第3章 ないものねだり
こんにちは!それともこんばんは?
毎度お世話になっております、塚波です!
今回も引き続き、第3章を投稿致します。
なかなか仕事との兼ね合いで筆が進まず、
少しずつの投稿となっておりますがご容赦を。
さておき、第3章をお楽しみくださいませ!
第3章 ないものねだり
「……でね、この機体なら固定武装のレーザー砲とは別に実弾砲も翼の下についてるんだけど……」
スリスリ……
ズリ……ズリ……
「しかもね、パイロットスーツと、その上から装着するオーバーアーマーもあるから、いざとなったらロム本人が戦うこともできる仕掛けなのよ……」
スリスリ……
ズリ……ズリ……
「……ちょっと!なんでそっちに避けちゃうのよ!」
「いや、ミュートこそさっきから僕を押すからさぁ。狭いのかと思って」
「狭いはずないじゃん!こんな広いベッドなのに!」
「じゃぁどうしたんだよ、さっきから……」
3時間ほど前にチェックインしたホテルの自室でミュートと、今回のミッションに使用する機体の選定をするため、ベッドの上で二人並んで寝転んで『インデックス』を広げていたんだけど、ずっとミュートの行動がおかしい。
思い返せば、さっき終わった、昼食を兼ねたミーティング辺りまでずっと様子がおかしかったことを思い出した。
「あ……みなさん、ちょっとこっちに避難しましょ?」
ギラギラ光る陽射しに当てられて、僕たちはビーチバレーの真似事をしていた。
体を伝う汗と、肌に張り付いた白い砂。ボールとミュート達の弾む声が、波の音しか聞こえない浜辺に染み渡って行く。
そんな中、僕らが泊まる予定のホテルの方から甲高いエンジン音らしき機械音が聞こえるのに気付いた。
ちょうどトスをしようとしたミカがみんなに声をかける。
そのまま視線をやると、水飛沫を派手に撒き散らしながら水上バイクが僕たちを目がけて近づいてきた。
僕の隣で水上バイクを同じく見ているミュートの腕を掴んで引き寄せ、数歩、波打ち際から離れてやった。見ているとちゃんと減速しだしたので、危険なライダーでは無いと思うんだけど。
「ごめーん、浜辺に乗り上げるから、少し離れてねー!」
水上バイクのライダー、声からして女性だろう。彼女は揺れるバイクを器用に片手で操作し、空いた手でメガホンを作り僕たちにそう呼びかけた。
僕らが小走りに、作っていた円陣の輪を拡げる。すると水上バイクはちょうど僕らとミカ、ダグの真ん中辺りに水上走行のそのままの勢いで砂浜に乗り上げてきた。
「ごめんね、邪魔しちゃって。ちょうどさっきホテルの用意が出来たんだけど、折角だから呼びに来たんだ」
ライダーはぴょいっとバイクから飛び降り、僕とミュートに近づいてきた。
歩きながら後ろでまとめていた髪を解くと、真っ黒な髪がまるでマントみたいに潮風を受けて広がった。
オレンジ色のライフジャケットをポンポンとはたくとワイヤーフレーム化して霧のように消える。首まで締め切ったウェットスーツのジッパーをへそ当たりまで引き下ろすと、今まで余程窮屈だったんだろう、ピンク色のビキニブラをつけた大きな胸が、ビーチボールのように飛び出そうとする。
僕は思わず喉をゴクリと鳴らしてしまった。
「君が『ブレイバー』のリーダーかな?私が今回の依頼者、ヤヨイ-シロガネよ。ヨロシク!」
握手が差し出されて、僕は否定する事も忘れてその手を思わず握ってしまった。
「僕は『レッドブル』のドライバー、ヒロムです……」
ヤヨイさんは、日に焼けた小麦色の顔からこの砂浜みたいな真っ白な歯を覗かせ、ニシシと笑う。
「君があのレッドブルか!あ、じゃぁあっちの男子がオーナーね!ゴメンゴメン……」
彼女は僕の手を握って、ブンブンと上下に二度降った後、その後ろから歩き寄って来るダグたちに振り返った。
「……このおっぱい星人め……」
離れていくヤヨイさんの背中を見ていた僕に、隣のミュートが不満そうな声を漏らしたんだけど、僕は今の豪快なやり取りに呆気に取られてしまい、それに気を回す余裕がなかった。
「このおソバ?うどん?美味しいっすね!」
ダグが座卓に配膳された自分のソバをすすり、一口目から絶賛したのは、確かに今まで一度も口にしたことのない、ソバともうどんともはたまたラーメンとも違う不思議な麺料理だった。
「よかったー!それ、ソーキソバっていうのよー」
厨房の奥から油のはぜる音に負けないようヤヨイさんが大きめの声で答える。
ここは「ホテル バンドラン」の食堂兼唯一のテナント「居酒屋 烈空」の座敷だ。
和風ながらも何処となく異国情緒の店内の飾り付けにも興味があったけど、今はとにかくこのソバだ。甘めの澄んだつゆにシコシコの麺、どう言う訳か角煮のような豚肉が乗っている。
普段街中や、それこそミュートが作るソバやウドンとは根本からして違ってるんだけど、やたら美味しく感じる。一緒に並んだおにぎりは至って普通なのにこのソバだけ異様に別の国の食べ物みたいだ。
「海であんだけはしゃいでたんでしょ?いくら常夏のこの町でも身体が冷えてるはずよ。ソバで身体を温めて、握り飯と天ぷらで塩分をちゃんと補充するんだよ?」
そう言いながら厨房の暖簾をかわしながら出てきたヤヨイさんは、山盛りの天ぷらの乗った、車のハンドルよりも大きな皿を僕らの前にドンと置いた。
「さぁ!おかわりもあるから、ジャンジャン食べてね!」
そう言うと僕を見て、健康的なウインクを一つ飛ばしてきた。ドキッとした僕は、危うくソバを喉に詰まらせそうになってしまった。
「ほ……ほらロム、口にご飯粒付いてるわよ」
焦るようにミュートが僕のアゴを掴んで自分の方に無理矢理向けると、唇の端に残っていたご飯粒を取って、それをひょいパクと食べてしまう。
「ふーん……2人は付き合ってるの?」
空いている席に腰を下ろしたヤヨイさんが水を注ぎながら、そう聞いてきた。もちろん僕とミュートは恋人同士なんだけど、初対面の人に改めてそうだと説明するのが気恥ずかしい。
「え……あ、そ、そうです……」
「……なんでちょっと言いにくそうなのよ。コホン、そうですよ!私はロムの彼女ですよ」
「……なんでちょっと偉そうなんだよ?」
「悪い?」
「えーと、なんと言うか……」
何でか分からないがミュートとちょっとした言い合いになりそうな瞬間、ヤヨイさんが話を続けてくれて有り難かった。
「そっか……イイね!羨ましいな!」
「そう言うヤヨイさんは?」
ダグがおにぎりを頬張りながら気になっていた事を聞いてくれる。と言うのもヤヨイさんは左手に指輪をしているのだが、旦那さんの気配が全く無いのだ。
「うぅん。旦那が亡くなってこの方、全くね」
「あ……すいません……」
「あ……!気にしないで!もう5年以上も前の事よ」
バツの悪そうな顔で食べかけのおにぎりを見つめるダグにミカがそっと手を重ねる。
「あ、そうだ。食べながらでイイかから今回の依頼の内容を話しておこっか!うちの旦那も関係あるからさ!」
ヤヨイさんが本当に気にして無いように明るい声をあげる。ダグも気を取り直したみたいで、手に持ったおにぎりを一気に平らげ、ディスプレイを目の前に展開した。
「このバトルフィールド『龍が浜』なんだけどね……」
今僕たちが滞在しているバトルフィールド『龍が浜』は、ヤヨイさんが経営している「ホテル バンドラン」を筆頭に、他4人の共同経営で成り立っているプライベートエリアだ。
前も言ったと思うけど、基本的にバトルフィールドを作る事自体は無料だ。それこそ僕にも出来る事なんだ。
『龍が浜』はヤヨイさんの旦那さんの提案でビーチを中心に半径10キロ円のリゾートが展開している。旦那さんたちが目指したのは「いつでもマリンスポーツができる常夏のビーチ」だったんだ。
砂浜でビーチバレーや海水浴はもちろん、プログラムで自由に発生する波を使ってのサーフィン、ボートでのレジャー、ダイビングとおおよそ思いつくマリンスポーツを毎日楽しむ事が出来る楽園を作り上げたわけだ。
当然、それ程のオプションを後付けしたからには費用も時間もかかったみたいだ。お陰で出資者全員が財産のほとんどを手放したらしい。
それだけやった甲斐があり、全員ともこのバトルフィールドに住処を移して、一年のほとんどをこちらで過ごしているとの事だ。
ヤヨイさん夫婦はホテルの経営を。
少し離れたところでは居酒屋を経営する人、ダイビングショップを始める人、洋服屋を始める人、車屋を立てる人と……全員が通常空間での職を辞め、人生の拠点をこちらに移してしまったのだ。
金持ちの道楽と言えば聞こえが悪いかな。人生最大の趣味的集大生ってとこだろうか。
「でもねー、自分達の為に作ったビーチだからって、ほとんどお客さんを呼ばなかったのよ!」
ヤヨイさんは残念そうな顔で僕らを見渡した。
ゴミ一つない綺麗なビーチで、しかも必要な設備が完備されているこの環境は、マリンスポーツに没頭するには最適だ。これ以上は無いんじゃないだろうか。この施設を使って一儲けしないってのは、他の人から見れば勿体無いと感じるに違いない。
でも、なんか分かる気がする……。
きっとそう言う事じゃないんだろうな……。
不思議と、ただ息子に自慢するだけの為に膨大なコレクションを残してくれた僕の両親と同じ心境だったんじゃないかなと、そう感じてしまっていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
新キャラのヤヨイさんが登場です。
イメージとしては、元気はつらつなスポート大好き
のオバさんと言う扱いです。
エヴァのミサトさんとかが近いかもしれませんね。
まだ投稿も書き溜めも僅かですが、1stシーズン程の
長さをかける予定となってます。
少しでも面白い、続きが気になると思っていただけたのなら幸いです。
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