高校時代・部活の先輩のMさんが、我が家にお見舞いに
ボクが風邪で学校を休んだ日、M先輩からメールが届きました。
調子はどうかとか、そんな内容だったと思います。
もう平気だと返信すると、今度は食べたいものがあるかを聞かれました。
ボクはどう返事をしようか少し迷いましたが、正直に『駅前のケーキ屋のチョコ味のシューアイスが食べたい』と書いて、メールを送りました。
当時は今よりはるかに個人情報についての意識が薄く、卒業アルバムに全員の住所や電話番号が掲載されているような時代。
部員の家の電話番号や住所はプリントにまとめられていて、お互いに知っていました。M先輩が来ようと思えば、ボクの家に来ることは可能です。
もしかしたら、先輩は家に来るつもりなんじゃ……?
ボクは困りました。その日のパジャマは、変なやつだったのです。
まあ、来てほしくないならそうメールすれば良いのですが、色々考えてしまいました。
もしかしたら既にシューアイスを買ってしまったかもしれない。だったら今さら断るのは悪い。
逆に、食欲があるか聞かれただけかもしれない。だとすると、ボクが変な返事をしたから、困っているんじゃないだろうか。
もう一回メールを送った方が良いかな。どうしよう……。
メールの履歴を見ながら一人で慌てふためき、時間だけが過ぎていきました。
――ピンポーン。
チャイムが鳴って、ボクは慌てながら二段ベッドから降りました。
今はインターホンやモニター付きが多いですが、当時のボクの家は音が鳴るだけ。もう、玄関まで大急ぎで行かなくてはならないのです。
古くなって見えにくいドアスコープから外を覗くと、見慣れた制服を確認。
ようやく扉を開け、M先輩を招き入れた頃には、ボクは息を切らしていました。そして、ハアハアと苦しそうにするボクを見たM先輩は、ボクの体調がかなり悪いのだと勘違いしてしまって。
M先輩に布団に促されながら、ボクは息が切れた理由を一つ一つ説明したのですが……。
「このハシゴが意外ときつくって、元気でも急ぐと疲れるんですよ。二秒で上って見れば分かりますよ」
最後に二段ベッドについて、こう言ったのがいけませんでした。
M先輩は言われた通りにハシゴを上がってくれたわけですが、学校帰りの先輩は当然制服であり、急いで上がるとスカートのすそが……。ボクは驚いて、思わずうつむきました。
しまった。セクハラしちゃったよ、どうしよう。
しかし先輩は、ベッドの上から無邪気に笑いました。
「これで疲れるの? 体力なさすぎ」
M先輩が怒っていないことにボクはホッとして、続けてハシゴを上がりました。
先輩は普段通りの笑顔でボクを寝かすと、ボクの顔の横にぺたんと座り、おみやげのシューアイスをむしりながら、ボクに食べさせてくれました。
でも、シューアイスを食べているというのに、ボクは顔面が熱くて。M先輩の太ももが間近に見えてしまうので、どうしてもスカートのことを思い出して、完全に顔が赤くなってしまっていました。
その上、シューアイスを食べるとき、たまに先輩の指まで舐めてしまって。失敗に失敗を重ねて、ボクは気が気じゃなかったです。
「眠かったら寝てね」
先輩は何度もそう言ってくれましたが、ボクの眠気は既に吹っ飛んでしまっていて。ただ、まだ嫌われてないんだなと感じて、そのたびに少し安心しながらお喋りを続けるのでした。