俺は頭を下げるのをやめない。
友達もいない。
シャンプーや石鹸もない。
食い物もない。
おまけに隣の家にはいかにも重要キャラみたいな奴らが住んでいる。しかも革命的なものを起こす計画立ててるみたいだし。
あのボロアパートに居るのが一番まずい。
ポイントが支給される日までこのお金で食いつなげるが次もこのままポイントが0なら俺は確実に餓死する。
俺も学園生活するのに必死なのだ。
教師に相談してもいいがそれもそれで変なルートに入りそうだし。
大谷もあんな事言ってたしね。
ここは影が薄くほぼ背景と化している山口様を頼るしかない。
俺の見立てによるとこの子は本気で頼めば断れなさそうな子っぽいし。
俺はモブキャラになる為そして明日を生きる為には手段を選ばない。
物語の主人公みたいに勝手に都合よく話が進むなんて事もないからね。
都合よく宝くじが当たったり貧乏アピールして死にそうな顔しながらなんとか生きてるって事もない。
普通はこうやって自分から行動するのだ。
「知っての通り順位が低いのでポイントがありません」
「そ、それは知ってるけど……」
「最近では学校の水道をがぶ飲みしてなんとか耐えてる」
「そ、それは確かにいよいよって感じですね」
「山口ってそこはかとなく良い感じだよね?」
「……特に褒めるとかないなら無理して言わなくていいですから」
「じゃあ今から山口のいいところ5個くらい言う」
「や、やめてください!わ、分かりましたから!」
「ほ、ほんとか?嘘なら俺はこのまま餓死することになるが?」
俺は必死に山口の肩を掴みブンブンと身体を揺らした。
山口は目をぐるぐる回しながら返事をしている。
揺れ動く前髪の隙間からたまに綺麗な瞳が顔を覗かせていた。
だがそれどころじゃない。
本当に必死なのだ。
このままじゃ間違いなくあのボロ屋で厄介ごとに巻き込まれるし何より食べ物がなくて死ぬ。
俺はこんなひもじい思いをする為にこの学校へ入った訳じゃないのに。
絶対何かがおかしい。
ーーーー
そんな訳で山口の家にお邪魔させて貰う事になった。
山口は普通に頭も良く真面目な性格で学年順位も良い方らしい。
詳しくは知らないけど。
しかも寮は俺の隣のこのくそ高いビルらしい。
今度日照権の問題で訴えるって脅せばポイント貰えたらするかな?
それはやり過ぎだよね。
今まで何回かすれ違ったらしいが俺は全く気が付かなかった。
さすがモブキャラ尊敬します。
学生証がキーになっていてかざすと扉が開く。
山口はこちらをチラチラ見ながら重い足取りで俺を招き入れてくれた。
すんません。
エレベーターで30階へと上がるみたい。
山口が30階のボタンを押すと扉が閉まる。
静かに上へ上がって行く。
見た目通り山口はあまり喋る方ではない為特に会話する事なくただ目線を合わせたくないのか正面の扉をジッと見つめていた。
これからお世話になるわけだしやっぱご機嫌とっておくべきだよね。
えっと〜なんか適当な話題っと〜。
「こんなとこに住めるなんて本当にこの学園すごいよね」
「そ、そうですね」
あれ?会話終わっちゃった。
沈黙が続く。
まだエレベーターの表示は8階だった。
「ご飯とかってどうしてるの?自分で作ったりとか?」
「は、はい」
山口はボソッと返事をする。
なんかこのエレベーター進み遅くない?
操作パネルのところに表示されているバージョンが明らかに最新式だった。
そりゃそうですよね。
ん〜特にエレベーターの故障とかでは無さそうだ。気のせいみたい。
またしばらく沈黙が続き30階へと辿り着き山口の部屋に入った。
女子の部屋は初めてだが全く緊張はしなかった。
山口が影の薄い女子ってこともあるけど……。
これが柚木とかなら心臓はバクバクだっただろう。
実際は分からんけどね。
「ど、どうぞ……」
中に入ると妹の部屋とは違い必要最低限の家具が揃えられているだけだった。
わずかなインテリも飾ってあるが年頃の女子にしてはややキラキラが足りない気もする。
……にしても山口、なんともモブみたいな部屋に住んでいるのだ。
素晴らしい。
俺は目を輝かせて部屋の隅々を見た。
お得用を中心にこの部屋は構築されている。
全く飾っていない素晴らしい家だ。
シャンプーや歯ブラシに家具雑品類もこだわりのない物ばかり。
洗濯物にブラジャーとか干してある事もない。
ちょっと何見てるのよこの変態!なんて理不尽な暴力や口撃をされることもなさそう。
この子なら間違いなく変な恋愛ルートが生まれる事もなくあわよくば食費も……。
「それじゃ山口さま……しばらくお世話になりま〜す」
俺は腰を深く曲げた。
「え、えぇ!?き、今日だけじゃないんですか!?」
山口は驚きのあまり尻餅をついた。うん、声のボリュームも出会ってから一番大きい。
よっぽど驚いたのだろう。
「いや、今月まじで厳しいんだって、しかもほらこの発言もなんかモブっぽくて良くない?主人公なら絶対言わないセリフだろうし」
「な、何のことだかさっぱり」
終始オロオロとしていて落ちた尻餅が上がっていない。
「あ〜こっちの話、それより今日のご飯なに?」
山口の顔が引き攣っていた。
だが俺は決心した。
この子は間違いなくモブキャラ。
特に物語に出る事もなくその他大勢の中でも目立たない人物。
彼女なら一緒に居ても問題ない。
俺の全て(衣食住)を託せる。
ここで俺は平和な学園生活を送る!
 




