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第七十二話

この回はやや重めな展開になってます。


苦手な方は読み飛ばしてもらっても問題ないです。



深い霧の中を犬掻きするように泳いでいた。


辺りを見渡せばどこまでも続く黒。


明らかにこの世界の空間ではない。


きっと私は死んだのだ。


最後までロクでもないやつだったし周りに迷惑もかけすぎた。


最後に彼女が見せてくれた笑顔はどう言う意味なのか。


きっと……ああ、やっと捨ててくれたとかそう言った負の感情を思っていたのだろう。


 まさか初恋の相手にそんな風に思われるとは……。


 私は産まれるべき人間ではなかったのだ。


 なんでこの世に生を授かってしまったのか。


 もっと早い段階で諦められれば。


 こんな思いなどしなくて済んだのに。


ーーーー


「今日までお世話になりました、このご恩は一生忘れません」


言ってしまった。


周りの目線が酷く刺さる。


私は頭を深く下げてその場を去った。


ここが唯一の生き甲斐だったのに……会社はなんとしても続けようと努力していたつもりだったのに。


いつもの階段を降りてエントランスから外へ抜け出す。


しばらく行き先もない道を適当にぶらぶらとして一つの公園にたどり着いた。


 公園も随分と減ったものだ。


 特に手入れもされていないボロボロで遊具には使用禁止のテープが貼られている。


 もうそう言う時代じゃないのだろう。


ブランコに腰をかけると懐からタバコを取り出し一口吸う。


「はぁ……これからどうしようか」


いつも逃げてばかりの私は誰かと本当に打ち解けた事がない。


中学の部活も辞めて高校も中退し……そしてこの会社も辞めた。

 

 高認試験に合格して大学卒業後までは全てが上手くいっていた。


 そのはずだったのに!


 手に持っていたタバコには火がついていたがそんなものお構いなしに握り潰す。


 それを投げ捨て再び新しいタバコに火をつける。


 この東京都のほとんどが24区に飲まれていく。


  この調子でいけばこの工場も飲まれてしまうだろう。


 あの大手企業で同期と共に頑張ってた時代が懐かしい。


タバコの吸い殻を落としその煙を黙って見ていた。


ゆらゆらと上空へ上がる白い煙はやがて視界から消える。


いつかのあの日を思い出した。


ーーーー


「だったらもう……うちの子じゃありませんっ!」


鋭い声で泣き叫ぶ親の前で私は正座をしていた。


私は高校に行かないと一言告げてその日から学校へ行かなくなった。


部屋にこもっていると親に引っ張り出され両親が深刻な顔で僕を見つめた。


「あと少しで卒業なんだ、もうちょっとだけ頑張ってみないか?」


私は無言で首を横にふる。


「何か学校で嫌な事でもあったの?」


どうせ言ったってそんなのは小さな悩みだと言われるだけだ。


それが分かっていた私は下を向きただ時間が過ぎるのを待った。


「何か言ってくれなきゃ分からない、どうすれば学校に行ってくれるんだ?」


「行かない」


私はようやく口を開きそう告げる。


すると母親は無言で立ち上がり台所から包丁を取り出した。


金属音が静寂を切り裂き鈍い音がする。


「だったらもう……うちの子じゃ!ありませんっ!」


包丁を振り上げ私の方に突き出す。


「おい待て、早まるなっ!」


「あなたは黙ってて!もううちの敷地を跨がないでちょうだい」


こうして私は家を勘当され行く当てもなくさまよった。


 だが私には一人で生きていけるほどの実力があった。


 小さなスーパーでバイトを始め余物の惣菜などで食い扶持を繋ぎ高校認定の試験に合格してその後大学へ。


 実力もあったお陰か私の下がり気味だったグラフはどんどん上へと進んでいった。


 卒業後に私は東京の一流企業へと入社。


 苦しい事も沢山あったが充実した毎日を送っていた。


 だがその会社は倒産してしまった。


 また一からやり直し。


 納得出来なかったが自分ではどうしようもない。


 路頭に迷った。


そこであったのが小さな工場の社長だった。


その社長は優しく僕に住むところと働き口を与えてくれた。


小さな悩みも黙って頷き優しい瞳で僕を見つめた。


こんなクズを目の前にどうしてそんな優しく出来るのか疑問だったが私は心底彼に甘えた。


それからは幸せだった。


何もかも自由で社長も親切だ。


だがまたあっさりその幸せは消えてしまう。


社長は食道癌で死んでしまった。


最後までそれを私には伝えてはくれなかった。


自分も苦しんでいる状況なのに私の愚痴に付き合ってくれた。


そんな社長の為に私は必死で働く事を決めた。


だが仕事の意見が合わずあっさりその意思は壊れてしまう。


そし私はすぐに会社を辞めた。


この時すでに私は死ぬべきだったんだ。


ーーーー


「あれ?もしかして柳田くん?」


私はその声のする方へ顔を向けた。


赤色のマフラーにピンク色のコートを羽織った女の子が俯いた私の顔を覗き込むように見ていた。


「ああ、やっぱり、ほら私だよ同じ高校に通ってた……って言っても柳田くんは途中でやめちゃったけどね」


 笑顔を向けてくる彼女に私は甘えたくなった。


 ただ彼女とは仲が良かった訳じゃない……。


 確か名前は……。


 「中村 咲さん」


 「おぉ!覚えてくれてたんだ〜嬉しいねぇ〜ところでこんなところで何してるの?」


 私は誰かに甘えたくて仕方がなかった。


 どこの誰でもかまわない。


 誰か……。


 誰でもいいから……。


ーーーー


 しばらくは咲の家でお世話になることになった。


 居心地良く彼女は私の話を親身に聞いてくれた。


 心身ともに弱りきっていた私にとって彼女は天使のように見えた。


 明るい笑顔。


 元気な声。


 他人の弱い部分を肯定してくれる。


 咲となら私はやり直せる。


 私がまだ生きているのはこの人を幸せにする為だ。


 そう思っていたのに。


「今日うちに彼氏が来るから押入れにしばらく隠れてもらっても良い?」


私は無言で頷き押入れの中で物思いにふけっていた。


とても気分が悪く人を殺したいと初めて思った。


彼氏が入ってくると彼女の身体を触りまくってる姿が襖の間から見えた。


何度もキスをして嫌がる彼女の口を塞いでた。


 「……んっ、ちょっと……待って……待っててば……」


 「いいだろ?咲?」


殺してやりたかった。


 憎かった。


 この世の全てを呪った。


だから私は逃げるように襖の隙間を閉じて耳を塞ぎ目をつぶった。


 どれくらい時間が経ったのか分からない。


 ただひたすら死にたいと思った。


 希望を持てばすぐに絶望がやってくる。


 世界で一番自分が不幸だと本気で思った。


しばらくすると彼女が私を起こしてくれた。


「ごめんね、変なところ見せちゃって」


「いや、私こそごめん、早めに出て行くから」


彼女と目を合わせなかった。


救いの手を差し伸べていた彼女の手を振り払ったのだ。


酷く醜い姿で私はその場を去った。


女なんて信用できない。


そうか。


高校行かなくなった理由もそうだったな。


時間が経ちすぎてしまったのかすっかり忘れていた。


もう全てが嫌になった。


終わらせよう。


何もかも。


私の正面に見えたのは踏切だった。


ーーーー


私はもっと早くに死ぬべきだった。


心の何処かできっとまで良いことがあると信じ続けてしまったばかりにこんな目にあったのだ。


誰にも気づいてもらえず誰に記憶されるわけでもない。


せめて一人でも覚えていて欲しかった。


その為なら私はなんだってする。


仕事だって続けたし部活だって辞めない。


勉強も運動も友達作りだって頑張ったさ。


最後に柄にもない事を言おうと思う。


 「何か成し遂げたかった」

  

 そう思ってゆっくり一歩ずつ進んでいく。


 何か小さいことでもいい。


 一歩……。


 誰かと一緒になにかしら。


 また一歩と。


電車の警笛が響く。


ああ、なんて長い五秒間なんだろう。


私は踏切に飛び出そうとしてそのまま後ろを向いた。


 手を引かれたのだ。


 まだ私に生きろと言うのか?


そこには彼女がいた。


私に最後の希望を与えてくれた彼女が。


表情は明るかった。


赤色のマフラーをしピンク色のコートを羽織っている。


彼女は今どんな気持ちなんだろう。


 「最後にさ復讐したくない?」


そんな事を言われた。

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