表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/116

第九話


 寮に着くとすぐ次元に呼び出された。


 さっきあんな事あってまた面倒ごとに巻き込まれると思うと気が重い。


 でもまぁ返事はいずれしなくちゃだし。


 部屋に唐揚げ弁当と財布を置き呼ばれるままに次元の跡をついていく。


 てか隣かよ。


 隣の部屋の扉を次元が開けると妙な空気感に汚染された。


 ん、この感覚は!


 ざわ……


 ざわ……


 新庄圧倒的な冷や汗!


 扉の奥から暗くジメジメした空気がゆっくりと肌を伝ってこちらまで流れてくる。


 部屋に入るとそこにはあぐらをかいた小太りのおっさんがいた。


 「おぉ!どうも〜このアパートの副班長のアゲハです、よろし〜く」


 肉のついたお腹にまんまるな顔。


 学生とは思えない容姿。


 完全に中年のおっさんだ。


 アゲハはニッコリと笑顔をこちらに向けている。


 次元は彼に親指を向けると渋い声で話す。


 「こいつはアゲハ、この寮では副班長だが地下労働では全体を取り締まっている立派な班長だ」


 やっぱ班長なんだ。


 地下チンチロとかやってそう。


 「いやぁ〜そんな事ないですよぉ〜あ、おちゃあ……いります?ンフ……ンフフ、これぇ美味しいんですよ」


 この独特な話し方がまさにその人そのものなんだが。


 アゲハは冷蔵庫を開けるとお茶の入った2Lのペットボトルを出した。


 「あ、そういえばワシが学校から戻る途中で何やら騒ぎがあったみたいですよ……今年の一年は威勢がいいですね」


 「そんな事あったのか新庄何か知ってるか?」


 俺は首をブンブンと横に振る。


 もちろん知らないフリをしとく。


 コトコトとグラスにお茶が注がれる。


 「地下でも噂になってますよ〜、今年の一年は優秀!ってね、いや〜ワシらの代なんかロクなのが居ない!なんて言われて面子がないですねぇ」


 「そうか、まぁそれはいいとして……そろそろ本題に入るとするか」


 アゲハはお茶をズズッと飲むと咳払いをした。


 「それじゃあワシの方から説明しますか」


 アゲハの言葉に次元は頷く。


 「まぁ一言で言うなら……革命!!ですかね、次元さんとこの下位の人とワシがまとめている地下労働の人間を集めて上位の奴らと戦争しようってんですわ」


 やっぱそうきたか。


 「もちろん勝算はある、ポイントも山分けだ、悪い話じゃ無いと思うんだが」


 「お断りします」


 「だろ?悪くない話だと思うんだがまぁもう少し聞いてく……」


 「「えぇ!!!!」」


 俺は話をぶった斬った。


 だって仕方ないじゃない。


 このままだと空気に流されラノベみたいな展開になりそうだし。


 「いやぁ〜まさかこんなにあっさり!普通はもうちょい話を聞いて質問して考える!ワシもびっくり!こりゃ一本取られましたわ!」


 「そうだぜ、いいのかよ新庄?かなり美味しい話だと思うしまだ俺らを信用出来ないってのも分かるけどよ……もちろんお前がポイント難民なのは分かってる、だからどう考えても美味しい話でしかないはずなんだが」


 いや、どう考えてもこの人選は負けるでしょ。


 特にアゲハさん。多分一面ピンで染められるよ。


 何より俺は目立ちたくないんだよね。


 初日といいさっきの財布の件もそうだけど何かとイベント事に巻き込まれている。


 これ以上厄介な事に巻き込まれるのはごめんだ。


 俺はモブとして平和に暮らす。


 変化を求める気持ちも分かるけど変わらない日常系が俺は一番好きなんだよね。


 けどここは演技の一つでもしておくべきかな?


 こいつにも色々あんだよ……的な展開がベストだね。


 つまり突然泣き始める。


 よしこれで行こう。


 「そうか……なら仕方ないなアゲハ、こいつは戦力としては加えられない、それでいいな?」


 「まぁ、仕方ないですよ、それにほらちょうど出来たみたいなんで食べてってください……食べれば気も変わるかもしれないし元気も出る」


 ハンチョウは重そうな腰を上げトースターから何かを取り出しそれを皿に盛り付けた。


 香ばしい香りが鼻腔をくすぐり黄金色に染め上げられたコロッケが。


 あまりのいい香りと見た目で我を見失いそうになったがなんとか堪える。


 これあげるから仲間になれと言われたらすんなり入るところだった。


 危ない危ない。


 「これはワシが作った特製ソース、これをコロッケの上に少しずつかけて」


 旨味が凝縮された濃厚なソースがかかりハンチョウから箸を渡される。


 溜まった唾を飲み込み目線を再びコロッケに向ける。


 箸でコロッケを掴むと揚げたてのような音が聞こえて来る。


 視線はコロッケに釘付けにされてしまった。


 俺は無心で齧り付いた。


 先程とは比べ物にならないくらい響くザクザク音にホクホクのジャガイモ、細かく刻まれた挽肉が食感を飽きさせずまた一口と誘われる。


 ソースの酸味も程よくあっという間に完食してしまった。


 「どうです?美味しいでしょお?……おやおや、泣くほど美味しかったみたいですねぇ」


 俺は思わず泣いてしまった。


 2日ぶりに食べたと言うスパイスがかなり効いているのだろうか。


 まぁ演技だけど。


 あとちょっと舌やけどしたかも。


 「こいつにも色々あんだなぁ……今はゆっくりしてけ」


 お、なんかよく分からないけどラッキー。


 まぁ俺の渾身の演技がこの二人の心に響いたって事だよね。


 迫り来る恐怖、やたらとイベントに巻き込まれそうになるも面倒ごとを回避しつつなんとか日常系ルートへの移行。


 だがそれもこれで終わりだ。


 一番のメイン展開っぽいルートを抜け出したのだ。


 これで明日からはひもじい生活から脱却を試みる平和な日常生活を送れる。


 さよならラノベルート。


 ただいま日常ルート。


 そして俺は出来るだけこの家に近づかない事を硬く誓った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ