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第十一話


 掃除を済ませた後すぐさま校舎へ向かった。


 出来る限りはあのボロアパートに居たくないしね。


 こんなに朝早くから家を出る生徒なんて多分俺くらい。


 帰りも出来るだけ遅い時間にしよう。


 滞在時間は短い方が余計な問題に絡まれずに済みそうだし。


 やっぱめんどくさいことに絡まれたくない系の主人公は詰めが甘いんだよね〜。


 このくらい徹底してフラグを回避する。


 自分から行動するべきなんだ。


 いつも巻き込まれてるだけ〜なんだとか。


 向こうから勝手に関わってきてくる〜とか。


 だったら行動しようよって俺は思う。


 結局巻き込まれたいんだよね彼らは。


 なんだかんだ言いつつも。


 だから俺はモブキャラになると言ったら徹底してモブキャラになるし。


 お金を手に入れるためならなんだってする。


 てな訳で今朝頭の中で練った作戦通り頼れる人に頼ろう。


 教室に入ると俺の隣の席の子は既に座っていた。


 早いね〜朝礼時間まで40分以上余裕あるのに。


 もしかして俺みたいに訳ありなのかな?


 後ろを通りカバンを机の中にしまう。


 どうでもいいけどカバンも机にしまうと言うよりは収納ボックス的なものがあってそこに入れるとスライドされコンパクトに収まるようになってる。


 ちなみに教室の扉も薄い自動ドアでけど音漏れとか強度とか凄いらしい。本当にどうでもいい。


 ……ん?


 まぁ……いっか。


 席に着き柔らかいソファーに身を委ねる。


 やっぱここが一番落ち着く〜。


 鞄からスマホを取り出しbankをタップする。


 そしてすぐにタスクを落とす。


 見るたびに落胆する。


 もうやだ。


 がっかりとした勢いでそのまま机に俯く。


 ポイントがなきゃ生きていけない……この下の人間に厳しいのも教育の一環なんですかね。


 そう思いながらため息を吐く。


 ……。


 ん?


 うん。


 ……。


 ん〜なんだろう。


 隣の席の女子がやたらとこっちを見て来ている気がする。


 まぁ大体こう言うのは男の勘違いで恥を掻くのがオチなんだけどね。


 教室に少しずつ生徒が入ってくる。


 まだうるさいグループでまとまってる系の人達は来てないから教室内はやたら静かさを感じさせた。


 人の出入りの瞬間に目線を感じ取ってるのかとも思ったけど……。

  

 でもこれは気のせいじゃない。


 俺が目線を配るとその子は機敏に視線を逸らす。


 はやいね〜首の筋肉痛くないのかな?


 前髪が長く目元は見えない。


 髪色はブラウンヘアーで、制服もビッシリと着こなしオシャレ感は無いが真面目そうな子だ。


 そんなだるまさんが転んだ状態を何回も続けた。


 振り向いては逸らされ振り向くフリをしたりとブラフをかましてやったりもしたけど視線は合わない。あ、今ちょっと合いそうだった。


 流石にこのやりとりを朝礼寸前まで続ける訳にもいかない。


 まぁ明らかに目立つような子じゃ無いしお隣さんと言う事で声ぐらいかけておこう。


 「あの〜何か用ですか?」


 「っん!……あ……」


 俺が声をかけると彼女は肩をピクンとさせ身体を縮こめる。


 何か喉に詰まらせたのかな?


 なんか凄い音が聞こえたけど。


 「あ……い、いえ……なんでもないです」


 「でも視線を感じるんだけど……」


 俺は彼女の顔を覗き込む。


 一瞬目元が見えた。


 大きな赤い瞳に垂れ下がった眉、隠していた分そこから覗き見える瞳は幻想的で綺麗な目をしていた。


 視線が合うとすぐにずらされる。


 あ、また一瞬あった。


 彼女は目を逸らしビクビクと震えていた。


 ……で?この子は何がしたいんだ?


 まさか実は俺が主人公で無条件にモテるみたいな展開じゃないよね?


 動機も軽くて特に理由もなく好きになる系の話あんま好きじゃないんだよね。


 けどまぁ俺はモブキャラだけどモテてしまったなら仕方ない。


 ふふっ、気持ちに応えなきゃいけないよね?


 俺が想像してるイケメンのキリッとした表情を彼女に見せつけるとようやく口を開く。


 「き、昨日……見てました……お財布を取られているところ……でも私は……見てるだけで何も出来ませんでした……」


 彼女のか細い声は震えていた。


 あ、その件ね。


 「なるほどね、でもそれって普通じゃない?あの場に居た人のほとんどが見てるだけだったでしょ?」


 「それは……そうですけど……私隣の席だったし……見ず知らずって訳でもないし……」


 う〜ん一体彼女が何を言いたいのかさっぱりわからないけどとりあえず助ける気はありましたよアピールがしたいって事なのかな?


 そんな事わざわざしなくてもいいのに。


 「別に知らぬ存ぜぬで良いでしょ」


 それよりクラスの人には俺が居たことが気づかれしまったか。


 完全なモブAになっていると思ってたが。


 面識ある人には一応俺も映ってたみたいだ。


 大半は大谷と本田に釘付けだったろうし。


 あと柔道部の田中。


 彼すっごい解説してたなぁ〜ほとんど覚えてないけど。


 でも俺の噂は特にされてなさそうだし良かった良かった。


 気がつけば教室にはもう人が埋まって来ていた。これで声かけられないって事はそう言う事だよね。


 特に興味なしと。


 「そ、そぅですか……」


 しかしまぁなんとも小さい声だ。


 教室の音でかき消されてる。


 特に顔でかのゲラ笑いがここまで響いてくる。


 名前は知らない。


 愛想笑いしている柚木さんが可哀想だ。


 「えっと、名前は確か……」


 「や、山口です……山口……亜衣」


 隣の席なのに全く覚えてなかった。


 どんだけ影薄いんだこの子は。


 とは言っても反対の席の男子も名前知らないんだけどね。


 と言うか柚木さん以外誰も知らん。あと担任の山本くらい。


 「そっか、俺は新庄 晶よろしく」


 「あ、はい……よろしくお願いします」


 山口は目線を合わせることなくそう言った。


 確かに綺麗な髪だが前髪伸ばしすぎじゃないか?


 もう少し切って目元を見せれば良いのに。


 あの時一瞬見えた山口の瞳が脳裏に焼き付いていた。


 ん〜あんま目立たなさそうな子だし。


 もしかして……。


 ワンチャンある?


 いや待て。


 そう言って早とちりして何人も死んできた人を見た。


 彼らの死を無駄にしてはいけない。


 そう易々と心臓を捧げては駄目だ。


 俺は調査兵団じゃないからね。


 でもまぁ?向こうから関わってきたら仕方ないよね?


 うんうん、全く……やれやれだね。


 俺のツイストサーブ見せちゃおっかな。


 その後は特に会話もせず朝のホームルームが始まった。


 ーーーー


 ここは地下労働施設。


 東京という狭い中で高くビルを作るのが主流だった昔とは違い、地盤を固める事に成功した現在では地下施設も多く作られる様になった。


 ここは24区全体を使っている地下労働施設。


 そこでは新たな出来事が起きていた。


 ここでは昔ながらの内職仕事を請け負い地道な作業をボランティア活動として行なっている。


 箸を袋に詰めたりサーバの管理や機械のメンテナンスなど様々な事をしている。


 今の時代では忘れ去られてしまった仕事などを生徒に教えたり勉学や運動能力の向上などを目的としている。


 「この辺りも随分進んで来ましたね〜1から作れって言われた時は一体何年かかんだよって文句も言ってましたけど、案外時間って経つもんなんすね〜」


 ハンチョウ(アゲハ)のもとに長年ここで過ごしている安田が声をかける


 「そうだなぁ、安田もここに入ってばかりの時はダメダメ!……でも最近は自分から進んで行動するようになったな」


 照れ臭そうに笑う安田。そして思い出したかのように手を合わせる。

 

 「そう言えばハンチョウ!もう一年がここに入ってくるらしいですよ〜なんでも学年二位の座にいといてデュエルをしかけて全ポイントを失ったとか!そんな馬鹿な奴もいるんですねぇ!」


 ドリルの音が地下を大きく反響させる。


 そのため二人の声は必然的に大きくなる。


 「ほぉ〜それは興味深いねぇ〜これから起きる一大イベントに彼も加わってくれればかなり大きな戦力になること間違いなし!……して名前はなんて言ったかな?」


 班長はタブレットを受け取り名簿を確認する。


 顎に手を当て深く唸る。


 丁寧にその表示された文字を読み取る。


 「本田……う〜ん、このスキルは少々厄介かもしれんなぁ〜、是非とも仲間に加えたいところだが……今は情報収集を優先させるべきか……うん、ご苦労、今日は全員ここまでと伝えておいてくれ〜」


 「わっかりました!ハンチョウ!」


 アゲハはタブレットに映る本田のスペックをまじまじと見ていた。


 一年でこのスペック……しかも強力なスキル持ちにして底知れないカリスマ性。


 しかもこれを負かせた相手が居るとすると今年の一年はやはり強者揃いという事になる。


 この間の新庄くんといい……。


 「ムフフ……これは面白くなるぞぉ!」


 アゲハの声とドリルの音が地下施設に響き渡った。


 ーーーー

 

 地下行きが決まった本田は意気消沈としながら荷物をまとめていた。


 学年二位のためもちろん住居は他と比べ物にならないくらいVIP待遇だったが一週間も経たずにお別れとなってしまった。


 だが本人はその事に関しては特に何も感じていない。


 あの日、大谷とのデュエルでの記憶が何度も何度もフラッシュバックしていた。


 シャワーを浴びガラス越しに映る自分の姿を見て前ほどの尖がない事を実感してしまう。


 高校生離れした筋肉に圧倒的な反射神経がある事を本田自身も理解している。


 そして何よりその場の空気感を支配するのが得意だ。


 「っくそ!」


 俯きシャワーヘッドから溢れ出る水が排水に流れていく様をジッと見る。


 なんで大谷に一発も当たらなかった……。


 ただの一発さえ。


 本田は嫌と言うほど感じ取ってしまった。


 大谷と言う自分より遥か高みにいる大きな壁。


 どんなに早く撃ち込んでも数ミリでかわされる。


 そして手のひらで踊らされ自分の無力さを教えられる。


 何よりなんで俺の独壇場に引き込めないんだ。


 俺の得意分野に持ち込めない限り大谷に勝つ事は出来ねぇ。


 なら俺は……一旦引くしかないのか。


 本田は己の鞘を抑えジッと耐える覚悟をした。


 本田はただ喧嘩が強いだけでなく学年二位の通り情報集めや知識を得る大切さもよく分かっている。


 「やっぱ世界は広いな」


 そう呟き歯を食いしばった。

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